第11話 袋の鼠は危機的状況を気付く

 ドゴォォォォォォォォオン!!!


 化け物が腕を振り下ろした場所の地面が深々とえぐれる。


 呆然とそこに立っていたテクルは・・・・・


 ギリッギリで当たらなかった!


 危なかったーーーー!!


 嫌な予感がして振り向いたらテクルが滅茶苦茶危うい状況になっていたのですぐにUターンして服の右袖をガシッと掴んで引っ張ったのだ。

 ラスイも途中で気付きUターンしたようで俺と全く同じタイミングで左袖を掴み引っ張っていた。

 偶然だが同時にテクルを引っ張ることができギリギリで回避させることに成功したので・・・・・


 「よし、テクル立て! 逃げるぞぉ!!」


 「テクルちゃん! 早く逃げないと!!」


 なぜか引っ張られても尚ボーッとしているテクルの耳元で叫ぶ。


 「・・・・・あ、ご、ごめん」


 テクルの返事を聞き、すぐに俺達は化け物魚から逃げ出す。


 「謝るくらいならとっとと走れぇ! 幸い化け物魚は勢いつけすぎて地面に拳がめり込んでるからな!」


 そうこう言いながら3人で走ってるともうすぐ真後ろから・・・・・


 『ギギググガガガガギギグガギガグギギグガ』


 鳴き声がするぞぉ!? 

 もうとっくに地面にめり込んでいた拳は引っこ抜けてたらしいなぁ!!

 やばい、このままじゃ追いつかれる!!


 「テクルちゃん! いくよ!!」


 「・・・・あ、あぁ!!」


 ん?


 2人はこの逃げながらの状況で何の話をしているんだ?


 ていうかラスイが1番前を走ってるからついて行ってるけど・・・街と真反対の方向を突き進んでいる。

 一体どこに向かうつもりだ!?


 『ガグガァァァァァァァァァァァァァ!!!』


 やばいもう声から分かるすごい近い!!

 あと数秒で追いつかれる、てか速すぎだろこの化け物魚!!


 てか、俺より後に走り始めたテクルが俺より前でラスイと同じ速さで走ってるのはどういうことだ!!


 俺の足が遅いだけだ!! ちくしょーーー!!


 「せーーーーの!!」


 え、突然2人が急に減速したかと思うと、それぞれが俺の手を・・・テクルが左手を、ラスイが右手を掴んだ、と思ったら。


 「「おじいちゃん、大好き!!!」」


 ラスイとテクルが、何の脈絡も無くいきなりそう叫んだ。

 頭おかしくなったのか?


 そう思った、次の瞬間。


 「・・・・え?」


 グニャリと緑に囲まれていた風景が歪み、どんどん激しくなる。

 ・・・・・・・・・


 真っ暗で周りが何も見えなくなり、自然の音も聞こえなくなる。


 ただ、右手と左手の・・・・2人にしっかりと掴まれている感じだけはする。


 これは・・・・なんとなく、次元が歪んでいるような・・・・そんな気がした。


 ・・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・はっ!!


 急に視界が開けたかと思うと、目の前には木造の小屋があった。


 小屋と言ってもそこまで小さいものではなく、数人程度なら暮らしていけそうな、そんな印象を受ける。

 森に長らく放置されて誰にも手をつけられていないわけではなく全くの真逆のようで最近掃除されたかのような綺麗さだ、しかし実際に住んでいる人は居なさそうだ。

 シンプルな作りで材料も木なので質素な見た目だが、どことなく趣があるようにも思えた。


 そして、今の俺には小屋の様子をじっくり見れるほど余裕がある・・・・・何故なら。

 さっきまで血眼で俺達を追っていた化け物魚が近くにいるのには変わりない、しかし。

 追うのをやめて、ただここら辺をウロウロしているだけになっているのだ。

 しかもウロウロしているといってもこちらには一切近付いてこない。

 まるでこちらから向こうは見えているのに向こうからこちらは全く見えていないような感じだ、というか多分そうだ。


 「・・・・ここは何処だ?」


 小屋から目を離すと、すぐ後ろに何かしたであろうラスイがいたので質問を投げかける。


 「ここは・・・・・私達家族が暮らしていた小屋です。 おじいちゃんとテクルちゃんと、私達家族が・・・・」


 ラスイが返事、説明をする。


 それを聞いて一つ思ったが・・・・・


 「・・・・『おじいちゃん大好き』って叫ばないと入れないの?」


 「えっと・・・そうなんです。 おじいちゃんは凄い魔法使いで、〈結界〉の魔法を得意としていて、それで、えっと、この結界は『おじいちゃん大好き』っていう設定された『鍵言葉キーワード』を言った者と言った者にくっついてる者だけが入れるていうルールがあるんです」


