第9話 追憶せよ、あの日のトラウマを
・・・・・私には、たった1人の友達がいる。
それと同時にその友達の事を・・・・血は繋がっていないけど、同じ親の元で育った姉妹のようなものだと、私は思っている。
友達は臆病で、自分を異常に卑下してしまうっていう悪い癖があるけど・・・同時に凄まじくお人好しで優しい。
たまにお人好しすぎて詐欺とかに引っかからないか不安になるが、流石にそこまで頭は悪くないだろう。
私はその友達と冒険者のパーティを組んでいる。
友達は戦いに関してはてんでダメだが、隠れている植物や魔物、更に人をも含むあまねく生物を見つけることが出来る『アレ』がある。
そして、私が『コレ』を使って敵を倒すのだ。
探索特化の友達と、戦闘特化の私。
きっとこれからも上手くやって行ける。
パーティとしても、友達としても。
そう、思っていたのだけど。
「最近・・・・誰かに尾けられてる気がするの」
友達は私にそう相談してきた。
友達の『アレ』の察知能力は森や川などの自然の中で真価を発揮する。
人工物が周りに多ければ多い程、『アレ』は周囲の生き物を察知する効果がどんどん下がっていくという弱点があるのだ。
そのため人工物まみれの街中では上手く察知出来ず確信はないのだが、その街中で常に誰かにつけられてる気がするらしい。
「そうなの? じゃあ街中で1人で行動するのは避けて、いつも一緒にいよう!」
私はそう提案し、友達もそれに同意してくれた。
ただ、この時の私は(もっと一緒にいる時間が増える! やった!)と、軽く考えていた。
そして常に一緒にいるように心がけてから、2ヶ月ほどたった。
これほど時間が経ったけど何も無かったし、私はもう完全にあれは友達の思い違いだったんだと、そう油断していた。
だけど、あの日の夜。
クエストが少し長引いてしまい、深夜に街に帰ることになった。
そのクエストは指定依頼という形式であり、依頼主が直接冒険者を名指しで依頼するものだ。
それで私達が直々に指定された。
クリア自体はなんとか出来たが・・・・なかなかに手強かった。
[ポイズンベア今夜中に10匹討伐]・・・・報酬は中々いいものだったが、1匹ならまだしも流石に連続で10匹はかなり危なかったのは間違いない。
その為、体力の消耗が激しかった私は酷く疲弊していた。
そう、そのせいですぐに気づけなかったのだ。
月明かりがない新月の日だったのもある。
気づいた時には、私の隣で一緒に帰路を歩いていたはずの友達は・・・・いなくなっていた。
「・・・・・え? ど、どこにいった!?」
友達は何も言わずにフラフラどこかに行くような子ではない。
ましてや二ヶ月前とはいえ外出中は常に一緒にいると約束もしていたのだ。
そこから考えて明らかにおかしいと思った私は、焦りつつも周囲をすぐに見回した。
すると私のすぐ後ろで・・・・うっすらと、しかしこの暗闇ではハッキリと目立つ指先サイズの小さな光の玉が私の後ろに浮かんでいた。
その光の玉は何個もポツポツと点在しており、道しるべのように路地裏へと続いていた。
これは友達の魔法である〈微明〉によって生み出される光の玉だ!
