第17話 金銭は口論を招く

 「30万エヌだよ、それ以上は流石にねぇ」


 3本立てた指を見せつけるお婆さん。


 「待て、この商品の数・・・・あんまり売れてないんだろう? ここで変に高い値段のままにせずもっと下げないか? そっちの方が結果的に収入になるぞ?」


 手のひらを突き出しちょっと待ってほしいの意を伝える俺。


 「いや、これを欲しがってるのは他でもないお兄さんじゃないか。  お兄さんがここまで欲しがるってことは他でもきっと売れるんじゃないかい? 場所を変えればもっと太っ腹な人にこの値段で買って貰えるかもしれない」


「いや、俺は少々特殊でね。 俺だからそれが欲しくなるんだ。 俺じゃなきゃ他の商品同様見向きもしなかったさ。 だからきっと他の奴らに売ろうとしても意味無いぜ?」


 「いや、でも・・・・」


 互いに互いの意見を否定し合う俺とお婆さん、時間がどんどん過ぎていく。


  「ふむ・・・」


 見れば分かると思うが、俺が今行なっているのは値切り。

 どうしてもあの黒い手袋が欲しいのだ!!


 「・・・・お兄さん、凄まじく値切ろうとしてくるが、どれ程の金があるんだい?」


 「・・・・・・1000エヌです」


 「冷やかしか?」


 「あんたが声掛けてきたんだろ!!」


 思わず声を大きくしてしまう俺の顔をじーーっとお婆さんが見てくる。

 すると、今度は考え込む様な顔になって・・・・


  「・・・・そうだねぇ。 分かった、今日中かつ1つ条件を呑んでくれるなら10万エヌっていう破格の値段で売ってやるよ」


 「え、マジ?」


 『冷やかしか?』って言った時点でもうアウトだと思ったのだが・・・・お婆さんの心の琴線のどっかに俺の熱意が引っかかったのかもしれない。


  「・・・・そんなに欲しいってことはきっと大事にしてくれるだろう。 さ、しばらく待ってやるから何とかして10万持ってきな」


  「お婆さん・・・・!!」


 変な物売ってるだけの人かと思ってたけど優しい人だった。


 俺は早速金を調達するためにとある場所へと向かう。


ーーーーーーーーーーーーー


 そこはとある宿の一室。

 より正確に言えばテクルとラスイが化け物魚の一件以来仲良く一緒に泊まっている一室だ。


 俺は2人に大事な話があるということで入れてもらい・・・


 「・・・・お金貸してくださいお願いします!!!」


 テクルとラスイに土下座をしながらそう頼んだ。


  「「・・・・・・・・・・」」


 「お願いします!!!」


 俺は更に畳み掛けるために2回目を言った。

 そしてチラッと目を上に向けると・・・困惑ラスイとドン引きテクルがいる。


 このまま2人がアクションを起こすまで頭を地面にくっつけておこうと思っていたら・・・・状況は呆気なく動いた。


 「私、報酬いつも6割頂いてますし喜んで貸します! なんなら返して頂かなくて結構です!」


 ラスイのその言葉で俺は顔をガバッと上げる。

 ラスイはいきなりの土下座で驚いていた困惑顔でなく、キラキラ輝く笑顔となっていた。


 「本当か!?」


 ラスイ・・・・・なんていい子なの!


 「はい! いくらですか?」


 嬉々として額を聞いてくるラスイ。


 「ええとな・・・・」


 「おい、待て」


 そんな感動的な友情シーンに少しイラッとしている感じの声で水をさしたのはテクルだ。


 一体なんの不満があるっていうのだ。


 「ラスイは詐欺っていう金銭関係のトラブルがあってそんなに経ってないんだぞ。 そんな相手から金を借りようとするなんて頭沸いてんのか?」


 「・・・・ご最もだ!!」


 否定できる要素が1個もないど正論が飛んできた・・・・いや、自分でも薄々分かってたけども。


 そもそも報酬の6割をラスイが貰ってるのだって、一緒に受ける採集クエストでほとんど活躍するのがラスイだからだしな。

 〈触角探索〉があれば見つけにくい高額でレアな植物もわざわざ汗水流して闇雲に探さなくても直ぐに見つけられるのだから採集クエストではラスイが無双するのは当然。

 本人は持ち前の卑屈さで受け取りたがらないのを半ば強引に渡している。


 その為、俺とテクルの役割はラスイが探して動き回ってる間のボディーガード兼荷物持ち的なもの。


 そして報酬の残り4割は俺とテクルで二割二割で分けているが・・・・テクルと俺の収入が同じって訳でもない。


 テクルは触手を普通にラスイの前で出せるようになってから採集クエストの時、片手間感覚で討伐クエストを1人でやっているのだ。

 俺とラスイはその討伐報酬の1割をそれぞれ貰っている(パーティメンバーだしってことでテクルがくれる)。


 俺は実質ラスイとテクルのお零れを貰っているのに過ぎないので、収入が1番少なく金が貯まらないのだ!!

 金が少なくてもよく欲に負けてスイーツとか買ってしまうのも貯まらない要因かもしれないが、それは一回置いておこう。


 「・・・・いくらなんだ?」


 突然先ほどまで少し怒気を孕んでいたテクルの声が切り替わるように優し気になり、必要とする金の量を問いかけてきた。


 「お前のお陰で私とラスイは助かったし・・・・今も楽しくやれてる。  一応ちゃんと感謝はしてるんだ。 だから金のトラブルがあった上に、貸すどころかそのまま渡しちゃう貢ぎ体質のラスイじゃなくて金銭関係は私に頼れ」


 「テ、テクル・・・・!! ありがとう! ちなみに貸してほしい額は10万エヌなんだけど!」


 「何をやらかしたんだ?」


 間髪入れずやらかしたのを前提に質問してきた。

 テクルは俺の事を何だと思ってるんだ?


 「なんかの罰金だと思われてる? 違う違う。 手袋が買いたいんだ」


 それを聞いたテクルは目を見開き、驚く。


 「手袋で10万!? 詐欺だろそれ!! お前も引っかかるなよ!!」


 「失礼な! 元々60万だったのを値切って10万にしたんだぞ!」


 「詐欺感がより増したわ!! それあれだろ、元を異常に高くすることで金銭感覚を麻痺させてから安くしてお買い得だと感じさせる詐欺のテクニックだろ!!」


 「ちげぇよ!!」


 「ちがくねぇだろ!!」


 この後テクルの説得に夜までかかり・・・・最終的に何とか借りれたので全力走行で向かうと、お婆さんが帰ろうとしていた瞬間に到着し買うことが出来た。


 ちなみに説得(半分口論)をしている間ラスイが俺達を見てニコニコしていた。

 多分喧嘩する程仲が良い的な事を想像してるんだろうが、そういう喧嘩とはベクトルが違うと思う。

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