第14話 囮は先陣を切る

 俺はテクルに作戦を説明し終えた。

 ちょうどラスイの方も頼んでいたことが終わったようだ。


 この状況から抜け出す作戦を実行する時が来た!


 「な、なぁ私もしかして土壇場で怖くなって動けなくなるかもだぞ? それなのにやるのか? やっぱり私が1人で・・・」


 俺が作戦成功の為に自らを奮い立たせていると、顔を背けながら不安そうにテクルが言う。


 「だから1人で突撃はダメだって! 確実に倒すための大きな隙とかない限りテクルも厳しいと思うぞ!」


 何を言おうとしてるのか分かったので言葉を遮り、再度説明をする。


 「そ、そうは言ってもお前が説明した作戦・・・・お前が1人で突撃してるじゃないか!」


 ・・・・そう、この作戦は1のだ。


 「お前がさっきから言ってた死を覚悟する特攻みたいな突撃じゃねぇよ! 俺は自己犠牲は嫌いだ! だから頑張るんだよ!」


 俺の母は言っていた。


 死ぬ気で物事に取り組むのはバカだが・・・・本当に死ぬ奴はもっとバカだ!!

 俺はバカみたいに死ぬ気で頑張るが、死ぬ気はない!!

 未だ臆病風に吹かれてるテクルの右袖を引っ張って強制的にラスイの近くまで連れて行く。


 「ク、クロイさん。 本当にクロイさんがやるんですか? クロイさんがダントツで危ない上に、私達はかなり安全ですよ?」


 ラスイもこの割り当てに心配があるようだが・・・・


 「いや、この役割分担じゃないと作戦は成り立たない! テクルゥ! お前がしくじったら全員死ぬから! そのつもりでよろしく!」


 「おい、勘弁してくれ! 恐怖はそんな簡単に克服出来るもんじゃ」


 「頑張れ! さぁラスイ。 合図をくれ!」


 俺は雑な激励を飛ばし、前へ・・・・結界の外へと体を向け、スタートダッシュする為の姿勢をとる。


 「は、はい!」


 バグスライムの魔人、ラスイの魔人能力である生命を把握できるレーダー・・・・その名は、魔能〈触角探索〉。

 それとラスイの最下級魔法の内の2つをこの作戦で使ってもらうことにした。


 ちなみに〈触角探索〉は先刻俺が勝手に名前をつけたものがそんな事はどうでもいい。


 そしてもう触角や魔法とは別に、今この場でラスイに頼んでテクルへの作戦説明中にもずっとやってもらっていた事がある。

 それはこちらから一方的に見ることが出来る化け物魚を観察してもらう事。

 その理由は・・・・・


 「あの魚?はこの辺りを少しだけ動き回ってるので、この結界の出口から一番離れたかつ視線が他の方向に向いている時に合図を出すんですね? 合ってますよね?」


 ・・・・行動の中で最も化け物魚が遠い位置にいるタイミングを掴んでもらう為。


 「そうだよ! さぁ、合図を出してくれ!」


 「は、はい! ふ、ふーーーーー。 い、ま・・・ではなくてですね、今・・・は少し遅くなってしまいました・・・・・えっとも、もう少し、もう少し離れてから・・・」


 合図出すのの下手すぎだろ、不安になってきた。


 「・・・・・・・今! はい、今です!!」


 俺はそれを聞いてダッシュで結界の出口を抜け駆け抜けるーーーー!!!


 『ガギ!? ガガグギギギギギギギ!!』


 化け物魚から見たら何もない空間からいきなり出てきただろう俺。

 ワンテンポ遅れながらも直ぐ気づいた化け物魚が、道なき道を走り抜けた俺を追い始める。


 そしてラスイの合図の10秒後には、既に化け物魚も俺も結界付近から遠くへ離れた。

 それを確認したテクルとラスイも、結界外に出てくる。


 「・・・・自分でたてた計画で自分を囮にするとか頭おかしいんじゃないか? 普通思いついても別の考えるでしょ・・・・」


 「わ、私達はやるべき事をやらなきゃ」


 「・・・この間に私達が逃げ出すとか考えないのは、本当に人を信用しすぎじゃないかな」


 クロイの作戦を実行するため、彼女達はへと向かうのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!