  〈結界〉とは何らかの魔法的効果が発生する特殊な空間を展開する魔法だったはず。


 効果や結界の広さなどにもよるが・・・確か一時的ではない長期維持するタイプは組み立て時に膨大な魔力を食うし、維持する為の魔力も必要だし、そもそも普通は1人では作れないんじゃなかったか?

 もしかしてそのおじいちゃんは凄い魔法使いなのでは?

 ・・・・もしかしなくてもラスイが凄い魔法使いって言ってたわ。


 しかし結界に入るパスワードが『おじいちゃん大好き』か。

 なんとなくどんな人物か想像出来る気がするな。

 俺の母と同じような子供を溺愛するタイプの匂いがする。


 「こ、この結界は、ここの存在を元々知らない者は認識すら出来ず、物理的にも入れない〈人払〉〈隔離〉〈歪曲〉〈施錠〉などの魔法効果が乗っているのであの魚みたいなのも入って来れないはずです!」


 結界って乗せれる魔法大体一つなんだけどなぁ。

 魔法4段重ねとか賢者という魔法使いの最高峰レベルじゃ無いと無理なんだけどなぁ。

 ・・・・想像の5倍くらい凄い魔法使いだった。


 賢者レベルの魔法使える人が何で森の中で暮らしてんだよ、おじいちゃん何者だよ・・・・


 ・・・それは一回置いといて、いやメッチャ気になるけ置いといて考えると、つまり俺達はあの化け物魚視点だと急に消えたように見えるわけだ。


 「そういえばそのおじいちゃんって・・・・?」


 「・・・・もう、お空の上にいます」


 お亡くなりになってたのか・・・死後もこれほどの結界が残ってるってどんだけ魔力を注入しておいたんだ?


 「・・・・・・・」


 と、さっきからラスイと話しているがテクルの様子がおかしい。


 化け物魚が接近してた時もボーッとしていたし、今も心ここに在らずといった感じだ。

 しかし何をいえばいいかも分からんし何よりなぜおかしくなってるかも分からないので一旦スルーしよう!


 ・・・・・変に刺激するのも怖いし。


 それよりも。


 「なぁラスイ、この結界ってさ。 なんか・・・街にワープ出来る機能、とかついてない?」


 「ワ、ワープ機能ですか? すいません、無いです・・・」


 「じゃあさ、食料とかあるかな?」


 「そ、それもすいません。 特にこれといった食べ物は・・・定期的に来て御墓参りと掃除をしてるだけですので・・・その、もうここに住まなくなったので必要なくなって・・・・」


 「・・・なら結界の出口ってどこなんだ?」


 「え、えっと、さっきこの結界に入った、『鍵言葉』を言った辺りの所が入口兼出口です」


 ラスイに3連質問をし終わった俺は頭を抱えることになった。

 俺が急に頭を抱えたものだから心配して来るラスイに理由を説明する。


 「・・・・確かにこの結界は安全だけどさ、俺は今、非常にまずい状況だと思う」


 「え?」


 俺は結界の外・・・実際に何処までが結界なのかは正確には分からないが少なくとも奴が入ってこない範囲の外を指さす。


 奴は・・・化け物魚は俺達が消えたところ、つまり結界の出口付近で待機していた。

 ウロウロしてはいるがここから遠くに離れる気配を感じない。

 結界の魔法で認識されなくなっただけで物理的にはかなりの距離なのだ。

 本能のようなものでここら辺にいることがバレてるのか?


 「やばくねぇかな、あのまま化け物魚があそこにいたら、俺達出た瞬間ミンチにされない? ・・・だからといってずっとココで待機してたら・・・」


 ぐ〜〜〜〜〜〜!!


 「ただでさえクエスト連続で受けてて腹減ってるし・・・餓死しちゃうぜ? 俺達」


 俺の腹の音が、その事実を物語っていた。


 ・・・・・・どうやって助かろう?

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