きっと何かがあった瞬間、友達が咄嗟に出したのだろう。
そうこう考えているうちに光の玉が徐々に小さくなっていく。
最下級魔法である〈微明〉の効果時間は少ししかない、急いで光の玉が続いている路地裏へと走って向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
〈微明〉による光の玉を追うと、そこには怯えている友達と・・・・中年でガリガリに痩せている無性ヒゲの男がいた。
男は私に気づいておらず、怯えている私の友達に口臭がダイレクトの当たってしまう程の至近距離で話しかけている。
「・・・・であるからして、君を幸せにしてあげられるのは僕だけなんだよ!」
「ーーーーー!!」
私の友達は何らかの魔法で生み出されたと思われる真っ白で僅かに発光しているなロープで拘束されており、口には物理的にガムテープが貼られ喋れないようになっていた。
喋るという自分の気持ちの表現方法の1つが使えなくなっているが、それでも友達が明らかにその男を嫌がり拒絶しようとしているのは簡単に分かった。
友達は体をよじり抵抗をしているが、頑丈な魔法のロープはびくともしない。
「そ、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。 確かに荒っぽい方法になっちゃったけど・・・・仕方ないよね! 驚かせちゃった分、僕が君をまるで天国にいるかのような気分にさせてあげるから!」
私があまりにも唐突な状況に思わず少しフリーズしてしまっていたが・・・・徐々にしっかりと理解してきた。
私の友達がストーカーに無理やりここまで連れ込まれたのだ。
あの鼻が詰まったかのような不快な声・・・・・・
思い出したぞ、あの男はかなり前に道に迷っていた時に友達が道案内をした奴だ。
あの時も友達への視線がどことなく不穏だったが・・・・コイツが友達のストーカーだったのか。
「・・・・ん?」
その男が動こうとした私の存在に気づき、後ろを振り返る。
「んん!? なぜここまで来れてるんだ!? ここに入れないように〈人払〉の魔法をかけておいたのに! まさか、君が何らかの方法で伝えたのかい!? そうだ、そうに違いない! そうでもしない限りこの場所は〈人払〉の効果で無意識に避けてしまう筈なんだから!」
男は友達に向かって怒っているが・・・・怒っているのはこっちの方だ。
「・・・・なぜ、私の友達を攫ったんだ」
「攫った? いいや、違うよ! 僕は救ったんだよ! 君という化け物に騙されているお姫様を!」
「・・・・・は? 化け物?」
「彼女も僕のことが好きなんだよ! そうでもなきゃ、あの時道に迷っていた僕を助けるはずがない!! だからこそ! 化け物に騙されている彼女を僕が助けるんだよ! それが僕の使命!! 僕は彼女の王子様なのさ!!!」
「・・・・・あ゛?」
意気揚々と常人には理解出来ない理論で語る男に、私は猛烈な、呆れと憤慨を同時に覚えた。
友達はただ人を助けただけなのに、なぜこんな最悪の形で結果が帰ってきているんだ?
「でも、最初は彼女を見守るだけにしようと思ったんだ。 だけど君が・・・・化け物がずっと彼女に張り付いているから! 僕が行動することにしたのさ! まず君が疲労困憊になるギリギリのラインを見極めた指名依頼をする。 僕としてはさらに難しいクエストを出して死んで貰ってもよかったけど、彼女はきっと化け物だろうが慈悲を与えるからね。 そこまではやらないでおいてあげたよ」
・・・・コイツが言っている『化け物』とは・・・・私のことか。
男はなおもヤケに大きい身振り手振りを挟みながら得意げに不快な言葉を発し続ける。
「あとは、〈無音〉、〈隠密〉、〈拘束〉、〈人払〉の魔法を使って静かに彼女を迎えるはずだったのに・・・・化け物が! また僕と彼女の愛を邪魔するのか!」
・・・・・・・・
「君みたいな女の皮を被った化け物が彼女と一緒にいていいわけがないんだ! 彼女は騙されている!! 彼女を救うために僕は魔法の勉強をし直して、新しく沢山の魔法を習得したんだ!! 全ては愛のために!!!」
・・・・・・・・・・・・・・
