第23話 怒りは脈絡を飛ばす

 俺達はイケメンの問いかけを何とか誤魔化した。

 誤魔化されたイケメンは「それじゃ、ぼくはこれで」と言って去っていった。


 しかし、イケメンが注意してくれた夜行性の魔物が何故か大量に起きて動き出しているこの状況・・・

 ・・・・・・・

 ・・・・・・・・あ。


 俺はヤバい事に気付いてしまった。


 「テクルやばい! ラスイ、今大丈夫かなぁ!?」


 「・・・・あぁ!! ヤバい!!」


 人のこと言えないが、ラスイに戦闘能力は無い!

 だけど弱い魔物しか行動しない昼だし、制約石で他参加者かたの攻撃がないから安全だと思い効率重視で別れたのだ。

 だけど・・・・今、安全じゃなさそうだ。


 俺は冷や汗ダラダラになる。


 「だ、だから言ったじゃん! 私言ったじゃん!! 1人にするの危ないって言ったじゃん!!」


 「で、でもラスイは魔能で危険察知出来るだろ?」


 「察知出来たとしても、限界はある! 事前に分かっていたとしても全部逃げれると思うなよ! ラ、ラスイィィィ、早く合流しないと・・・・」


 ラスイが危険だと分かり、途端に不安がりあたふたし始めたテクル。


 「そ、そうか! じゃあ今から合流を・・・・ん?」


 そういえば俺ってラスイとどうやって合流しようとしてたんだっけ?


 ・・・・・確か俺はこう言ったな。


 『ていう訳でラスイ。 カゴに集め終わったら、魔能で探して俺達のところ来てくれ!』


 ・・・・・・俺はラスイに言った合流方法を思い出す。

 冷や汗が更に流れる。


 やべぇ、ラスイがこっちを迎えに来るのが前提だ!!

 俺達がラスイの所に向かう方法がない!!

 ラスイの触角に頼りすぎちまった!!


 この場合は・・・・


 「・・・・下手に動き回るとラスイが俺達を見つけにくいだろうし、待つしかないな!」


 「・・・・まぁ、確かに。 これは無理に探しに行った方が悪手か・・・・クソ、もどかしい」


 俺達は位置が分かりやすそうな少し開けたところに移動して、体育座りでラスイを待つことにした。


 5分後、未だ誰も来ず。

 なんなら他参加者も近くに居ないっぽい。


 10分後、まだまだ来ず。

 そろそろガチの本格的にラスイに何かあったのかと不安になる。

 テクルが凄いソワソワしている。


 「そろそろ何か行動を」


 テクルが何かいいかけると。


 ・・・・・・そのテクルが突然口を閉じて言葉を中断して、立ち上がった。


 目の前の草むらがガサガサと音を立てているのだ。

 そして何かが、草むらから飛び出して俺達にーーー


 ーーーー何かする前にぶっ潰れた。


 俺がその何かを視認する前に、既に左袖から出されていたテクルの触手が飛び出してきた何かを押しつぶしたのだ。

 いや、はえぇよ!

 何潰したか分かんなかった!


 「反射で潰しちゃったけど・・・・制約石が反応してないなら他参加者じゃないよな!」


 コイツまさか人かどうかも分かる前に潰したのか!?


 「せめて何か確認してからやれよ! いつか反射で思わず人叩き潰しちゃったとかなったらシャレにならねぇぞ!!」


 「・・・・あの時の突然突っ込んできた鮫もどきが地味にトラウマになっちゃって。 いきなり出てきたものをとりあえず速攻迎撃する癖がついてしまったんだ・・・」


 「その癖はやめろ! 色々危ない!」


 「・・・・な、何を潰したのか確認しよう」


 話をあからさまに逸らしたテクルは触手をどかし、潰れた何かを見る。


 既に圧死し動かなくなっており、グロくなっていたが・・・・俺達が知っている魔物だと分かった。

 これは猪型の魔物・・・・・[ツキヤブリ]だ。


 今さっき隠されてたコイツの死体を見たばかりだったが・・・・今潰した生きてた状態(過去形)の奴もイケメンが言った通り何故か真昼間に活動を開始しているのか。


 「? ・・・・コイツ」


 テクルがその潰れたツキヤブリを見て首を傾げている。

 と、思っていたら突如テクルがいきなりぎょっとしたような表情になった。


 するとテクルの視線が向かう先はツキヤブリの死体でなく・・・・俺の方になった。

 俺と完全に目が合った状態になると、俺が直前に見たぎょっと驚いた表情から・・・・こめかみに血管を浮かべながら笑った顔となっていた。


 笑ってはいるが・・・明らかに怒っている雰囲気だ。


 え、何故怒ってるの?


 「・・・・お、お前・・・こ、この状況でセクハラしてくるとは・・・・いい度胸、だなぁ?」


 え。

 セクハラ?

 俺が?

 まじで?

 心当たり皆無なんだけど?

 さっきから俺特に動いても無いんだけど?


 俺は余りにも何の脈絡もないし突拍子もないことをいきなり言われて動揺してしまう。


 「・・・・ちょ、ちょっと待て。 俺は何もしていないぞ」


 「わ、私の尻を触っておいて・・・何も、してない、か・・・・ ・・・・死なない程度に絞め殺してやる!!!」


 仲間だろうが容赦のないテクルは触手を持ち上げ、俺に巻き付けようとしている。


 え、俺はここで死ぬのか?

 冤罪で?

 いきなり?


 テクルの本気の目を見て、諦めた俺は楽しかった過去を思い返す。

 ・・・・・思い返した。

 悔いのある人生だった!!


 「・・・す、すいません。 遅れてしまいました。 言い訳ではないんですけど、夜行性の魔物が・・・・・・え? な、何してるのテクルちゃん!?」


 触手が半分くらい俺に巻きついたタイミングで、ラスイが来た。


 ラスイは植物が1杯になったカゴを地面に置き、慌ててテクルを止めに入るのだった。

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