第二章 報復せよ、勝利の顔したアイツを

第16話 老婆は商品を語る

 ・・・・俺はクロイ、黒髪黒目、頭にスカーフ、泣きぼくろ、母曰く死にそうな魚の目をしている(母は褒めているつもりだったらしい)男だ。

 最近紆余曲折色々あって魔人である[テクル][ラスイ]とパーティを組んでいる。


 あの化け物魚の件の後、ギルドにその化け物魚の体の一部を渡すとカンテ爺さんが鑑定してくれた。

 そしたらカンテ爺さんはガチトーンで「何これヤバァ」と言い、その後詳しく解析してくれるとのことだ。


 それからしばらく経ってもまだ解析は終わっていない様だが・・・・パーティとしてはなんだかんだ上手く行っている。


 そんな俺だが、今。


 そのパーティとなったテクルとラスイに全力の土下座をしていた。

 

 「・・・・お願いします!!!」


 「「・・・・・・・・・・・」」


 「お願いします!!!」


 場所はラスイとテクルが一緒に借りている宿部屋の一室であり、そこにお邪魔させてもらっている俺(土下座中)。


 俺のDOGEZAを前にした2人の少女はかたや困惑しており、かたやドン引きしている。


 どうしてこんなことになったかと言うと、それは1時間程前に遡る・・・・・


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺は人通りが少ない道を歩いていた。

 今日は皆金に余裕があるのでクエストを受けない休みの日と3人で事前に決めておいたのだが、特にやることが思い至らず無く適当にブラブラしていたのだ。


 しばらく歩いていると。


 「ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ。 そこのお兄さん。 なんか買っていかないかい?」


 ボロボロの紫色のフード、しわがれた雰囲気のある声、いつかのラスイの様に隠れて見にくい顔といったいかにも怪しいお婆さんに話しかけられた。


 座っているお婆さんはこれまたぼろっとした風呂敷を広げていて、その上に大量の・・・恐らく商品である様々な物がたくさん置いてあった。

 ハサミ、帽子、メガネ、何かの液体の入った瓶、ボール、サイコロ、ジャケット・・・商品の種類が豊富だ。


 風呂敷の上以外もお婆さんの後ろにある大きめのリュックサックの中にもあまり見えないが色々な物が入っている。


 商品に特段興味を惹くものは無かったが、今の俺は特段やりたい事もない。


 「じゃあ、どんなのがあります?」


 俺は暇だった事もあり、そのお婆さんの前にかがみ込み少し話を聞く事にした。


 「そうだねぇ・・・・ この帽子なんておすすめだよ」


 お婆さんは真っピンクなシルクハットを取り出した。


 「これはねぇ・・・・〔インビジブル・ハット〕と言って、被ると透明になれる帽子さ」


 何ぃ!?

 男の夢が叶うアイテムじゃないか!?


 「ただし、身につけている衣服や装飾品等は見えなくならない・・・・ そして被ったインビジブル・ハット自体もどんな手段を講じても絶対に見えっぱなしになるという性質を持っているのさ・・・・」


 ダメじゃねぇか!!

 被って自分の体だけ透明になれてもその被った物自体が見えっぱなしじゃ意味ないだろ、ただでさえ目立つドピンクなのに!!


 「期待外れって感じの顔だねぇ。 それじゃ、これはどうだい?」


 そう言って新しく取り出したのはド派手な黄色の熊のぬいぐるみだ。


 「これは〔ポイズンベア人形〕さ。 ポイズンベアの匂いや見た目を完璧に再現しててねぇ。 これを本物のポイズンベアの前におけば仲間だと思って戦意をそぐ事ができるよ」


 んーーーーーーー、言っちゃ悪いが微妙!!


 使える相手が限定的すぎるし、最近ポイズンベアを利用した上で死なせてしまったのでなんかその人形に呪われそうで怖い!!


 「ふむ・・・・ これもダメかい、それなら」


 そう言って更に30分程話し、様々な品を紹介されたが・・・・・


 〔誰でも目からビームが出せるようになる目薬〕・・・ビームを打つたびに二分の一で失明する可能性あり、危険すぎる。 目からビームはロマンだが、視覚を賭けれる程の魅力は無い。


 〔エキサイトジュース〕・・・エキサイトフルーツ100%のフレッシュな味わい! 添加物なし! 中毒性あり! これで誰でもエキサイトフィーバー!! そんなもん売るな!!


 〔ブチブチ〕・・・大量の小さな膨らみがついた板、膨らみを潰す感触を楽しむ道具。 お試しで膨らみを潰した時感触は気持ちよかったが音が『グチャ』『ベシャ』『ドグジュ』となんか肉肉しいかつ生々しい音がして気味が悪く、怖い。 全然楽しめない。


 エトセトラエトセトラ・・・・・


 ・・・・いや、うん。

 まぁ、暇つぶしにはなった。


 俺は立ち去ろうとする。


 「最後はこの・・・・」


 立ち去ろうとした俺は俺の死角になっていたお婆さんの後ろから取り出された新しい商品を見て。動きを止めた。


 お婆さんが最後といって取り出したのは指先や手のひら部分に穴が空いたデザインの黒い手袋。


 その手袋を・・・俺は知っている。

 それは、俺がずっと欲しかった物だ。


 「それを買う!! いくらだ?」


 「え? あぁ、60万エヌ。」


 「ろっっ!? ・・・・ろくじゅうまん? マジで?」


 興奮して立ち上がっていた俺は崩れ落ちた。

 ベビィスライム捕獲した時の報酬の2倍じゃないか!?


 俺は財布の中身を見て・・・100エヌ札の数を数える。

 1、2、3、4・・・・・・全部で10枚だ。


 俺は数え終わった後、財布の口をそっと閉じる。


 ・・・・600分の1まで値切れるかなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る