第10話 興味は面倒を上回る
テクルによる監視が始まってから10日ほど経った。
この10日間でいくつか気づいた事がある。
まず、テクルのラスイに対する俺が漠然と感じていた謎の距離感だが・・・・注意して見ていると割と分かりやすくおかしな所が多々見つかった。
例えば、テクルは自分がラスイの右の方にいた場合わざわざ逆側に回ってから近づくのだ。
テクルは行動の節々に自分の左側・・・・いや、正確に言えば見えなくなっている左手をラスイに近づけないようにしているように思える。
俺は面倒くさがりであるが、好奇心旺盛な一面も持つ男。
気になったのでラスイが少し離れた時、それについて遠回しに聞いてみた。
「なぁそのブカブカの左袖、暑くないか? まくらないのか?(意訳:左手気になるから見せて)」
「余計なお世話だ、黙ってろ(意訳:あ゛? 殺すぞ)」
なんか凄い恐怖を感じた。
ラスイについても10日間で分かったことがある。
まず、やはり異常な程自己評価が低い。
この前もすげぇ卑屈な性格してんなぁ、と思っていたが・・・・更にその上をいっていた。
連日採集クエストで9割ほどラスイが見つけて採っているのに報酬のほとんどを俺に渡そうとしてくるのだ。
俺殆ど何もしてないんですが?
本人曰く、「私なんかとパーティ組んでくれたし、貰って欲しいです!」とか言っていた。
脳内カーストに深刻なエラーでも起きてるのだろうか?
ちなみにテクルが滅茶苦茶睨んできたし、俺もそこまで非常識ではないので丁重にお断りした。
お人好しに更にお人好しを掛け合わせてから、卑屈さを大量に混ぜ合わせたらラスイが出来上がるのかもしれない。
ラスイとテクルの関係についても色々知れた。
採集クエストの帰り道、ラスイと雑談をしている時に色々教えてくれたのだ。
「私とテクルちゃんは昔、この赤みがかった森にある家でおじいちゃんと一緒に暮らしてたんです」
「へぇ〜。 街じゃなくて森で暮らしてたんだ」
「はい! おじいちゃんに拾ってもら」
「ラスイ、そこまでコイツに教えなくていい」
「テ、テクルちゃん? 私、変な事言っちゃった?」
「・・・・・別に」
「あーー! そろそろ街に着くぞーーー!」
途中でテクルが明らかに不機嫌になっていたので勢いで話を途切らせる。
多分、ラスイが異常な程俺に対して信頼をしているのが気に食わないんだろう。
ていうか本当になんでラスイは俺にこんな心開いてんだよ!
まぁそんなこんなで何やかんやあったが、結局テクルの謎の距離感の正体はまだ解き明かせていない。
それに日に日にテクルの俺への当たりがどんどん強くなっている気がする。
いつか俺もこの前テクルがクリアしたであろうクエストのツキヤブリの角みたいに、勢い余って壊されちゃわないだろうか?
・・・・あ、そう言えばもう1つ気になることがあるな。
テクルは採集クエストに俺の監視で付き添う時に、自分のクエストはやらないのだ。
一度ラスイと俺がそれぞれクエストを終え、俺たちが各々の宿で泊まってから自分の討伐クエストをやっているらしい。
なぜ付き添いで来る時に一緒に済ませておかず、わざわざ俺達と別れて一度帰ってから向かうんだ?
俺達は夜になる前にクエストを切り上げるから、テクルの行うクエストは夜にしか出来ないからかな、とかも考えたが盗み見したテクルの受注したクエストは、全てなんらかの魔物の討伐系だったが別に昼でも出来るものだった。
というより、付き添いの間は何らかのトラブルで魔物に遭遇した時も、相手がどんなに弱くても戦闘を避けるのだ。
ツキヤブリを倒せるぐらいなら、この前の偶発的(主観)な不慮(主観)の事故で呼び寄せた寝起きのポイズンベアだって倒せると思うのだが・・・
あーーーーー!!!
なぜ、テクルは昼間は戦いを避けているんだ?
なぜ、ラスイはあそこまで卑屈なんだ?
なぜ、ラスイとテクルの関係は歪なんだ?
気になる、気になるぞ!
