第12話 秘密開示は勇気を要する

 現在、絶賛大ピンチの俺達。


 この結界内に留まってにいれば、あの謎の化け物魚に殺られることはないが、緩やかに飢え死にしていくことになるだろう。


 かと言って、外に出たら出待ちしてる化け物魚に殺られてしまう。


 ・・・ていうかなんだよ、あの化け物魚!!

 あんなやつ、赤みがかった森の危険な時間帯の夜にも居ないはずだし、そもそも俺の魔物知識にもいない!


 しかも何故か知らんが俺達への執着がすごい気がする。


 クエストの採集対象を全部集め終わった所に突っ込んできたのがあの化け物魚だったが、実はそのクエストは[エキサイトフルーツ3個]の採集だった。


 エキサイトフルーツの種は魔物を興奮させ、意識はその種に向かうはずなのだ。


 だから逃げてる途中に思いっきり腕がめり込んでたあいつの目の前に取り出した種をぶん投げたのだが・・・・全く意に介さず普通に追いかけてきた。

 かなり眠りが深いポイズンベアでさえすぐに起こせる程なのになんの反応もなく、ただただ俺たちを追ってくる、怖い。


 ・・・・改めて考えてもやっぱりかなりまずい。


 化け物魚が諦めてどこかにいくのを信じてずっと待つのも手だが・・・それまでに俺達が飢え死にする可能性がある。

 そもそもあの化け物魚が離れたとしても、その時に再びあの速さの化け物魚に出会わないように森から抜け出せる体力は残っているのか?


 以上の事を考えると、何らかのアクションを起こしこの状況を乗り切らないといけない。


 俺は、普段はしょーもないことばかり考えている脳をフル回転させる。


 ・・・・・・・・・・俺一人ではダメだな。

 俺では、無理だ。

 なら、手伝ってもらうしか無い。


 俺は先程の説明を聞き動揺しているラスイにこう言った。


 「なぁ、ラスイ。 俺はこのまま死ぬのはまっぴらごめんだ。 だから、ラスイの手札を教えてくれ」


 「手札・・・・?」


 「ラスイは最下級魔法が色々使えるらしいからそれを詳しく教えて欲しい・・・・あと植物を探し出したり、化け物魚の接近に気づけた謎の探知能力についても」


 「・・・・た、探知、能力・・・ですか」


 「教えたくないのか?」


 「・・・・えっと、その」


 あの初対面から心フルオープンのラスイが言い淀むとは、よっぽど言いたくないことなんだろう。


 ・・・・あれ、待てよ?

 俺、ラスイの言いたくないことに心当たりがあるぞ?


 ・・・・・そういえばずっと放置してたな。

 あの詐欺師トリオが言っていたな。

 

 「・・・・・そ、その。 えっと、わ、私は・・・【魔人】なんです」


 ラスイは震えながらフードをギュッと両手で掴み更に深く被りながら掠れそうな声で、そう、答えた。


 あぁ、そうだった。


 ラスイは、魔人だったのだ。


 【魔人】とは・・・・魔物の性質を一部持って生まれた人間の事を表す。


 魔人が初めて確認されたのは3000年前と言われており、その時から魔人は迫害の対象となっていた。

 その理由は魔法とは別の何らかの魔物としての能力、『魔能』が使えるのと、体の一部が個人差はあれど人では無い異形となっていて非常に歪でに不気味だからだ。

 更に人間とは根本的に感性がズレているときた。


 しかし今の国王の作った法律等もあり、今では魔人もしっかりと1人の人間として扱われるようになっているが・・・・それでも昔からの根強い差別意識が社会に浸透している。


 だが


 「それで、ラスイの魔人の能力ってどんなのだ? 具体的な説明求む」


 「・・・え?」


 「・・・ん? 何だ? 説明苦手か?」


 「え、えっといえ、あの・・・・魔人、なん、ですよ? わ、私」


 「この状況でそんなこと気にしてたら死ぬわボケェ!」


 そう、本当にそんなことどうでもいい!!


 そもそも俺は母からも感性がズレていると言われていたし(だがそれでいいとも言われた)魔人差別とかなんか・・・めんどくさい!!


