第6話 能ある人は何かを隠す

 「・・・・お前、ラスイとのパーティ解散しろ」


 テクルは俺に向かってそう言い放った。


 「テ、テクルちゃん! せっかくパーティ組んでくれたのにそんなのってないよ!」


 ラスイは手をバタバタさせながらテクルに反対する。

 

 「ラスイ、きっと騙されてるよ。 ラスイは人を見る目がないんだから」


 「そんなことないよ!」


 そんなことあると思うぞ、昨日詐欺に遭ったの忘れたか?


 「クロイさんはきっと良い人だよ!」


 「その根拠は?」


 「だって私なんかに報酬を9割もくれる人だよ!」


 「・・・・いい? 悪い人はまずは甘い汁を吸わせて油断させてくるんだよ。 実際パーティ組むっていう甘い汁に引っかかって詐欺にあったんでしょ?」


 「俺も簡単に人は信用しない方がいいと思うぞ」


 「クロイさんはそっち側なんですか!?」


 「普通にこの人の言葉、一理どころか千理ぐらいあるからな」


 俺はテクルの意見が至極真っ当だと感じ、うんうんと頷く。


 「・・・・・お前、それを自分で言うのか?」


 テクルが冷めた視線を向けてくる。

 そしてそのまま視線をずらすことなく、俺を半目で睨みながら何かを思案するかのような顔になった。


 「・・・・まぁ、いきなり解散っていうのも早計かな」


 「そ、そうだよテクルちゃん! 早計だよ!」


 ラスイが凄まじい速度で首を縦に振りまくる。

 勢いでフードが外れるのが嫌なのか、しっかりと両手でフードを掴み固定しながら。


 「じゃあ、試そうじゃないか。 お前がラスイとパーティを組むのに相応しいかどうか」


 「え」


 ・・・・なんだかとても面倒な予感がする。


 「それじゃ、まず質問するぞ。 どうしてラスイにパーティの件を持ちかけたんだ? ぶっちゃけラスイって魔法は最下級しか使えないから、わざわざ組むメリットはないと思うけど」


 「それなら俺だってデバフしか使えんぞ」


 「え、そうなの?」


 「そうだ。 採集クエストしか受けないだろうし、単純に人手は多い方がいいだろ?」


 全ての採集でもそうなのかは知らないが、少なくともポワポワ花での採集速度は凄かったからな。


 「じゃ、じゃあ次の質問。 どうして詐欺にあった直後にラスイにクエストの手伝いをさせた? 普通、傷心中の人にする行動じゃないが」


 「なんていうか、ノリと勢いでいっちゃって・・・」


 「・・・・・・」


 テクルがマジかコイツって目で俺を見ている。

 直後、何かに勘づいたようで目を見開いた。


 「・・・・待てよ? さっき聞いた話、よくよく考えればベビィスライムを凍らせたのはラスイなんだろ? じゃあ報酬の1割もお前は貰うべきじゃなかったんじゃないのか?」


 「・・・・・ぐうの音も出ねぇ!」


 俺、可哀想だしパーティ組みたいし報酬多めにしてあげよとか思ってたけどそもそも俺命令しかしてねぇ!


 「で、でもクロイさんがいなかったら、私そもそもベビィスライムがお金になる事気づかなかったよ!」


 ラスイがテクルに必死に訴えかけている。

 何この子、めっちゃフォローしてくれるじゃん。


 「・・・・・・・・」


 テクルの顔は誰が見ても明らかに不機嫌そうだ・・・・目の吊り上がりが凄いことになってる。

 だが普通に考えてそりゃそうなるだろう。

 詳細な関係性は分からないが、先程からの感じから察するに恐らく2人は友達な筈・・・・テクルはいきなり肩に手を掛けてたし、ラスイはテクルに対して敬語が外れている。

 テクル視点だと自分の友達が怪しい男に騙されてる様にしか見えない状況なんだよなぁ。

 そりゃあ不機嫌にもなるだろう。


 「・・・・そんなにその男がいいならパーティ組んだままでいいよ」


 顔は不機嫌なままだが、テクルが急にさっきまでとは真反対のことを言ってくる。

 しかしその直後、テクルは俺に指をさしてこう言い放った。


 「ただし! しばらく私も同行するからな!」


 ・・・・本当に面倒くさそうなことになっちまった!!

 ラスイを直接説得しても効果が薄いと見てアプローチの仕方を変えたんだろうな。

 俺を監視してなんらかのボロを見つけたり暴いたりして、ラスイが俺に幻滅し自主的にパーティ解散するように動かすために違いない。


 「テ、テクルちゃんとに一緒にクエストに行けるなんて! 嬉しい!」


 俺のような深読みはしてないであろうラスイは純粋に喜んでおり、ぴょんぴょん跳ねて喜びを表現している。


  「・・・・・あぁ。 私も嬉しいよ」


 そのままテクルとラスイは先程とは打って変わって正に友人同士といった近況報告のような会話を楽しそうにし始めた。


 ・・・・・このタイミングで俺は、とある違和感を感じた。


 よく見ればテクルの服の腰部分にはとても薄い菱形の葉っぱがくっついている。

これはシール草と呼ばれる、ここら辺では赤みがかった森にしか生えていないその名の通りまるでシールの様に様々なものにぺたっと貼り付く特徴を持った葉だ。

 テクルは今さっき赤みがかった森から帰ってきただろう痕跡として、他にも服に少し付着してしまっている赤みがかった森特有の青色の泥よごれなどがある。

 つまり先程まで赤みがかった森にいたのだろう。

 そしてギルドに来たことからも考えて、赤みがかった森に行った用事はもちろんクエストと推測出来る。

 そしてクエストを終わらせてギルドに1人で戻って来たということは昨日の俺と同じソロの冒険者だとも考えられる。


 ラスイも昨日まではソロの冒険者で、テクルも多分ソロの冒険者。

 ・・・・しかし、これほど仲がいいのに何故パーティを組んでいなかったんだろう?


 ・・・俺はふと、ラスイと話しているテクルの顔を見る。

 談笑しているテクルの笑顔は何か、どこか気まずそうな、後ろめたいようなものを隠しているように見えたのは・・・・・疑り深い俺の気の所為だろうか。

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