第32話 考察は位置を叫ぶ
「お、おい! オマエの触手でオレを殴れば制約石によって失格になるぞ!!」
クズルゴは衣服以外透明になったテクルに向かって焦りを見せながら、そう言うが・・・
「だからどうした。 私はお前を1発殴れればそれでいい」
その言葉はテクルに効果はない。
俺としては失格は困るのだが。
インビジブル・ハット自体と衣服は見えっぱなしなので位置は分かるが、触手の攻撃が視認できなくなるのはクズルゴにとって最悪なのだろう。
視認できるめくられている左袖は触手を動かせばそれに伴い連動して動くだろうが、触手は空中で軌道を曲げられるのでそこを見ていても意味が無い。
それを理解しているのだろう、クズルゴが後退しようとした瞬間。
俺は“位置”を叫んだ。
パァン!!
何かがブッ叩かれた音がする。
テクルが透明の触手でぶん殴ったのだ。
しかし、テクルが攻撃したのはクズルゴでは無い。
良かった、ラスイはしっかりと俺の意図をテクルに伝えてくれたようだ。
しっかりと、クズルゴを殴る前に俺の叫んだ通りの“位置”を攻撃してくれた。
俺が叫んだ“位置”とは、クズルゴが使役している先程から攻撃をいなしていたゴーストの位置。
最初はゴーストがいる事自体こじつけからだったが、検証と考察で存在する事とその位置までも割り出せた。
その位置とは、俺たちから見えない位置。
さっきから攻撃を防いでるのは透明化によるものではない別の能力だろう。
ゴーストは基本的に色付きによる〈透明化〉等の特別な能力は1つしか持てない・・・
さっきからの防御が透明化によるものではない、なら普通に視認されてしまうので俺たちから見えない位置にいるのは絶対条件だ。
その位置は、ゴースト自身も俺達が見えない位置。
ゴーストは未練に固執して生前の様な正常な思考が出来ないが単純な命令なら多少は出来ると思われる。
実際水色ゴーストは他参加者のカゴを命令されて奪いに来たのだろうが、カゴの引っ張り合いになっている時俺がシール草やインビジブル・ハットを被せた時も意に介さずただただ引っ張り続けていた。
俺が弾かれたのはクズルゴと目が合ってから・・・テクルによるあらゆる方向の攻撃は無理でもクズルゴ本人の死角から来た俺1人ぐらいならゴーストが俺を見て自身の意思で普通に弾けるはず。
ゴーストがクズルゴの死角をカバーしているのではないのなら、ゴーストは俺達が見えていない。
その位置は、クズルゴが何らかの方法でゴーストに指示を出せる位置。
クズルゴが見てからということは、クズルゴ本人が何らかの方法でゴーストに指示を出し迎撃している・・・そしてその方法はさっきから俺達にも見えていた。
その位置は・・・・・
・・・クズルゴの“背中”に顔をうずくめる形でピッタリと張り付いていた赤色ゴーストはテクルの触手に的確にぶん殴られ吹っ飛ぶ。
赤いゴーストはそのまま木に激突しめり込み・・・・特に声を出すわけでも無くそのまま動かなくなった。
「なっ!! 何だとぉっ!!」
先程まで汗の一滴もかいていなかったクズルゴが冷や汗を大量に流し始める。
「『クロイさんが叫んだ位置を殴って』。 ラスイにそうは言われたが、本当に叫んだ通り背中に張り付いていたとは・・・・クロイはなんで分かったんだ?」
透明な相手に質問されるのはなんか変な感じがするな。
「俺が横から出てきた時にコイツは直ぐに体をよじり後退した・・・・すぐに吹っ飛ばせるならわざわざそんなことする必要ない、だから背中に何かあるかなと思ってな」
「でもいきなり現れたからビックリして、反射でつい後ろに移動しちゃった可能性もあるだろ?」
「他にも理由がある。 それはゴーストへの指示の出し方だ」
「そういえばクズルゴさん、先程から何故かレイピアを振り回してましたね・・・・ あ、もしかして、指揮棒みたいに使う事でゴーストに指示を出てたんですか?」
確かに虚空に向かってレイピアを振るう姿は、音では無くゴーストを巧みに操る指揮棒を振る指揮者に見えただろう。
だが。
「それは多分フェイクだ。 検証で分かったがゴースト自身も周りが見えていない。 だからクズルゴだけを見る事が出来て俺達、つまり他が一切見えないのはおかしい。 ならばいくら指揮棒みたいにレイピアを振ってても指示は出来ん。 わざとらしくレイピアを振ってたのはゴーストは周りから俺達が見える位置にいるって思わせるブラフだろ」
「全然違いました・・・・やっぱり私って頭悪いんですね・・・・」
「すぐに自分を卑下するんじゃねぇ! ・・・・レイピアを指揮棒みたいに振ってたのはブラフの意味もあるだろうが、もう1つの動きを隠すためだったんだろ」
「もう1つの動き・・・?」
「わざとらしく大袈裟にレイピアを振ってたのは、体を揺らすためだ。 体の揺らしで背中に張り付いていたゴーストに直接迎撃するべき位置を教えていたんだろ。 この世には手話やモールス信号等様々な方法で言葉を使わずに意思を伝えられる・・・・体を揺らす強さや方向で指示してたんだな」
「確かに、体を揺らしてはいたがレイピアの方が分かりやすく怪しかった・・・・それでレイピアに何かあると思わせて実際の指示方法を隠してたって事か」
「そうだろうな。 ・・・・ある程度予想はしたが、やはり赤いゴーストか。 念動力が特徴の赤ゴーストに位置さえ伝えられればその位置に弾く、またはズラすような念の力をかければいいしな」
漠然とした情報が検証によってガッチリと繋がったのだ。
「こちらから見えず、向こうもこちらが見えず、振動を直接感じ取れて、クズルゴが隠したかった位置・・・・そんなの背中に張り付いてるぐらいしか思いつかねぇな」
「クロイ・・・お前、馬鹿に見えて頭いいのか?」
なんかテクルが失礼な事聞いてくる。
そんな風に俺達が防御のカラクリの答えに辿り着いていると、わなわなと震え出す男がいた。
この震えはゴーストに指示を出してるのでは無い、純粋な焦りと怒りが入り混じった感情から来ているものだ。
もちろん、その震えの主はクズルゴである。
「オ、オマエら呑気にお話とか・・・・オレを少し追い詰めただけで調子に乗りすぎじゃないか? そんなに呑気にお話してると・・・」
冷や汗だらっだらのクズルゴがそう言ったと思うと。
一瞬で背を向け。
次の瞬間猛ダッシュで逃げていった。
ちゃっかり気絶している赤ゴーストも回収している上に、しっかり周りの凹みに足を取られないようにしている。
・・・・・作戦通りだ。
「・・・これでいいのか? クロイ」
「サンキューテクル。 よく殴らず我慢してくれた」
「ラスイを通してさっき位置の件と一緒に伝えてもらったが・・・私がアイツをボコボコにするよりアイツを酷い目に合わせてくれるんだろ? なら我慢できるさ」
「あぁ、だって採集祭前に約束しただろ? ・・・・物理的ではない方法で叩きのめしてやろうってな」
・・・・あの時しておいた事が今から役立つことになりそうとは・・・俺も思っていなかった。
さて、計画通り・・・程々に見失わない程度に追いかけるとしよう。
ラスイの触覚探索でクズルゴの位置を把握したラスイの案内についていきながら、俺達は走り始める。
ここからが大詰めだ。
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