第22話 イケメンは注意を喚起する

 「あれぇ〜? なぁ、おれらのカゴの中ってこんな少なかったっけ?」


 「え、そうか? ・・・・・気の所為じゃね?」


 「えー? なんか減ってる気がするけど・・・・気のせいなんかな」


 カゴの植物の減少に、ついぞ気付かなかなったとある参加者達。

 それを尻目にこそこそと草むらに身を潜めながら撤退するのは、俺とテクルの二人だ。

 俺の手が抱えているのは、他参加者から掻っ払ってきた数多の植物。


 先程ラスイと別れた俺達二人は他参加者を見つけては、こっそりカゴから植物をぶん取りまくっている。

 俺が少し離れた所でわざとらしく音を立てて、それに他参加者が意識を向かわせる。

 その間に別位置に待機させたテクルが、伸縮自在な触手を巧みに使い遠くから植物を掠め取る。

 この方法がかなり上手く行く。


 実際今さっきの他参加者は1人は気づきかけていたようだが・・・・結局気の所為という結論に至ったしな。


 あと上手く行った要因としてかなり大きかったのは・・・・テクルの手際が異常に良かったことだ。


 「ふふふ、さぁ。 次の参加者を探しに行こう」


 なんなら途中からテクルの方が俺より積極的になり、立案した俺ではなくテクルが主体になっている。

 その結果、俺は音を立てるだけの囮役兼荷物持ちとなっていた。

 今テクルは植物を奪うのに忙しく、植物を持つ暇がないのだ。


 しかし・・・少しずつ少しずつこっそり奪っていくとかなりの量になり、ついに俺の両手だけでは抱えきれなくなってしまった。


 「おいテクル、流石にこれ以上は持てないぞ」


 俺の腕で持てる量の限界をテクルに伝える。


 「なんだと? まだいけるだろ! ほら見ろ、ここにも他参加者のものと思われる足跡がある。 しかもこれは女性用の靴3足分・・・・女性3人組の参加者はまだ見てない! つまりまだ取ってない参加者だ! 取りに行こう!」


 どうやらテクルは根性論がお好きな様だ。

 まぁ、工夫すれば・・・・まだギリギリ持てるかもしれないし、ここは無理に嫌がって機嫌を損ねさせるのは得策ではない。

 忘れてはいけない、俺はテクルに10万の借金があることを。


 あと、量の限界の話に加えてもう一つ言いたい。


 「お前・・・・なんか楽しくなってないか?」


 「・・・・そんなことはない」


 妙な間が空いたな。


 それにしても、ラスイはまだか?

 俺達が離れる前の採集スピードなら、もうカゴが満杯になってるはずだ。

 満杯になったならラスイが俺たちの所に向かっているはずだが・・・・遅い気がする。


 「ん・・・? なぁ。 あそこ、おかしくないか?」


 俺がラスイに関して違和感を感じていると、テクルが随分曖昧な事を言ってくる。


 「何がだ?」


 テクルは実際に見てもらった方が早いと考えたのか、返事をせずに駆け足で少し進んだ。


 そしてテクルが違和感を感じた位置に着いたらしく、立ち止まる。

 俺がそこに近づくと・・・・成る程、確かにおかしいと思った。


 目の前にあるのは、半径1メートル程の広さがやけにモコっとなっている沢山の枯葉。

 その盛り上がっているかつ大量に集まっている枯葉はいかにもなにかを覆い隠しているといった様に見える。


 その枯葉をテクルがどかすと、そこにあったのは。


 立派な角を持った猪型の魔物、[ツキヤブリ]が横たわっている姿だった。


 「コイツ、ツキヤブリじゃん!」


 初対面時、テクルがクリアしていたクエストがこのツキヤブリ討伐だったはず。

 しかしテクルが討伐したことがあるといえ、夜行性の危険な魔物であることに変わりはない。


 俺は警戒し少し後ずさるが、その必要は無かったようだ。


 「こいつ・・・・死んでるぞ」


 だって、このツキヤブリ・・・・・既に死んでいるから。


 死亡を確認したテクルがツキヤブリに近づく。

 俺とテクルがこれが死体だとぱっと見で気づけなかったのは・・・・死体があまりにも綺麗だった故。


 「傷が一つだけついてる。 ・・・・これは刺し傷だな、細く鋭いもので貫かれてる。 しかも確実に殺すために心臓を的確に1突きだ。 これは他の魔物や飢えによる死ではなく、間違いなく人が倒した魔物だ。 この感じ、死んだのは恐らく昨日の夜だな」


 テクルはツキヤブリの死体を近くで観察したテクルが色々推測している。

 死体って見るだけで死亡時刻わかる物なのか?