 「そ、そんなこと・・・・ 私が、魔人なのは・・・そんな、こと・・・・・」


 俺の言葉を聞くと、どんどんラスイの震えが激しくなった。

 両手どころか全身バイブレーションしている。


 あれ、『そんなこと』って軽く言ったのはまずかったかな。


 もしかして何処かメンタルを傷つけてしまったのだろうか?

 今の状況でそれはまず


 「私の魔人としての能力はですねえっとまずは私がどの魔物の魔人なのかを説明しないといけませんよね」


 俺の思考を遮りめっちゃ笑顔プラス早口で話し始めた、全然傷ついてなかったらしい、むしろ嬉しかったらしい。

 反応を見るに俺の『そんなこと』発言の前後で震えていた理由が前:恐怖→後:興奮になっている。


 「私は[バグスライム]の魔人です」


 バグスライムとは、あのプルプルしたまんまるボディを持ったオーソドックスなスライムが誕生した時より昔の遥か太古から存在したと言われているスライム系魔物の1種だ。


 そのためか大体のスライム系魔物とかなり違う点が多く、形が自由自在な今どきスライムと違い、体の流動性が低いから変形が苦手かつ、ほとんどのスライムが持つ再生能力もトップクラスに遅い。


 また、スライムなのに性別があったり、サイズが簡単に踏み潰せるベビィスライム並に小さかったり、名前の元となった虫の触覚に似たような物が生えていたり、これまた名前の由来となった体を震わせて虫の鳴き声のような音を発したり・・・・


 見た目は小さくなった版スライムに触覚生やしただけでそっくりなのにかなりの差異があるから、こいつは進化の過程で見た目だけがスライムそっくりになった、ただの虫系魔物ではないかと言っている学者がいる。


 現在、スライムそっくりの虫系魔物か虫に似た部分が多いだけのスライムなのか毎日論争が絶えないと言われている。


 ちなみに俺は進化でスライムそっくりになった虫系魔物派だ。


 「それで、えっと・・・」


 いつもの悪い癖でしょーもない事を考えていると、ラスイはずっと外さなかったフードをゆっくりと、外す。

 そうすることで今まで影になり認識できなかった顔が露わになった・・・・・あれ、凄い可愛い。


 髪の毛の水色は今までフードで隠れていたとは思えないほど綺麗でシンプルな水色をしており、確かこの髪型は・・・そう、ロングボブだ。

 淡い空色の瞳は実につぶらで、身長が俺の一回り小さい事もあり少し幼い印象を持たせる。


 なんかこう・・・守ってあげたくなるような、父性本能が刺激されると言うか・・・って、そんなこと考えている暇ねぇ!

 俺は自分の髪を掻きむしり変な思考を一回止めると、ラスイが自分の頭を指さす。


 「こ、これ見てください」


 そこには外側に曲がっている見事なアホ毛が2本生えていた。


 「アホ毛がどうした?」


 「アホ・・・・!? い、いえ、あの、これアホ毛じゃなくて、触角なんです」


 あ、これ触角か。

 この触角がラスイの魔人としての、普通の人間には無い異形の部分なのか。


 ・・・・・異形っていうほどじゃないし、失礼だがなんか地味だな。


 「それで、この触角はレーダーの役割をしていて、周辺の生き物を感知することが出来てですね、えっと、その、知っている物ならある程度絞り込んで感知することも出来る、って感じ、です」


 少しだけ説明がたどたどしいが、なんとなく理解した。


 「えっと、実は魔人としての能力はこれぐらいしかなくて・・・・・」


 魔人はそれぞれ何の魔物の魔人なのかが違うが、その魔物の性質丸々全て持っている訳ではなく、1部だけだったり、元の魔物の能力が変質していたりするものがあるらしい。


 「私が使える魔法もこの前も言った通り、最下級だけで・・・・役に立つとは思え」


 「役に立たせるんだよ! 魔人能力も魔法も、詳しく教えてくれ!」


 「は、はい!!」


 ラスイの手札を確認しつつ作戦を考える。


 だが、きっと俺とラスイの手札じゃ上手くいかないだろう。

 決定的なものが足りない、俺だけでも、2人だけでも、無理だ。


 さっきからラスイに見えない位置でずっとうずくまっているもう1人とも、しっかりと話さなければならないな。


 色々抱えてそうだが・・・まぁ、なんとかなるといいな、ていうか何とかしないとまずいんだけどな!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る