第25話 不可視は不可視を伝播する
突然ラスイとカゴが見えなくなり、焦る俺達。
しかし見えこそはしないが、この場に居る事だけは間違いない。
先程から変わらず、ラスイは引っ張り合いで止まった状態を維持できてないのだろう・・・・・フラフラと動き回ることによって生まれる足音は聞こえるのだ。
「な、中々力が強い・・・・あれ? わ、私の手はどこですか?」
一見何もいない所からラスイの声がする。
どうやらラスイ本人も自身の感覚はいつも通りみたいだが、俺達と同じで透明になっている自分の姿が認識不可となっている。
違和感は感じないし普段通り行動できるが、自分の姿は認識できない透明人間がラスイ現在の状態のようだ。
「ラスイ、絶対に手を離すなよ! 今はお前がそのままずっとカゴを掴んだまま声を出していれば何となくの位置が耳で分かるが、もし手を離したら透明になったカゴの位置が完全に分からなくなる!」
「わ、分かりました! え、えっと、ずっと声を出す・・・・そ、それじゃあ歌います! 今〜日はと〜〜ってもい〜い天気♪︎」
ラスイは俺の指示通り声を出す・・・・というか歌い始める。
これで見失いこそしているものの、聞き失うことはないだろう。
歌が聞こえる所からカゴとラスイの大体の位置は把握できるようになったな。
・・・・・ラスイの歌ってかなり独特だな。
「よしテクル! お前の触手でカゴを引っ張ってる『見えない何か』を叩き落とすんだ! 見えてた時のラスイとの力の拮抗具合から考えるに、カゴを挟んだラスイの向かい側を引っ張っているはずだ! ラスイの声を頼りに上手い具合に『見えない何か』の位置を計算して狙ってくれ!」
「む、無理だ! 声だけでそこまで正確な位置は狙えない! いや、攻撃を当てる事自体は出来そうだが・・・・同時にラスイやカゴに当たる可能性が大きい! もしラスイに当ててしまったら私はショックで死んでしまう!」
コイツ、俺には平気で触手を使って絞め殺そうとしていたのに・・・・・
だが実際問題、音程の外れた独特なラスイの歌だけではカゴを奪おうとしている動き回ってる『見えない何か』にのみ綺麗に攻撃を命中させるのは難しいだろう。
やはり音による耳印だけで無く、リアルタイムでの動きをしっかりと目視で確認出来る目印が必要だな・・・・よし、いい事思いついた。
俺は自分でぶちまいてしまった植物の内にあったある物・・・・刺激すると裏側に粘着性の高い液体を出す[シール草]という草を拾う。
それを揉み、ラスイの声がする方に近づく。
そして耳を頼りに、少しだけズレた位置を狙ってシール草を貼り付けようと試みた。
すると、虚空しか見えない所で、シール草越しに何かに触れた感触を覚える。
手を離すとシール草は空中に浮かんで・・・・いや、『見えない何か』に貼り付いたのだ。
「ラスイ、俺が今貼ったのはお前じゃないよな?」
「そうな〜の、と〜って〜もいい天気〜♩ ・・・あ、はいそうです! 私から見た感じの距離では、カゴがあると思われる位置でもないので、カゴを奪おうとしている『見えない何か』に貼り付いてます!」
俺はしっかりとラスイでもカゴでもない、『見えない何か』・・・・不可視の存在に貼り付けた事を確認し、指示を出す。
「よし、テクルやれ!! これではっきりと狙う対象の位置が判るだろ!」
「よーし、動き回ってても目に見えるなら楽勝・・・・あれ!? おい、目印が見えなくなったぞ!」
そのテクルの言葉を聞くと、確かに直前まで『見えない何か』の動きに伴い空中を浮いていた貼り付けたばかりのシール草が見当たらない。
既にシール草も不可視となっており、目印として機能しなくなっていたのだ。
「成程。 カゴ、中の植物、ラスイが順番に透明になっていって更に、追加で貼ったシール草も透明になったっていう事は、だ。 多分『見えない何か』に触れているもの・・・・いや、それだけじゃ無くて、触れてるものに触れる等の間接的な接触でもそれが透明になっちゃうんだろうね! ・・・・マジかよ!!」
不可視を伝播させる・・・・なんだそれ、目印が付けれないじゃねえか!
テクルの触手攻撃で耳だけを頼りに攻撃したら多分確実にラスイを巻き込む!
そして俺は見える見えない関係なく戦闘能力が無い!!
「ど、どうしよう!!」
ラスイが現在進行形で何かの影響を受け透明化している為、友の身を案じてるテクルが非常に慌てている。
目印、何か確実に位置を把握出来る目印さえ付けれればテクルの触手を当てることが出来るというのに!
なのに何かをつけたとしても、全部透明になってしまったら意味がない!
何か・・・・・他に何かこの状況を打破出来るものはないか!
もう俺が直接『見えない何か』をカゴから剥がす・・・・いや、先述の通り俺は戦闘能力無しデバフだけの男!
『見えない何か』の正体が不明なのに不用意に剥がそうとしたら反撃されて死ぬかもしれん!
さっきシール草貼る為に近づくのだって内心ビクビクしてたんだからな!
だからと言って、ラスイに当たるかもしれないのを覚悟で触手攻撃などは論外。
テクルの触手は咄嗟に猪1匹叩き殺すことが出来る威力、もしそんなの当たったらラスイ死ぬぞ。
そもそもトラウマ克服によりラスイ大好きに磨きがかかってるテクルはどんな状況になっても『見えない何か』だけを攻撃出来る状態にならなければ絶対に攻撃をしない。
ど、どうすれば・・・・!!
・・・・・・・
・・・・・・いや、待てよ?
確かあったな。
確実な目印になれる物が。
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