 化け物魚に追いつかれないように走る、走る!


 しかし化け物魚は俺より早いスピードで地面を這い続け、あと十数秒経てば追いつかれて人間スクラップになってしまうだろう!


 しかし俺だってただ闇雲に走ってるわけではない!


 光の玉・・・・ラスイの〈微明〉による光球に沿って走っているのだ!

 木々で影が深いこの森では最下級魔法だろうが明かりはそこそこ目立ち、道標の役割は問題なく出来ている!!

 ラスイの〈触角探索〉で探して貰ったあのポイントまで、これまたラスイの魔法で誘導して貰うのだ!


 そうこう考えていたら、白く輝く光の玉が途切れた。


 かと思うと・・・・黒く、辺りを僅かに暗くする小さな闇の玉が代わりに道しるべとなっていた。


 これはラスイのもう1つの最下級魔法、微明とは対象的な少しだけ周りを暗くする闇の玉を生み出す・・・〈微暗〉の魔法!!


 そして、道しるべの魔法が切り替わったのなら、それが合図。

 ポイントは・・・・ここだ!!


 今日のクエストでラスイが集めたエキサイトフルーツの内一つを、後ろを向かずに化け物魚がいるであろう後方に捨てるように投げる。

 先ほどは目の前に投げたが、今度は別に化け物魚の目の前で無くてもいい。

 だってこの化け物魚に効果はないだろうから。


 ・・・・ただ、ここら辺に落ちればいいんだから。


 『ギグガガガギグガガガがガガガ』


 いよいよ完全に追いつかれるかもしれない距離まで声が近づいてきた瞬間。


 別の鳴き声が、後方から聞こえてくる。


 『グルガァァァァァァァァ!!!』


 見ている暇はないが、この鳴き声は・・・・俺があの時、エキサイトフルーツを踏み潰した時に起こした、[ポイズンベア]だ!!


 ラスイにあの時のポイズンベアを〈触角探索〉で探してもらったのだ。


 ・・・・エキサイトフルーツには、少しだが中毒性があることでも有名。


 あのポイズンベアはもうあのエキサイトフルーツの種の匂いと、魅力的な実の味を覚えているだろう。


 だから・・・・・!!


 『グルガァァァァァァァァァァァァ!!!!』


 『ガギギギギギググググググググググ!!』


 エキサイトフルーツが上手く化け物魚に命中し、それをポイズンベアが奪おうとしたのか、それとも地面に落ちてしまったエキサイトフルーツを食べようと近づいたら化け物魚の進路に入り妨げとなったのか・・・・どちらにしろとにかく、2匹の戦いが今始まる!!


 まぁそんなの見届ける暇ないし、当然そのまま走り去るが!!!

 エキサイトフルーツで誘導したポイズンベアの役割は、化け物魚の足止めだ!!!

 まぁそのまま相打ちでもしてくれれば尚よし。


 『ギギググググギギガガガ!!』


 走り去った数秒後には再びこちらに化け物魚が這って向かう音と鳴き声が聞こえる、ポイズンベアの鳴き声は一切聞こえない。

 ・・・・・え、2匹の戦いもう終わったの!?


 ポイズンベアを瞬殺して、すぐさま俺の方に向かってきたのか。


 だがしかし!


 さすがに瞬殺とまでは思わなかったが、化け物魚がポイズンベアを倒すのは想定済み!


 ポイズンベアはあくまで、もう1つの・・・この計画の要の大事な本当のに向かうための時間稼ぎ!!


 さぁ、もうそろそろ足が死にそうだが、その足を止めたら本当に死ぬ!!!


 無理やり知恵絞って計画立ててドヤ顔で説明したんだ、失敗は恥ずかしいなんてもんじゃねぇ!!


 急げ最後のポイントへ!!!!

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