第7話 破片は強者を物語る

 「・・・・なぁ、そろそろクエストに行かね?」


 俺そっちのけで会話に花を咲かせているラスイとテクルだが、流石にずっと待つのは嫌なので水を差す。


 「あ、す、すいません! じゃあテクルちゃん、行こ!」


 ラスイの言葉に対し、テクルはストップの意味を持つ手のひらを突き出すポーズをとって俺達と少し距離を取った。


 「あー、ちょっとだけ待ってて。 私今からクエストの成功報告するから」


 「とっとと済ませてくれ」


 「・・・・・その言い方なんかムカつくな」


 俺の物言いに少し苛立ったようなテクルはそう言い捨てるとそのまま受付に向かった。

 そういえばあいつ服の付着物からして森に行ったのはほぼ確実だけど、なんのクエスト受けたんだろう。

 俺は気になったので忍び足で少し近づき、テクルと受付さんの話を盗み聞きプラス盗み見することにした。 


 「はい、ではギルドカードと成功証明を提示してください」


 受付さんはいつもの笑顔で提示を求める。


 「はい、これです」


 そう言うとテクルは右手から普通にギルドカードを受付さんの前に出した。

 その次に規格外な大きさで左手を覆い隠しているいる左袖の袖口から、受付カウンターに落とすかのように何かを出した。

 右袖は普通の長さで右手が出てるのに、左手は長い袖の中に隠してるのかが気になるが・・・・今は出したものの方が気になる。


 それは、何かが割れた欠片のような物だった。

 少し茶色っぽく汚れているが元は白かったのだろうというのが見て分かり、なんとなく硬そうな印象で・・・・破片の量からして元はかなり大きかったんじゃないだろうかと思える。


 元が何なのかを推測しようとしてると、テクルが受付さんに答えを言った。


 「[ツキヤブリ]の角だよ。 ま、討伐する時に勢い余って割れちゃったけど・・・・証明にはなるだろ?」


 「はい、大丈夫です! では報酬の4000エヌです!」


 ほ、報酬が4000エヌだとぉ!!


 どうやら討伐クエストのようだが・・・確かツキヤブリは赤みがかった森の強い魔物が活動する夜の時間に巣穴から出てきて活動し始める猪型の強力な魔物だったはず。

 オスメス関係なく長く鋭い牙を持っており、その牙は月の光に反応して金色に輝く三日月のようであり、簡単には割れることがないと言われている。

 肉食のそいつは獲物を見つけては凄まじい速度で猛進し、その牙で貫くのだ。

 どれだけ相手が硬くても、先述の通り牙は簡単には割れないから・・・・


 牙は・・・・簡単には・・・割れ、ない・・・・から・・・・

 ・・・・・・・割れない?


 俺は目を一度擦り、もう一度ちゃんと受付カウンターに置かれた物を見る。


 ・・・・・・・・どう見てもめっちゃ割れて破片になってますけど!!


 (心の中で) 一つ言わせてもらうがそもそもツキヤブリはソロで討伐するような魔物ではない!!

 ツキヤブリは強力な魔法を使うことが出来る魔物で、その厄介な魔法の名は〈猪突猛進〉。

 使用効果は自身の速度と物理的&魔法的耐久力を超上昇させ、狙った相手を自動的にホーミング出来るようになるというものだ。

 自分より大きな相手・・・例えば人間を見つけた瞬間ツキヤブリはすぐに〈猪突猛進〉の魔法を使用して突っ込んでくるという生態を持つ。


 例えその突っ込んできたツキヤブリを自分に向かってくる途中で殺せても〈猪突猛進〉の魔法の効果は直ぐには消えず、なんと死体のまま残りの魔力でホーミングしてきてそのまま角で貫かれ殺されてしまうという初見殺しの魔物なのだ。


 一般的な対処方法としては、〈猪突猛進〉は一度解除されるまで狙った1人しかホーミング出来ないことを利用し、囮と攻撃役に分け1人はカーブなどを使い上手くホーミングしてくるツキヤブリを躱わし続け、それ以外の人が囮を追いかけているツキヤブリを魔法やトラップなどの方法で仕留めて、死後も引き続き〈猪突猛進〉の魔力が切れるまで囮が逃げるというもの。


 ソロで討伐する場合は逃げながら追ってくるツキヤブリに魔法を撃つことになるが、狙いも定まらないだろうしそもそも魔法を使えば大体の人は減速しちゃうから追いつかれてしまうはずなのだ。

 だからといって気づかれて〈猪突猛進〉を発動される前に攻撃しようとしても、ツキヤブリはその名の通り敵意を感知する〈敵意感知〉の魔法がデフォルトである為一人討伐は難しい。

 そして真っ向からの接近戦ではツキヤブリが普通に強いから大抵無理だ。


 つまりどんな方法で倒したかは知らないが、ツキヤブリをソロで倒せるかつ牙を粉々に出来るような奴は・・・・どう考えても滅茶苦茶強いという結論に至る。


 「言われた通り、とっとと終わらせてきたぞ。 さぁ、クエストに一緒にいこうじゃないか」


 テクルは俺たちの元に戻ってくると、強く俺を睨んできた。


 ・・・・・やべぇよ、俺ヤバい奴に敵視されてしまった。

 今の俺はあいつにとって友達を誑かした悪い奴に見えるだろうし、かと言って今更パーティ解散を受け入れてもそれはそれでラスイが悲しんでテクルに殺されそうだ。


 と、とにかくテクルに俺が無害な奴で、ラスイを誑かしたわけではなく成り行きでこの状況になったということをアピールしなければ!


 いつか俺も何かをきっかけにバラバラのコナゴナにされる前に!


 「あ、テクルさぁん! なんか荷物とかあったら持ちますよ! へへっ!」


 「おい、なんで急に敬語使い始める。 あと『へへっ!』ってなんだ」


 これ以上俺へのヘイトを溜めないようにしなければ!

 俺は心からそう決意し、クエストに向かうのだった。


 「なんか急に敬語使ってきて気持ち悪いな・・・・」


 ・・・テクルがボソッっとそう言ったのが聞こえたので敬語はやめとこうと決意を新たにするのだった。

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