「彼女は僕と結ばれて、初めて幸せになれる! 彼女もそれを望んでいるんだ!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「だから彼女の為にも。 殺しはしないけど、化け物は二度と彼女に近づけないようにしてあげ・・・・・・え?」
・・・・・私は、気づいたら『コレ』を相手に向けて振るっていた。
「ぐふっ!?」
『コレ』をくらった男が後方に向かって勢いよくぶっ飛び、壁に叩きつけられる。
壁には少し亀裂が入り、壁の材料である石の破片が少し落ちる。
しかし、男は未だ元気な様子で狼狽しつつもすぐにまた話し始める。
「・・・や、やはり化け物だ! でも大丈夫さ僕のお姫様。 僕にはさっき言った魔法以外に〈堅固〉の魔法がある。 この魔法で僕の体は堅くなってるからそう簡単に・・・・ぐはっ!?」
私は呑気に友達に向かって何かをほざいている男に再び『コレ』を振るうと、壁に叩きつけられていた男は更に壁にめり込む。
「ぼ、僕が・・・・話している最中だぞ! 分をわきまえ・・・ぐぶうっ! ちょ、おい! 人の話・・がはっ! おま・・・ひべぶっ!」
振るう、振るう、振るう。
男、いや・・・・私の敵はどうやら〈堅固〉の魔法で耐久力が格段に上がっているようだ。
しかしそんなのは関係ない。
振るう、振るう、振るう、振るう、振るう。
「ひぐがっ! ぐふぉっ! がぐっ! 」
私の敵は『コレ』をくらう度に滑稽な鳴き声を発する。
「ぼ、僕が・・・ぐぎゃっ! 一方的に・・・げがっ! やられてるだけだと・・・・ごっ! 思うなよ・・・・・がっはっ!」
振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう振るう。
振る、う!?
振るい続けていると、突如強い衝撃が私の右側頭部を襲った。
その衝撃は凄まじいもので、私の意識は薄れてゆく・・・・・・
「ぜえっ! ぜえっ! ・・・・はははっ! そ、 その魔法は〈気絶弾〉!! これをくらった君はしばらく目覚めれなくなる!! 化け物の割には中々やるようだったが・・・僕と彼女の愛の前では全てが無力なのさ。 さぁ、行こうかお姫さ・・・・がぶぼっ!?」
・・・・・・ふるう
「な、なぜ起きている!? ひ、ひぃっ!! おい、やめ、でぐがっ!! ば、ばけも、のぶぼっ!!」
まだ、意しきをて放してはいけない
まだ、コいツをツぶせてな、い
まだ、まだ、コイツ、こいつ を・・・
「ゆ、許して・・これ以上は・・・しん、じゃう・・・」
ころせてない。
わたしはふたたびいちげきを・・・・・
「・・・・・・・!!」
「・・・・・・!」
くわえるまえに、へいしがきた。
わたしのいしきはなんとなくおぼろげで、こえはきこえないけど、あのよろいはけいびへいだ。
友達が、おとこがあまりにびびったときにろーぷのまほうがかいじょされたようで、へいしをよびにいくことができたようだ。
わたしはぼこぼこになって壁にめりこんだおとこをほ縛する兵士をみて・・・・・すこし冷静になってきて・・・・ふと、“左手”に当たる部分を見る。
そこは、真っ赤に染まっていた。
私は青ざめ、思わず友達の方を見る・・・・と。
酷く震えて、怯えたように、私を見ていた。
・・・・・あ。
私はここで今更〈気絶弾〉の魔法の効果が出てきたのか・・・・意識を手放した。
失いゆく意識の中、私は深い後悔の念に包まれた。
私は、友達に・・・あの優しい友達に殆ど一方的に相手を『コレ』で滅多打ちにして蹂躙する私という・・・・トラウマを残してしまった。
だからもう、『コレ』を友達の前で使ってはいけないのだ。
彼女の・・・私の友達、[ラスイ]のトラウマを掘り起こさないように。
ーーーーーーーーーーーーーーー
・・・・・・それは数年たった今でも変わっていない。
ラスイはいつの間にか知り合った[クロイ]とかいう男と仲良くしているが・・・またあの時のような、優しさが最悪の結果で戻って来る事が起きるかもしれない。
だからもしそんな事になりそうだったら直ぐに止めれるよう、監視するのだ。
私は・・・・・[テクル]は、そう決意したのだった
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