第8話 不注意は不快感を高める

 俺達は赤みがかった森へと入り、早速テクルとのゴタゴタの前に受注していたクエストをクリアするために落下種を探し始めた。


 そう、本当に今さっき探し始めたはず・・・・・だったのだが。


 「あ、ここに埋まっているので5つ目ですね! これを掘ったら クエスト達成です!」


 ラスイが10分足らずで5個とも全部見つけ出しちまった。

 早すぎる! おかしいだろ!


 こっちにあると思います、とラスイが言ったかと思えば本当にその場所にあるのだ。

 あれかな? 知識があるから土壌とか空気とかなどの周りの環境でわかる的な?

 けどラスイはそんなに周りを観察して位置を考察するような様子は見えない。


 1つ言えるのはラスイがあまりにも見つけるのが早いせいで・・・・いや、おかげか?

 とにかくラスイの高速採集によって俺本人は1個も見つけられなかった。

 そもそも落下種は全て地面に埋まっており、見つけづらいはずなのだが・・・・


 もしかして植物を見つける魔法でもあるのか?

 でも最下級魔法にそんな便利な魔法があるとは思えない。

 俺が尋常じゃないラスイの植物を探し当てる能力に疑問を抱いていると、俺と5歩ぐらい離れた隣にいるテクルが相も変わらず俺に対し不機嫌な面で話しかけてきた。


 「なぁ、ラスイがお前とパーティを組むメリットはあるのか? 全部ラスイが1人で見つけたが・・・・お前は何もしてないじゃないか。 あるのは特に何もしてないのにパーティだからってことで一緒にクエストクリアになるお前のメリットだけで、ラスイにはそれが無い。 これじゃ分配が無い分ラスイがソロでやって行った方が効率がいい」


 ・・・・・・・・・・


  「・・・・落下種は[落花]っていう花の種子が熟しきって破裂する時に周囲にばら撒かれるんだけど、親の落花に地面に沈む魔法〈沈下〉が事前にかけられているからばら撒かれた後全部地面に埋まっているんだ。 そして土の栄養とかである程度育つと自分が埋まっている土の上に一定の重さが加わった瞬間、成長し自分も使えるようになった〈沈下〉の魔法を使用して上に乗った相手を自分の栄養にするために自分の所まで落とすんだ。 その性質から『天然の落とし穴』と呼ばれている。 落花によってはネズミ系の小さな魔物にも反応して沈ませる個体もいれば、人の重さでも反応しないぐらい滅茶苦茶重く大きい獲物を狙うギャンブラーみたいな個体もいる。 まぁ、なんにしろ種のうちに回収しとかないと後々面倒なことになりそうな食肉植物なんだ」


 「・・・・・・・急に早口で語り始めてどうした」


 「一応魔物とか植物の知識は割とあるからそこをアピールしようかと思って」


 母は言っていた。

 知識は大事だ、その事について知らない相手にドヤることが出来るから・・・・と。


 「お前の知識がなくとも、ラスイは自分で危険な植物かどうかを見分けることが出来る」


 マジかよ。


 「どうやって見分けるんだ?」


 「・・・・・あーーーー、勘だよ、勘」


 「勘か、そりゃ凄い」


 テクルは俺の問いに返事をした時に妙な間があった上に視線を逸らしていた。

 母も俺に嘘をつく時よく逸らしていた・・・・母の場合は視線どころか顔ごと逸らすので分かりやすいことこの上なかったが。

 テクルの言う『勘』は恐らく嘘だろうが、多分詐欺師トリオも言っていた『魔人』がどうたらって話に関係しているのだと簡単に思い至った。


 なら面倒くさそうだし勘でいい。

 そういうことにしておこう。


 だが、面倒臭そうだけど・・・・それ以上に一つ気になることがある。

 それはテクルとラスイの少し歪な関係。

 一見仲が良さそうに見えるし、実際さっきまでの行動からして仲がいいのは間違いない。


 しかし2人はパーティを組んでいない、それだけならまだ別の理由があるかもしれないが・・・・その上テクルからラスイに対しては謎の距離感がなんとなくあるように見える。

 そんな事を考えていると、ラスイが地面に埋まっていたラスト5つ目の落下種を取り出す事が出来たようだ。


 「掘り終えました! これで落下種5個回収です! 早速ギルドに持って帰りましょう!」


 「そうだな。 まだ10分しか経ってないが・・・・一度帰るか」


 何もしていないが俺がそう言うと、ラスイは手が土で汚れたのに気付いていないのか一緒のクエスト成功が嬉しいのかテクルと両手でハイタッチしようとする。

 その土汚れを気にすることなくテクルはで両手を受け止めハイタッチする。


 次からは一度に複数受注することしよう、一々行ったり来たりは面倒臭い。

 テクルとラスイのハイタッチを見流しながらそう思案しながら帰る為に少し後ずさると・・・・


『グジュ』


 ・・・・何か柔らかい物を踏み潰した感触を靴越しに感じる。


 次の瞬間ラスイがハイタッチのポーズをのまま急に顔面蒼白になりながら震え出して俺の方に視線を向けた。


 「ク、ク、クロイさん・・・・! そ、その、う、後ろに・・・」


 ラスイが俺を・・・・いや、正確には俺の後方に向かって震えながらも指をさした。

 ハイタッチポーズを解除したテクルも俺の方に視線を向けると「マジか?」とでも言いたげな驚きと苛立ちが合わさったような表情になっている。

 何事かと思っていると。


 『グルルルルルルルルルルルル』


 ・・・・・ 後ろから不穏な気配と獰猛そうな鳴き声と俺自身の生命の危機を感じる。


 俺はラスイのように震えながら後ろを振り向く。


 ・・・・・・そこにはいかにも獰猛そうな巨大熊がいた。


 ヤケに派手な黄色の毛は警戒色、額には小さな角、そして唸っている口の間から覗く牙は簡単に人を噛み殺せそう、というか鋭い爪でも斬り殺せそう。

 この特徴を持つ熊系魔物は・・・・毒を持つ熊、[ポイズンベア]だ!

 コイツは確か夜にならないと目覚めない夜行性の魔物のはず!!

 なのになんで起きてるんだよ!


 「ク、クロイさんの足元・・・・」


 足元?

 俺が下を見ると、どうやら俺が踏み潰した物は星型をしたオレンジ色の果実だったようだ。


 ・・・・・確か、この星型果実の名は[エキサイトフルーツ]。


 果肉の中の種を踏むなどして衝撃を与えると、魔物を興奮させる特殊な匂いを放つ。

 その効果は、実際に興奮剤に加工して使われている程といえば推して知るべしだ。

 しかも少しだが中毒性もあったりする。


 ・・・・『種を踏むなどして衝撃を与えると、魔物を興奮させる特殊な匂いを放つ』?


 ・・・・・成程! 俺がこれ踏んだせいで興奮して起きたのか!!


 いや待て? テクルは同じく夜行性で強いあのツキヤブリを倒したんだ、きっとポイズンベアも倒してくれ


 「何ぼーっとしてるんだ! 逃げるぞ!!」


 るはずとか思ってたがテクルは既にラスイの左手を掴み引っ張って逃げていた。


 あ、普通に逃げるのね!?


 ・・・・その後、ポイズンベアの興味がエキサイトフルーツそのものに向かっていた事もあり、なんとか逃げ切ることが出来たが・・・・テクルの俺への評価が、『役にも立ってないのにその上トラブルまで起こす奴』になってしまったのは言うまでもない。

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