 

 「だからどうしたんだよ。 魔物討伐はクエストで普通にやるだろ」


 テクルは人が倒したという事をおかしく思ってる様だが、冒険者が魔物討伐するのは当たり前だろう。

 実際テクルだってやってたじゃん。


 「いやそれだとおかしいぞ。 クエスト成功証明の為に剥ぎ取られた部位がないし、他の方法で証明したとしてもツキヤブリの角や毛皮はいい素材だ。 これだけ綺麗な状態で倒せたのなら持ち帰って売るのが普通だろ? 私みたいに倒す際にグチャグチャにし過ぎて持って帰れるのが割れた角だけになったとかじゃあるまいし。 それだけじゃない、雑だったが枯葉で隠されていたんだぞ? 明らかに怪しいだろ」


 ・・・・言われてみれば!!


 ツキヤブリは夜に動く強い魔物だ、そいつを倒して売りもせずに放置する理由なんてその日暮らしの冒険者には見当たらない。


 ・・・・今さらっと言ってたけど、初対面時テクルが角しかギルドに持ち込んでなかったのってそういう事だったのね。


 「え? それツキヤブリの死体?」


 ツキヤブリの死体を前に色々考察する俺達の後ろから、不意に知らない男の声がする。


 後ろを振り向くと、そこに立っていたのは金髪で腰に剣を携えた・・・・優しい印象を抱かせる顔をした1人のイケメンだった。


 「誰だアンタ」


 テクルはいきなり出てきた男に質問を質問で返す。


 「あぁ、僕は貴方達と同じ採集祭の参加者さ。 しかしツキヤブリか・・・・やはり何か変な事が起きてるようだね」


 「どういうことだ?」


 そう聞く俺にイケメンはこう答える。


 「実はね、何故か本来夜動くはずの魔物達が真昼間の今、動き回っているらしいんだ。 ポイズンベアやらチェイスウルフやら夜色鳥やら・・・・ね」


 イケメンの口から出てくるのはこの森で危険な夜行性の魔物。

 昼間行動しないから夜行性なのに・・・・そいつらが起きて行動している?


 「まじで!?」


 動揺して変な声が出た俺にイケメンは落ち着かせる様な口調で追加の説明をする。


 「どうやら今のところは参加者達に怪我人とかは出ていないらしい。 だけどそいつらにビックリして採集した植物を置いてって逃げ出しちゃったりした人もいるらしいから、気を付けなよ」


 これは採集の祭・・・・集まった参加者は戦闘を出来るだけ避けようとするし、そもそも本来危険な魔物がいない時間帯故に強敵相手への心構えだって完璧ではない。

 故に夜行性の魔物に遭遇すれば逃げてしまうのはおかしいことではないだろう。


 「・・・・なんでそんなことわざわざ教えてくれるんだ?」


 そのテクルの問いかけに、イケメンは正にイケメンらしい答えを言った。


 「だって皆で楽しむ採集祭で怪我人とか嫌だろ? 今僕の仲間も植物を落としてしまった参加者から聞いた情報を更に他参加者に注意喚起して回ってるんだ。 運営側のギルドは説明時に夜行性魔物を起こした場合は自己責任と言ってたからね・・・・僕達自身で情報を交換しないと。 祭りを楽しむのはそれが終わってからでも間に合うさ」


 手分けして注意喚起してる、だからイケメンは参加者なのに1人なのね。


 ・・・・・皆で楽しむ、かぁ。


 「ところで、なぜカゴに入れず手で植物を?」


 指摘を受けた俺とテクルはさっきまでしていたことを思い出し、少し目を逸らすのだった。

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