第31話 検証はカラクリを解る
ドゴォン! ドゴォン! ドゴォン!
触手が弾かれ、弾かれ、時にいなされ、また弾かれる
ずっと繰り返しているテクルは疲労が本格的に溜まってきているようで、少しずつだが触手の動きがどんどん鈍くなっている。
テクルは触手を空中で曲げたりしてフェイントをかけ軌道を分かりにくくしているが、やはり攻撃は全てクズルゴに届いていない。
クズルゴは以前余裕綽々な顔で変わらず大袈裟にレイピアを虚空に向かって振るっているだけだ。
「テ、テクルちゃん! そろそろ動けなくなっちゃうほど疲れちゃうよ!」
「・・・・・あのクソ詐欺師野郎を殴るまで止まるものか!!」
後ろから心配するラスイに返事はしながらも、テクルは触手を振るうのを止めはしない。
「殴るなんて出来っこない! そこのラスイが言う通り、疲れ果ててぶっ倒れるのがオ、チ・・・・?」
その時、クズルゴは違和感を感じたのだろう、言葉の勢いが急激に萎んでいた。
そしてクズルゴはすぐにその違和感の正体に気付いた。
「おい。 オマエ達2人と一緒にいた、あのクロイとか言う男はどこに行った? さっきまで触手女の後ろにいたはずだろ?」
そう、俺は今テクルの後ろにもラスイの隣にもいない。
俺が今いるのは・・・
クズルゴの少し離れた横の草むらから俺が飛び出す!
広場の後ろの草むらの中に紛れてこっそり迂回して隠れていたのだよ!
俺は、クズルゴに向かって至近距離まで手を伸ばして・・・
ズボッ!!
やべ!
テクルの触手によって周囲に出来まくった穴ぼこに足を取られ、クズルゴに手が届くあと少しと言った所でバランスを崩してしまった。
「・・・! オマエ、いつの間に横に!!」
さっきまで完全に他人事のようにしていた俺が意識外から接近したのを見て驚いたクズルゴは体をよじり、俺から離れるように少しだけ後ろに移動する。
そしてその直後、俺は腹部に強い衝撃を受け後方に吹っ飛んだ。
幸いさっきまで俺が隠れていた横の草むらに吹っ飛んだことで幾分か衝撃がやわらいだが・・・・
腹部に来た衝撃はまるで屈強な男に本気で腹パンされたかのような威力だ。
「うごぉぉぉぉぉぉ! 腹がぁぁぁぁぁぁ! 痛ぇぇぇぇぇぇ!」
テクルに借金をして金欠になったことによって朝飯を抜いてて良かった・・・・朝飯食べてたら全て吐くことになっていた。
それにしても痛い・・・・痛いが、俺は今の検証でかなりのことが分かった!
まず、やはりさっきから触手を防ぎ、俺を吹っ飛ばしたのはゴーストによるものだという事を確信した。
触手をいなす、弾くのは制約石に自己防衛と認識されるかもしれない。
だが今俺を吹っ飛ばしたのは確実に他参加者への攻撃として認識されるはずだ。
それなのに制約石が反応してないという事は、確実に本人の何らかの魔法ではなく使役したゴーストの能力による間接的なものなのは確定だ。
そして、そのゴーストが防御する条件は・・・・
クズルゴ本人の視認だろう。
クズルゴは先程までは触手を割と余裕がある距離で全て防御していた。
だがしかし俺がいきなり横から来た時にはかなり近くまで接近を許していた、俺の手が至近距離まで到達する程に。
そして、俺とハッキリと目が合った直後に俺は吹っ飛ばされた・・・・つまり一定範囲内に入った相手を事前に口頭で指示されたゴーストが自動で迎撃、とかではないのも判明した。
少し前に言っていた、何もしないでも防げるというのはやはり嘘・・・・ゴーストに指示を出しているという行為を隠す為のブラフだ。
クズルゴが近づかれたくないものを視認し、指示を出す事でゴーストが攻撃を防いでいる。
意識外のもの含め全てクズルゴの視認が必要・・・・これはつまり、ゴーストがクズルゴの死角を常に監視している訳ではないという事だ、何ならゴーストは周りを見えていないという事でもある。
ゴーストの防御がクズルゴの指示頼りというのは、そういう事だ。
・・・・そして、その指示方法も分かった気がする。
あの大袈裟な動き・・・・・
「ラ、ラスイィィィ! あ、れ、をぉぉぉぉ!」
激痛に悶えながらも思考はしっかりとし、俺は左手で腹を抱えながら。
先程ラスイに説明したことを実行させる。
「分かりました! テクルちゃん、ごにょごにょ・・・」
まだ触手を振り続けているテクルの耳元で、俺の先程言った説明をラスイが小声で伝えている。
「な、何だ? 何をする気だ?」
さっきまでただテクルの後ろにいただけの俺とラスイが急にアクションを起こして何をしようとしているのかとクズルゴは少し動揺しているが・・・・
「い、いや。 オマエらが何をしても俺には到達しない。 何をしても全て無駄だ!」
直ぐに気を持ち直したようだ。
しかし、気を持ち直しても意味はない。
「じゃあ、テクルちゃん。 クロイさんから貰ったコレを被って!」
ラスイは俺が渡しておいた・・・ピンク色の帽子をテクルに被せる。
水色ゴーストの時にテクルがぶっ叩いてしまったが・・・機能は壊れていなかった。
水色ゴーストの時は、帽子自体が透明にならないというデメリットを利用していたが・・・・今回は本来の機能を活用する。
そう、それは[インビジブル・ハット]。
俺が持っておいた物だが、防御方法が分かれば何かテクルの攻撃を当てるのに役に立つかもしれないと思い渡しておいたら・・・大正解だった。
まぁ、クズルゴの指示が必要ならこの機能役立つのでは、程度の考えだったのでここまで綺麗にクズルゴの防御対策として成り立つとは思っていなかったが。
テクルは衣服を残して体が透明になっていく。
そして今まで攻撃に使っていた“触手”も当然、身体の1部であって。
「クズルゴォ・・・・・ さっきは透明となった水色ゴーストを使ってカゴを奪おうとしぃ、今も見えない何かによって攻撃を防ぎ、あまつさえ俺を攻撃したぁ・・・・ な、なら・・・・今度はお前が不可視のものに襲われる恐怖を味わえぇぇ!」
俺は腹をさすりながら、クズルゴにビシッと指差し言ってやった。
透明になっていく触手を見て・・・クズルゴはハッキリと焦りの表情を浮かべる。
この反応。
やはり視界に捉えなければ防御出来ないのだろう。
さて、ここから一気に・・・・畳み掛けよう!!
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