第30話 情報不足は考察を停滞させる
今、状況は停滞している。
テクルはずっと触手をクズルゴに向けて様々な方向から振るっているが、それらは全て到達せず、何らかの力で弾かれたりズラされたりしておりそれの繰り返しで若干の疲れが見える。
クズルゴ本人は涼しい顔をして先程からぐったりしている水色ゴーストを左手で抱えながら右手でレイピアを虚空に向かって振り続けていた。
今の所互いにダメージは一度も受けてないが、どう見てもクズルゴが優勢である。
「ははっ! その気色悪い触手・・・・魔人の特徴である異形の部分だろ? 体の一部である以上、魔力は使わずに行使できるが当然体力は使う! その触手を振れなくなる程疲れたらこちらの番だ! さて、オマエはいつまでこの攻撃を続けられるかな?」
「・・・・・・・」
クズルゴの自信満々といった宣言に対してラスイは触手を振り下ろすことによって回答し、再びズラされ地面に激突。
何回も地面に激突してるせいクズルゴを中心とした周囲の地面が何ヶ所もボコボコに凹んでしまっている。
しかしこの男、何も言わなくても良いのにわざわざどのような意図で攻撃をいなしているかを宣言している。
詐欺の時も別に何も言わずにラスイの前から金だけ取ってトンズラすればよかったのにわざわざ説明してたり・・・・自分の考えを他人に聞いて欲しいかまってちゃんタイプの人だな。
「クロイさん。 思案している所すみません。 聞きたいことがあるのですけど・・・・よろしいでしょうか」
「ん? あぁ、よろしいよ」
「ありがとうございます! あの、さっきからクズルゴさんはテクルちゃんの触手をずっといなしているのに特に負担がかかっている様子が見えません。 ど、どうしてでしょうか」
「いや、俺も知らんけど・・・・ ちょっと待て、考えてみるから」
ラスイの質問の通り、確かにテクルはかなり汗をかいてきているのに対し、クズルゴは遠目でも汗の1滴すらかいているように見えない、挙動的に実際疲れていないだろう。
自動で近くに来た攻撃を迎撃する魔法だったとしたら、そんな便利な魔法絶対に大量の魔力を使う。
魔力の急激な減少は体力に響くので違うはずだ。
じゃあやはり屍霊術師らしく使役したゴーストの力を使っているのだろうか。
使役はゴーストに限らず使役対象と相性が良ければ殆ど体力を使わずに出来るらしい、ならば今度もあの水色ゴーストと同じ能力の透明化したゴーストが動き回って防いでいるのだろうか?
だが、俺の知識ではゴーストとは死んだ元の人間の影響を大きく受ける存在。
人の魂が未練でゴーストになる時には、見た目、正常な思考能力を失い未練に固執する、〈浮遊〉や〈非実体化〉などのゴーストの基本能力や〈透明化〉等の稀に得る能力、生前の魔法が使えなくなる以外の生前からの変化は基本無い。
つまり、力や速度等の身体能力は元の人間にかなり影響される。
という事は、だ。
元の人間がよっぽどのムッキムキじゃなかった限り体で触手を受けたら、さっきの水色ゴースト同様潰されるだろう。
いや、訂正だ。
瞬間的に猪潰せるやつの一撃は生前ムッキムキでも防げず潰されるだろう。
つまり透明化したゴーストが四方八方から振り回される触手をフィジカルで全て受け切る事は無理、というか全てで無く一発でも多分無理だ!
じゃあ他の能力のゴーストか?
