第18話 借金は死の危機を呼ぶ

 「やった!! やっと手に入れることが出来た!!」


 俺はさっき買ったばかりの黒い手袋を自らの宿部屋で眺めていた。


 この黒い手袋・・・・その名も〔フオンのテブクロ〕は、子供時代の頃から欲していた物。

 この手袋をつけた際に発生する魔法的効果が俺にピッタリなのだ。


 そして見た目もそうだが、実際にお試してこれは本物だというのは確実。

 決して詐欺なんかではない。(重要)


 尚、最終的に詐欺ではないとテクルに説得する事ができたが・・・・10万は流石高過ぎるとのことで、約束として『1ヶ月以内に返せ、さもなくば・・・・』と言って触手をこれみよがしにブンブン振り回していた。


 ただでさえテクルは自分自身の暴力的な部分を受け入れたのだ、返さなければ冗談抜きで触手によって潰れ死ぬかもしれない。


 しかし返すアテはない。

 1ヶ月以内に稼ぐのはクエスト頑張りまくればいいかもしれないが、10万一気に吹っ飛ぶのはきつい。


 楽に直ぐに稼げる方法ないかなぁ・・・・そうだ。


 「楽して10万稼ぎたいんだ。 お姉さんなんか良さそうな情報無い?」


 「・・・・いきなり店に来て注文も何もせず開口一番それですか? 後、貴方私の事情報屋だと思ってる節がありませんか?」


 俺は真昼間にギルドの隣の酒場・・・・【エン酒場】に来ていた。


 昼間であり皆クエストに行っている為か、俺以外の客の姿は見えない。

 

 最近ツケを返し終わり、テクルの情報を貰ったり安くて上手い飯などで常日頃お世話になっているのがこの酒場だ。


 テクルのトラウマ発見の助けとなった情報通の酒場のお姉さんならきっと何らかのお役立ち情報で助けてくれるだろう、というか助けて欲しい。


 「はぁ。 ・・・・まぁ、そうですねぇ。 1ヶ月以内ならコレがありますよ」


 そう言ってお姉さんは溜息を漏らしつつ、いつもの事かとでも言いたげな顔で俺に複数枚の紙を渡す。


 その紙はどうやら全て[依頼書]の様で、紙によって全く違う依頼が書かれていた。

 とりあえず全部読んでみる。


[急募・被検体募集・時給15万エヌ とても安全です。すごく安全です。 万に1つも有り得ませんがどんな失敗してもこちらは一切責任を負いません。 内容はこちらに来てから説明致します。なおこちらに来て説明を聞いた後に拒否は出来ません。 場所は・・・]


 危険な匂いがする!!

 というかこの依頼書はなんだ、クエストなのか?


 ・・・・1回それは置いといて、えっと次は?


[城下街にてとある御方の護衛 成功報酬80万エヌ 選抜あり 失敗した場合、責任をとっていただきますので自身の能力に自信がある方のみ応募してください 日時は8月30日・・・]


 デバフしか使えないやつがどうやって護衛しろと?


 つ、次は・・・・


[誕生日パーティの余興 蠱毒喰と一緒の檻に入って1時間生き残れば・・・]


 俺は直ぐ見るのを辞める。


 [蠱毒喰]って超危険魔物の代名詞じゃねえか、無理だよふざけんな。


 「お姉さん、これなんだよ。 全部鬼畜だよ」


 「一気に10万以上稼ぐならそれですよ。 ちなみにそれは独自の伝手で貰った【ゴールドギルド】のクエストです」


 ゴールドギルドォ!?


 ゴールドギルドってあれじゃん。


 城下街という凄い冒険者の集まる場所にある最高峰のギルド。

 ギルドは俺の住む街・・・・【イズリラ】含め様々な場所にあり、それぞれのギルドに特別な名前はなく全部どこどこのギルドと呼ばれる。

 しかもゴールドギルドは他のギルドと違い、冒険者の質も量も凄い事になっている。


 更に城下街という場所は需要と供給が田舎寄りのこのイズリラとは比べものにならないスピードで回っているのでクエスト難易度もエグい事になってる、当然報酬もこことは桁違い。


 故に他とは一線を画すという意味でも金回りがヤバいという意味でも、城下街のギルドはゴールドギルドと言われている。


 詰まるところ何が言いたいかというと。


 「ゴールドギルドのクエストとか俺には無理だ! 仕方ない、コツコツ働くか」


 俺がしょんぼりしていると、お姉さんは何を当たり前の事言ってるんだ?といった怪訝な表情となったが・・・・ふと、急に何か思い出した顔に切り替わった。


  「・・・・いえ、待ってください。 確かえっと・・・・ほら、コレ」


 お姉さんは再び何かの紙を渡してくる。

 今度の紙は、さっきまでの高そうな紙と違う安物のわら半紙だ。

 その紙に書いてあったのは、これだ。


[採集祭 優勝賞金・30万エヌ 場所・イズリラ 日時・8月18日]


 ・・・・・イズリラってどこだっけ。


 ・・・・・この街の名前じゃん!!


 ・・・・・さ、30万エヌ!?


 ・・・・・今日は何日だったか・・・・8月16日か。


 ・・・・・2日後じゃん!?


 ・・・・・そもそも採集祭ってなんだよ!!


 俺は自分の住む街の名前がすぐピンと来なかった自分に驚きつつ考え込んでいると、お姉さんが口を開く。


 「そう言えばもうそのイベントがある季節でしたね。 毎年の行事なんだから店の者としてしっかり覚えとかなければ・・・・」


 え、毎年あるの?


 ・・・・・俺知らないんだけど。


 「それは3人1組で参加するイベントなのであなたが最近パーティ組んだ子達と一緒じゃないと無理ですよ」


 なるほど、昔知っててもソロという名のぼっちの俺には参加できなかったな!!


 あの2人には再び土下座して一緒に参加してもらおう。


 しかし採集祭・・・・


 どんな催しなのか全く知らないので後で調べるしよう。


 「ありがとうお姉さん!! きっとその優しさを前面的に押し出せば彼氏できるはずだよ!!」


 俺はこれの存在を教えてくれたので感謝として三十路のお姉さんにアドバイスをして帰って行った。


 「余計なお世話だ!!!」


 走り去る俺の背中に、割と洒落にならないくらいの怒気がこもった声が飛んできた気がする。

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