第4話 打算は結成を促す
目の前の机にポンと置かれた30万エヌ。
俺はそれに手を伸ばし、1枚1枚不備がないか緊張で少し震える手を抑えゆっくりとそしてしっかり数える。
その俺の姿を幸濃い子はじっと・・・・なんだか不安と期待が入り交じったような目で、無言で見続ける。
「・・・・ピッタリ30万エヌだ、間違いない」
これほどの大金を一度に手にしたことがなかった俺だが、頭の中は先程驚かされたこともあり逆にどんどん冷静になっていた。
このお金は・・・・・そうだな。
少々考え込んだ俺は、一つの思惑を元にこう提案する事にした。
「よし、早速このお金を分配しよう。 俺が3万エヌもらって君が27万エヌでどうだ?」
「あ、はい! 1割も頂けるんですね! ありがとうございます!」
・・・・・ん?
この子、俺の提案に今何て返答した?
「聞き間違いか? 俺が3万で君が27万だぞ?」
「え、あ、ですから、3万も取り分にして頂けるという事ではないのですか?」
「・・・・・?」
俺は彼女の言葉の真意がよく分からず、冷静になっていたはずの頭が混乱してきた。
「あ、や、やっぱり私なんかが3万も貰うなんておこがましいですよね・・・・・すいません」
本当に何言ってるんだこいつ?
もう直接渡すことにする。
「これが! 君の取り分だ! 俺が1割、君が9割!」
3万エヌを抜いた27万エヌを無理矢理手の中にねじ込むようにして、幸濃い子に金を渡してやった。
「・・・・・え!! わ、私の方が多い!? 」
「だからさっきからそう言ってるだろ!!」
こいつもしかして自分の優先順位滅茶苦茶低いのか?
・・・・・そういえば、今更ながら思い出してみれば節々に彼女の性質が見受けられる所があったな。
あの時は勢いで流してたからその時は自分でも気づかなかったが、詐欺にあった直後に別の人(俺)が報酬を分けるから手伝って欲しいなんて言われても普通は信じないはずだ。
だって、一般的な思考の持ち主なら意気消沈し、疑心暗鬼になっているはずだろう?
なのに彼女は普通に承諾してとてもよく働いた。
やはりこの子は普通じゃない。
思考や価値観に個人差があるのは当たり前だが、それを加味してもここまで自分の価値を低く設定するのはある意味ビックリする。
きっと 自分のことを最底辺と認識していて、どんな目にあっても他人を優先するのだろう。
そもそもの話ベビィスライムを凍らせたのだってこの子なのに、自分はおこぼれを貰えればいいみたいな考えをしてるようだし・・・・詐欺られた直後もこの子は騙した相手に怒るのではなく、ただただ嘆き悲しんでいるだけだった。
・・・・・そして、普通じゃないのは感性だけでは無さそうだ。
母は言っていた、何か非凡なものを感じる相手は大事にしろ、と。
「あーーそうだな。 じゃ、報酬の9割を渡す代わりに」
「あ、はい。 やっぱりそうですよね。 私なんかがそう簡単に27万エヌなんて大金」
「俺とパーティ組んでくれよ」
「貰っていいわけが無いし、そもそも・・・・・・え?」
俺の新たな提案に、彼フード下で見えないが彼女が呆けた顔をしているのは何となく分かった。
「いや別に断ってもいいよ? ていうか自分でもパーティの件で騙されて酷いことになったばかりの相手にこんな話するとか非常識だってのはよく分かってる」
「組みます!!!」
「本当に断ってくれても構わないし、報酬の分配も今更変えないから・・・・・え、マジ?」
少女の即答に驚き今度は俺が目をぱちくりをさせて驚愕する。
「マジです!」
「え、本当? 君さっき詐欺にあった直後だよね? 俺、初対面の君にいきなり仕事手伝わせたかと思ったらベビィスライムのことで高揚し過ぎて割と君に強い口調で命令してた奴だよ?」
「問題ないです!」
「いやあるだろ! 即答とは思わなかったよ! もっと人を疑おうよ!」
あまりに人を信頼し過ぎる少女に対して、俺は自分で誘っておきながら逆に説得するとかいうわけ分かんねぇ事をしてしまった。
「や、やっぱり私なんかがパーティを組むなんておこがま」
「あー! ごめんよ、俺から言い出したんだから俺が否定してちゃ世話ないよな! 別に組みたくないわけじゃないぞ! ただ驚いただけだ!」
「じゃ、じゃあ!」
「手続きして、パーティを組もうぜ!」
「う、嬉しいです!」
何故かは分からないがベビィスライムを凍らせる事に成功し、最下級の魔法しか使えないとはいえ11個の属性を持つ多属性保持者であり、感性も、能力も普通じゃない少女。
・・・・・俺はデバフしか使えないから誰も誘えず誘われず、ずっとソロだったがこれでようやく仲間を手に入れた。
ん、待てよ?
そういえば、気になることがある。
確かこの子・・・詐欺師達に『魔人』って言われてなかったか?
魔人って確か・・・・・・
「あ、そう言えば自己紹介してませんでしたね! 私の名前は[ラスイ]って言います! 覚えて頂かななくても大丈夫です!」
考えの最中に少女・・・・ラスイがぺこりと丁寧なお辞儀をして簡潔な自己紹介をしてくる。
「ん? あ、ああ。 俺は[クロイ]だ。 これからよろしく。 ・・・・いや、ちゃんと覚えるよ!?」
俺もツッコミと共に軽い自己紹介で返す。
ラスイのフードから覗ける口元は、屈託のない笑顔だった。
ま、俺は面倒くさそうなことは後回しにする男。
魔人云々は一回放置だ。
顔は見えないが、笑顔が見えたからヨシ!
心の底から嬉しそうにしているラスイとのんびりパーティをやっていくとしよう。
さて、今からやるのはパーティ結成の手続きと、ツケを返しに行くのと、あと多分ラスイの罰金の支払いもパーティ結成したら一緒に手続きすることになるだろうからそれと、ついでにベビィスライムの件も色々聞かれるかもしれない。
・・・・・・うん、面倒くせぇ!
「あ、誠に申し訳ございません。 対応が遅れてしまいましたがこちらはポワポワ花50本採集の報酬、50エヌです!」
カンテと揉めていた受付さんが思い出したかのように50エヌを手渡してこた。
・・・・・そういやあったな!
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