第5話 面倒事は次のトラブルを起こす
現在時刻は午後11時半。
パーティ結成の手続きや、罰金の件、ツケの支払いですっかり夜になってしまった。
ベビィスライムの件、受付で話していた時に他の冒険者がいなくて良かったと心の底から思う。
聞かれてたら質問攻めで更に時間を食われただろう。
ちなみに最終的な俺達のお財布事情はこんな感じ。
クロイのお財布【3万エヌ】(ベビィスライムの報酬)+【25エヌ】(ポワポワ草の報酬)-【2万8千エヌ】(ツケ)=【2025エヌ】
ラスイのお財布【27万エヌ】(ベビィスライムの報酬)+【25エヌ】(ポワポワ草の報酬)-【5千エヌ】(罰金)=【26万5千25エヌ】
・・・・・俺、かなりツケ滞納してたんだなぁ。
酒場のお姉さんの俺への荒い対応も普通に考えて妥当だっだようだ。
ちなみにラスイの罰金だが、詐欺トリオの言葉通りラスイのギルドカードで受注されていたためやはり支払わなければいけなかった。
そして詐欺の件も証拠が無いし、ギルドカードという超大事な物を誰かに渡すのは自己責任な為詐欺トリオから勝手に引き出された金は取り返せないらしい。
尚、その事をラスイに言うと。
「だ、大丈夫です! そもそも私の問題ですし、全然気にして頂かなくて大丈夫です!」
「・・・・ちなみに、興味本位で聞くが。 ギルドバンクにはいくら預けてんたんだ?」
「昔から採集クエストを毎日やって貯めた63万8750エヌです!」
「・・・・・!?(絶句)」
え、こいつ正気か?
俺の思っていた何倍も失ってた。
それほどの大金奪われた直後に他人の手伝いとかマジで正気か?
そしてその直後にパーティ結成を即答で了承し滅茶苦茶喜ぶ・・・・思ってた何倍も感性がズレている。
・・・・まぁ、手伝いの要請もパーティ結成の件を持ちかけたのも俺だが、それは置いておこう。
「じゃあ明日の・・・・そうだな、割と疲れたから8時ぐらいにギルドに集合しようぜ」
「あ、はい! 分かりました! また明日会いましょう!」
「おう。 じゃあなー」
金も仲間も得たし、今日は久しぶりに明日への不安感なくベッドで眠れるな・・・・
ーーーーーーーーーーーーーーー
二人の男女が話している。
どちらも輪郭がはっきりしていないが、大きさや何となくの体格から判断するに男は子供で女は大人のようだ。
周囲の風景も霧に包まれてるように見えにくが、家の中のように思える。
『おいクロイ! デバフだって悪いもんじゃないんだから、そんなに拗ねる事ないだろ!』
『うるさーい! 母には俺の気持ちなんて分かんないだろ!』
『そんな事ないって! 母バリバリ分かるって!』
『ふんだ! どうせ俺は母みたいにはなれないよーだ!』
『そんな事言うなよ・・・・泣くことになるぞ?』
『ま、まさか子供に暴力振るう気!? 児童虐待はんたーい!』
『何言ってるんだ! 泣くことになるのは息子に拗ねられてメンタルがやられた私だ!』
『えぇ!? 精神面弱過ぎない!?』
『あ、もうダメだ! 泣くぞ! 泣くからな!』
『どんな脅し方だよ! ごめんなさい! 俺が悪かったよ! デバフにもきっと使い道がある! って、ちょ、抱きついて来んな!』
『よく言ってくれましたぁ! そう! どんな魔法も必ず何かの役に立つ! だってーーー』
ーーーーーーーーーーーーーーー
そこで目を覚ました。
真っ先に目に飛び込むのは、現在進行形で借りている宿屋の部屋の天井。
少ない金でも大丈夫な宿屋なので、内装は質素で接客も多少雑であったがこの慎ましい感じは嫌いではない。
「・・・・懐かしい夢だな」
母との思い出を、冒険者になってから夢としてよく見る。
最近はそうでもなかったので、思い出の夢がより一層懐かしく感じられた。
・・・・・『どんな魔法でも』、か。
俺は過去に思いを馳せながらゆっくりと起き上がり、そして時計を見る。
現在時刻、7時50分
待ち合わせ時刻、8時
ここからギルドまで普通に徒歩で向かった場合の所要時間、15分
・・・・・俺はダッシュでギルドに向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「あ、クロイさん! おはようございます!」
全速全力の走りで息を切らしながらも8時ぴったりにギルドに着けば、先にいて待ってたであろうラスイがトテトテと走りながら寄ってくる。
昨日と同じくすんだ青色のフードを深々と被ったローブ服の格好だ。
「す、すまん・・・・ギリギリ、というかピッタリになっちまって・・・・・」
「大丈夫です! 私もギリギリでしたので!」
「そ、そうか ・・・・うん?」
大丈夫と言いながらニコニコしているラスイの向こう側が受付となっているのだが、そこには昨日と同じ受付さんが居る。
その受付さんはラスイにとっては背中側なので見えてないだろうが、俺達に視線を向けると顔を横に振り手で4という数字を作っている。
どういう意味・・・・・え、まさか。
「ち、ちなみに何時くらいに着いた?」
「4時です!」
「何がギリギリだ、次からもう少し遅れろ!」
集合時刻の4時間前からギルドで待ってたとか、早過ぎだろ。
というか睡眠取れてるのか?