俺は面倒は嫌いだが、興味がある事を放置するのはもっと嫌いだ!!
・・・いや、本人からしたら勝手に興味を持たれるとかたまったもんじゃないかもしれないが。
でもちょっとだけ、本当にちょっとだけ・・・・・情報収集してみるか。
バレなきゃセーフだろ!
ーーーーーーーーーーーーーーー
更に数日たった真っ昼間。
俺達は恒例の採集クエストの為【赤みがかった森】に来ていた。
「・・・・・」
テクルは相も変わらず俺に対して睨みをきかせており・・・
「あ! これが最後でクエストクリアですね!」
ラスイは相も変わらず植物を見つけては俺の仕事が無くなっていく。
しかし、何だか最近空気がよろしくない。
テクル自身が段々ラスイとあまり会話しないようにしているように見える。
最初いきなりギルドでラスイに向かって突っ込んできた人とは思えない。
まぁ、あの人から色々聞けたおかげでどうしてこんな事になってるかある程度予想は出来るのだが・・・
「テクルちゃん、最近どうしたの? 何だか顔色が・・・・」
「え? いや、大丈夫だ。 少し寝不足なだけで・・・・」
「そ、そう?」
「そう」
「そ、そっか」
「・・・・」
「・・・・・・・」
空気が、空気がなんか重いぃ!
どうしよう、この空気は俺は好みじゃないし・・・かと言って俺が調べた結果行き着いたあの話をするのは今の状況だと火に油を注ぐようなものだし・・・・こうなったら、俺の渾身のギャグで空気を和まそう!!
「ク、クロイさん!!」
「ん? どうした? 今俺は空気を和ますための爆笑ギャグを考えているんだが」
「それは素晴らしいですね! て、いや違います! いや、別にクロイさんの爆笑ギャグを否定するわけじゃないんですけど、その話じゃなくて、えっと」
ラスイがいきなり切羽詰まったかのように冷や汗をかきながら何かを伝えようとしている。
「何だ? どうしたんだよ」
「私たちの方に、物凄いスピードで何かが突っ込んできてるみたいなんです」
「ん? 何か?」
なぜそんなことが分かるのか、というのは一旦置いておいて・・・何かとは何だ?
昼間の赤みがかった森にそこまでビビる程のスピードを持つやつなんていたか?
エキサイトフルーツを踏んで寝ていた魔物を起こすなんて凡ミスもしてないし・・・・
『グギガガガギグガギググガガギギギ』
・・・・なんだか変な鳴き声のようなものが少し遠方から聞こえる気がする。
いや、気がするでなく、実際に聞こえてくる。
このガラスを引っ掻いてるような不快な鳴き声はどんどん大きくなってくる。
そちらの方を見ると・・・・・『何か』が近づいてきていた。
そこにいたのは魔物と言うより、『化け物』だった。
鋭い牙、ミサイルを連想させる先端が尖った形、荒々しい鱗、刃物のようなヒレ・・・そいつはパッと見はどす黒い色の、鮫のような見た目をしていた。
従来の鮫と違うのは、水の中を泳いでるのではなく地面を高速で這って移動している事。
更にそいつの目は不気味なほど真っ赤に爛々と輝いており、その光は確実に俺達をターゲットにしているのが伝わってくる。
その上、そいつには・・・まるでサイズを大きくして黒く着色したかのような・・・人の腕が生えていた。
その腕で進路上にある石や木などの物をなぎ払いながら、赤い目で俺たちを捉え突っ込んできている。
『ガギギグガグガグググギグガガガガガガギ』
とりあえず、まぁ、なんだ。
「あの化け物から逃げるぞぉぉぉぉ!!!!」
俺の掛け声で逃げようとする、ラスイと俺。
俺は急いで走り出そうとして・・・・違和感を感じ、ふと後ろを振り返る。
その違和感は・・・・逃げようとしてる人が1人足りないこと。
俺の目には・・・・既に俺達の直ぐ後ろに来ていた謎の魚のような化け物が、テクルをその腕で潰そうとしている姿がはっきりと映った。
テクルは呆然と、何故か逃げようとせず突っ立ったままその化け物の腕をただただ見上げており・・・・・
ーーーーーその化け物魚の腕は、慈悲も容赦もなく振り下ろされた。
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