第26話 目印は機能を発揮する

 俺がこの採集祭に参加した理由・・・・それは限定価格になった〔フオンのテブクロ〕をお婆さんから買う為にしたテクルからの借金を優勝して返済する為だ。

 そして、そもそもフオンのテブクロが限定価格になったのは俺の熱意もそうだが、お婆さんがつけてきたとある条件を呑んだからだ。


 1つはその日が終わるまでに現金を用意すること。

 そして、もう1つの条件は・・・・・フオンのテブクロ以外にもう一つ他の商品を買うこと。


 俺はあの時持ってたなけなしのお金で買える中で一番使えそうな物を買った。

 それは、何かに使えるかと思って俺のズボンの左ポッケに突っ込んで持ってきている。


 その道具は・・・・


 俺はさっきシール草を貼った時と同じ要領で『見えない何か』に近づき・・・・動き回ってるのに変わりはないので少し手こずったが、その道具を『見えない何か』に被せることに成功する。


 その道具は・・・・見た目はどぎついピンク色のシルクハット。

 このピンクの帽子、その名も〔インビジブル・ハット〕は被せたものを透明に出来る。


 しかし、これだけのアイテムなら意味はないだろう。

 何せ相手は最初から既に透明だ、これだけでは被せる意味が皆無である。


 しかし、この帽子にはデメリットがある。

 それは、どんな手段を講じても帽子自体は絶対に見えっぱなしになる、つまり透明にならない性質を持つというもの。


 透明にならない以上、しっかりと目印の役割を果たすことが出来る!


 「よしテクル、あれが目印だ! 今度こそ消えない! 上手く狙ってくれ!」


 インビジブル・ハットはしばらくしても見えなくなることはなく、フラフラし続けてもしっかりと視認ができる。


 テクルはその帽子の下にいるだろう『見えない何か』の動きをじっと見て・・・・


 「覚えたぞ、動きのパターン」


 目印によってしっかりと動きを捉えたテクルは落ち着いた声でそう呟くと。


 バゴッッ!!!


 何かが叩き落とされたような音がしたかと思うと。

 気付けばもう、既に触手が振るわれた後だった。


 触手で上から叩かれたことで『見えない何か』が地面に激突した事による地面の小さな凹みが生まれていた。


 ・・・・上から叩いたという事は、当然目印として被せたインビジブル・ハットごと潰れているが、透明化の機能とかは壊れてないだろうか。


 「明日も〜きっ〜とい〜い〜天気〜♩ ・・・・あ、自分の腕が見えます! カゴも見えます!」


 ずっと奇妙な歌を歌ってたラスイの姿とカゴが見えるようになる。


 『見えない何か』が叩き落とされ、離れたことによって透明の伝播が切れたのだろう。


 気付けばもう、既にテクルがラスイに突進するように抱きついていた。


 「ラスイーーー!! ずっとしっかりカゴを掴んでてくれてありがとう!! そのおかげで逃げられずにここに見えない敵が留められた! 頑張ったねぇぇぇ!!」


 「ふふふ、こちらこそ倒してくれてありがとう」


 2人がイチャイチャし始めたので目を逸らし、俺は凹んだ所に目を向ける。

 すると、その凹みに埋もれている『見えない何か』が徐々に姿を現していた。

 どうやら離れたラスイやカゴだけで無く、本体自身も透明化が解除されたらしい。


 先程からカゴを奪い取ろうとしていた浮遊する不可視の存在、『見えない何か』の正体、そいつは・・・・・


 「ゴースト・・・・?」


 そこに気絶し横たわっているのは、人間の幼児程のサイズをした何かが入ってるかのような膨らみがあるヒラヒラした水色の布にチョコンとした出っ張りのような可愛らしい手を持つ見た目をしている魔物、[ゴースト]だ。


 テクルにセクハラしたのは透明化してた事も考えて、十中八九こいつだ。

 ゴーストは全体的にイタズラ好きらしいからな。

 このゴーストのせいで俺は冤罪で死にかけたのか・・・・カゴ強奪未遂に更に罪が追加されたな。


 ラスイの触角に反応しなかったのは、ゴーストは死から生まれる命を持たない存在だからだろう。


 ・・・・・なぜゴーストがこの森に?

 ゴーストは命を持たない、故に存在が薄っぺらのぺらぺらで希薄だ。

 どれくらい薄っぺらいかと言うと・・・・特に日光だが光全般に弱い、綺麗な水には近づけない、そよ風で吹き飛ばされる、そもそも生命溢れる大自然では存在を保てない。


 なので存在するためには、依代が必要なのだ。

 依代は、人の負の感情が強くこもり定着してしまった物、死者と深い縁を持つ者、屍霊術師と呼ばれるゴーストを使役する存在などがある。

 ゴーストは依代に取り憑く事で自身の存在の本質をその依代に預け、弱点を一部克服出来るようになるのだ。


 しかし、今までこの森にゴーストがいたという話は聞いたことがない。

 なぜならこの森は様々な命に溢れている、生命豊かなこの森ではゴーストが存在するための依代が自然発生するとは思えない。

 依代が無いなら、ゴーストが出てくる事もないはずだ。


 可能性としては・・・・依代である物を外から持ち込むことで誰かが連れ込んだ、か?

 或いは物ではなく者の可能性もある。


 ・・・・そう言えば確か。


 俺はラスイに話を聞くことにした。

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