「お、遅れればいいんですか? で、では! 次から4時半にします!」
ダメだこいつ。
「いや、うん、もうそれは後でもう一度話し合うとして・・・・どのクエスト行く?」
ベビィスライムの捕獲はもうクエスト一覧から消えているようだ。
また捕獲しても報酬は貰えない。
そう言えば、ベビィスライムをどうやって凍らせたかは昨日ラスイに聞いたが、本人曰く自分でも分からないらしい。
本来、最下級魔法でも攻撃ならベビィスライムは凍りながらどんどん自壊で割れていくはずだが・・・・いつかこの謎が分かるだろうか?
まぁ1回それは置いといて。
ラスイも俺も戦闘は無理だろうから、やはり採集クエストをやることになるだろう。
2人なら単純計算で倍こなせる・・・・と思ったがラスイ、ポワポワ花の時俺とは比べ物にならない速度で集めてたな。
2倍どころでは済まないかもしれん、嬉しい限りだ。
「えーっと、採集クエストで良さそうなのは・・・」
「あ。 こ、これなんてどうでしょうか!」
「ん? [落下種5個採集] [報酬200エヌ]か。 そうだな、これにす」
その時の事だった。
「ラ、ス、イーーー!!!」
刹那、急に誰かが女性特有の甲高い声で叫びながらラスイにタックルをぶちかましてきたのだ。
いや、タックルというより抱きついている・・・いや、勢い良過ぎて抱きつきかと思ったがただ単に肩に手を掛けているだけだった。
「久しぶりだなー! 元気にしてたか? 私はラスイに会えて元気だぞ!」
「テ、テクルちゃん! 久しぶり!」
勢いよくラスイの肩に馴れ馴れしく右手を掛けた[テクル]と呼ばれた女性は、かなり独特な見た目をしていた。
まずは髪色。
黒髪は珍しいが全然居ないわけでもなく実際俺ことクロイはその名に違わず黒髪である。
しかしこのテクルという女性の髪色は・・・・確かにベースというか大部分が黒色だが、髪の先端やそれ以外も所々が僅かながらも老婆の様に真っ白になっているという更に珍しい髪色だった。
その上服もかなりおかしなデザインだ。
装着してる冬に着るような黒のロングコートの右袖は普通の長袖なのに対して、左袖は明らかにでかくなっており右袖の3倍はあるかと思える程のサイズで左手を過剰にスッポリと覆い隠している。
しかもコートのボタンが閉まっていて見えにくいが、中のインナーはたくさんの絵の具をぶちまけて適当にかき混ぜたかのように汚い虹色となっているデザイン。
そしてコートはハイネックであり、首と口元が見えないようになっていた。
青がベースでフードがついており、魔法を主軸に戦う冒険者定番の一般的なローブ服のラスイとは全然違い、かなり独特なファッション。
顔のパーツが整っていて美人だが、雰囲気だろうか・・・・何故か褒めるような気にはなれない。
「・・・・何じっと見てんだお前」
そのテクルは俺の視線に気づき、ギロリと睨んでくる。
「あ、テクルちゃん! 紹介するね! この人は私とパーティを組んでくれたクロイさんっていうの!」
「・・・・・パーティだとぉ? どういう経緯でなったんだ?」
「えっとね。 まず、私が詐欺にあって、ギルドバンクのお金が全部無くなってね、それでね?」
「・・・・おい待て、今『それでね?』で流せない事言わなかったか?」
「えっと、詳しく言うとね、パーティを組もうって言われて、それでギルドカード渡したら手続きやっておくって言われて、渡して、そしたらパーティ結成の件は嘘で、ただ金が目当てだっただけって言われて、本当にお金が全部無くなってて・・・・」
「いや大丈夫か!?」
「大丈夫だよ! ギルドカード自体は返して貰ってるし」
「金を返して貰え!」
「これが昨日の話で、そこからーーー」
俺の目の前で仲良さげな二人の女性は少し時間をかけつつ、説明と疑問を交錯させながら情報のすり合わせをするのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・・・なるほどね?」
ラスイの口から改めて自分の行動を聞いたが、俺は本当に何も考えずに行動してたんだなぁ。
詐欺の直後に手伝い要請、えげつない大金失った相手に大して無い報酬分配の約束、ベビィスライムの件で命令口調、そして普通なら最悪のタイミングのパーティ結成の話・・・・
俺が第三者だったらきっと何やってるんだコイツ!?と思うだろう。
「・・・・・・」
あ、第三者のテクルさんがこっちを見ている。
テクルは吊り目寄りの形の目を忌々しげに俺の方にハッキリと向けてこう言い放った。
「・・・・お前、ラスイとのパーティ解散しろ」
パーティ結成してまだ半日も経ってないんですが。
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