第21話 触角は植物を探す
採集祭開始から現在10分程が経過している。
俺達は今さっき赤みががった森に到着し、歩を進めていた。
俺達の腕には制約石の腕輪がつけてある。
森に入る場所に設置された特設受付の人にしっかりと装着しているのを確認して貰わなければ、そもそも森に入れないようになっていたのだ。
撮影石は1チームで1つ、俺のズボンの右ポケットの中だ。
カゴはラスイが背負っている。
ちなみに俺はしっかりと〔フオンのテブクロ〕を両手にはめて持ってきている・・・・そして他にも、もしかしたらワンチャン使えるかもしれないものは全部左ポケットに突っ込んだ。
他の参加者達は既に森の更に奥側に向かったのか全然見かけない。
スタートダッシュがワンテンポ遅れた弊害だな。
【赤みがかった森】は名前の由来も不明だが・・・・生態系も意味不明だったりする。
本来好む環境的に同じ場所に生息しないはずの魔物が共存してたり、魔物の強さの最高値と最低値がかけ離れすぎていたり、植物も同様に種類が異常に多かったり。
生態系がどの様に構築されたのか、昔からかなり研究されたのにも関わらず現在も不明。
そのせいでどの魔物、植物が元からいた在来種であり、どれが後から来た外来種なのかも分からない。
そんなカオス生態系が構築されているこの森だが・・・・そのカオスの中にも一定の法則がある。
例えば危険な魔物が活動するのは夜で、昼はもの凄く安全なのだってそうだ。
そしてその法則の一つに、基本的にこの森は内側程希少な植物が多いってことがある。
つまり内側に行くのに遅れれば他の参加者がその希少な高ポイントの植物を採りまくってしまう。
つまり俺達は普通に考えて優勝からかなりかけ離れてしまうはずだが・・・・
俺達にとってこの遅れはちょうど良いハンデだ。
別にこれは強がりでもイキリでもない。
だって・・・・・彼女がいるじゃないか。
「よーし・・・・ ラスイ頑張ってくれ」
俺は親指をグッ!と上げてラスイを応援する。
「はい、任せてください」
俺達は確かにワンテンポ遅れてしまったが・・・・ラスイの魔能〈触角探索〉さえあれば無双できる。
〈触角探索〉はラスイの頭の触覚を通して、植物、魔物などの生命を帯びたものの位置を正確に把握出来る能力。
しかもある程度探したいものを絞り込んだ上でサーチ出来るそうだ。
サーチできる範囲は周りに人工物が多ければ多いほど狭まるらしいが・・・・俺達が居るのは大自然の森の中だ、今に限ってはそんな弱点無いに等しい。
もう一つの弱点としては、サーチ対象の絞り込みを行わないと情報量が多くなり過ぎて分からなくなるというものだが・・・・・その欠点も希少で見つけにくい植物に対象を限定すればいいだけの話。
ラスイには心置きなく存分にその能力を使って貰おう!
お、ラスイの触角がピーンと立ってる。
これは〈触角探索〉に何か引っかかった証・・・・ラスイは見つけた植物の元へと進んでいく。
俺達はそんなラスイの後ろをついていった。
そして5分後。
「えーと、ここに埋まっているのが・・・・真っ青星の種で、その少し横を掘れば・・・・ありました、オドドロの実!」
どんどん珍しい植物をサクサク見つけては、ぽんぽんカゴに入れていくラスイ。
既にカゴの4分の1が、本来滅多に見つからないはずのもので埋まっている。
俺とテクルの2人はその様子を見守っているのだが・・・・
「な、なぁ。 私達・・・・見てるだけでいいのか?」
どうやらテクルはこの状態を好ましく思っていない様子。
「実際ラスイが探して見つけて貰うのが1番効率がいいだろ。 これも勝つためだ」
「いやでも、何もしないのは罪悪感というかなんというか・・・」
頭ではこれが一番効率的で確実なのは分かっているが、全部ラスイに任せきりなのはどうかとと思ってしまう・・・・多分テクルが言いたいことはこれだ。
・・・・実は俺も少し思っていた。
クエストの報酬だってテクルとラスイにおんぶに抱っこ状態なのに、借金返済の為に参加した採集祭でさえラスイ全頼りなのは今更ながらも人間としてまずい気がする。
だから、俺も行動を起こす事にした。
実は採集祭のルールを聞いた時に思いついていた事があったのだ。
「そうだな、じゃあそろそろやるか」
「お、何かやることがあるのか? どんなことだ? 私も出来るか?」
テクルが食いついてきた。
そうだな・・・・手伝って貰うぐらいなら良いかもしれない。
「他参加者のカゴの中からこっそりと植物を掠め取ってくるんだ。 シンプルな考えだけど、自分のポイントが増えるだけでなく、相手のポイントを減らせる。 更に相手のカゴの植物減少により相手のカゴ提出を遅くさせ、取ってない残りの植物の質も下げさせることが出来る」
「えぇ! それはダメだろ!?」
「よく思い出せ。 制約石で禁止されてる行動は直接他参加者を攻撃することだ。 誰も掠め取ってはいけませんとは言ってない」
「そういう問題じゃないだろ! 倫理観的な話だ。 そもそもこれは祭という名がついてる。 つまり皆で楽しむのも大事な」
「これを実行すればあの詐欺師共にめっちゃ圧倒的な差をつけて優勝して煽り散らかせるぞ」
「私に任せろ。 実は私の触手は太さを犠牲にする事で伸ばすことが出来る。 細く伸ばした触手ならば遠くからこっそりカゴの中から植物を取ることが出来るだろう」
テクルは詐欺師の話を聞いた瞬間、速攻で手のひらをひっくり返した。
「ラスイー! 俺達少し離れるけどしばらくしたら俺達自身をサーチして会う事って出来る?」
話し込んでる間に少し遠くに行っていたラスイに少し大きめの声で聞く。
「あ、出来ます大丈夫ですー!」
同じく少し大きめの声でOKするラスイ。
「おいクロイ、ラスイを1人にするのは危ないだろ」
「いやラスイは1人でレアな植物探して動き回った方が効率良いし、危険察知だって魔能で出来るんだし大丈夫だろ?」
「大丈夫ですー!!」
「そ、そうか?」
「ていう訳でラスイ、カゴに集め終わったら俺達のところ来てくれ!」
「はいー! 頑張ってくださいー!!」
「ほ、本当に大丈夫かな」
不安がりながらもそれは別として俺の話に若干乗り気なテクルと一緒に他参加者を探しに行くのだった。
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