だが何の能力かを考えるには、そもそもどうやって迎撃しているかのカラクリが分からないと答えは出なさそうだ。
俺が先述した通りゴーストと屍霊術師は使役するされる関係であっても〈念話〉、つまり思考するだけで会話出来るテレパシーの様なものは出来ないらしい。
しかしクズルゴはさっきからゴーストに話しかけて指示をしている様には見えない。
ならばと、俺がさっき考えていた水色ゴーストのように指示なしで独立して動いている可能性を考えるがそれも違う事に気付いた。
ゴーストは単体だと未練に固執するという点をすっかり忘れていた。
とすると水色ゴーストも完全に独立して離れて行動してた訳では無く、事前に指示されていた通りに動いていただけかもしれない。
結果的に指示は必要という結論に至る。
ならば水色ゴーストのように事前に口頭で『オレを守れ』などの指示をされていたとか?
でも未練に固執し正常な思考で判断出来ないゴーストが指示があるとはいえここまで完璧にテクルの攻撃を全ていなせるのか?
考えがまとまらず、全てが推測の域を出ない。
そもそもクズルゴがゴーストの能力で防いでるという前提だって屍霊術師だからという漠然とした半ばこじつけのような理由だ。
このままでは、テクルの攻撃を全て防ぎきられ反撃され・・・・
・・・・・・
・・・・・・・あ。
俺はここでとある母の言葉を思い出した。
『明確な事がよく分からない謎に直面した時、まずは綺麗で華麗に推理とかでは無くこじつけから始めるんだ。 私達は何でも解る名探偵じゃない、何でもいいから考えの始点、きっかけを無理矢理でも作るんだ。 考えの始まりがなきゃ、答えには辿り着けない。 そのこじつけと現実の実際の物事と絡めて考えていけばこじつけが、最初はこじつけだった真実になるかもしれない それでも全容が分からなかったらーーー』
クズルゴは何故わざわざ攻撃を防ぎ・・・・テクルの体力切れを待っている?
クズルゴの最初攻撃をズラした時テクルに言っていた、『オレが何もしなくとも・・・・・その攻撃は当たらない』という言葉。
確かにクズルゴはこれといった意味があるような行動をしておらずその場で立っている『何もしていない』状態。
だが、何もしてなくても攻撃を防げるからといって本当に何もしない理由はない。
何もせずに攻撃が防げるなら、テクルに突っ込んで直接攻撃すれば良い。
長引けば長引く程、他参加者が夜行性の魔物に偶然見つからずここまで来て、戦闘を見られ受付に報告されるかもしれない、
そうなれば不利なのは死体の操作でこの採集祭自体を妨害しているクズルゴだ。
だがクズルゴはわざわざ攻撃を全て受けて、攻めの体制に入らない。
早く決着をつけねばマズイのにクズルゴは何もせず動かない・・・・いや。
“何かしてるから動けない”んじゃないか?
何もせず防げるのは嘘であり、あくまで何もしていないように見えるだけで実際は“何か”しているから動けないだけでは?
だからテクルを煽り、“何か”して防ぐ必要が無くなる相手の体力切れを待ってから反撃しようとしてるのだろう。
体力が減ってないから魔法では無い。
ならばその“何か”は・・・・『ゴーストに指示しているから』としか今の俺には考えられない。
じゃあ、その指示方法は?
クズルゴはただレイピアを振るってるだけで・・・・待て、なんで関係ない所に振ってるんだ?
・・・・・あからさまにレイピアを振ってるなぁ。
これは多分・・・・・
再び母の言葉が引っ張り出される。
『それでも全容が分からなかったら、それは答えへの道の素材不足。 こじつけはあくまで多少のガバを埋めるだけ。 こじつけだけの道が辿り着くのは推論のみの見当違いな間違った答え。 だから、実際にーーー』
「よし、ラスイ。 もうこれ以上考えても見当違いな間違いしかならないからーーー実際に検証する」
「了解です」
情報が漠然としすぎていて疲労皆無迎撃の正確な仕組みが分からない。
なら検証だ、クズルゴの能力を色々知るために・・・少しだけ体をはるとしよう。
・・・ちなみにテクルは、未だに無言かつ無表情でクズルゴに向かって触手を振るっていた。
普通に怖い。
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