第17話 修羅になった男 

A国潜水艦内部、緊迫感が漂っていた。

コルートン艦長が毅然として立ち、クルーたちが緊張したまなざしで彼を見つめている。

「艦長、報告します。ターゲットは先ほどの爆発で、潜水が不可能な状態に陥りました。」一人の士官が堂々と伝えた。

コルートン艦長は即座に、決断を下した。

「よし、魚雷をいつでも発射できるように準備を整えておけ。そして、後方の艦に上陸の準備をしろと伝えろ。」

指示はすぐにクルーたちに伝達された。

「了解!」

「魚雷の準備を整えます!」

「了解!」

命令が駆け巡り、潜水艦内部は活気づいた。


潜水艦隊は全体で3隻。

コルートン艦長が指揮を執る大型の潜水艦が先頭に立ち、後方に中級クラスの潜水艦が2隻控えていた。


ようやくか... コルートンは心の中でささやいた。

たった1週間前、彼らに下された命令は骨の髄までしみ込んでいた。

それは「3体の実験体を生きたまま捕まえろ」というものだ。

実験体、それは小さな白い生き物のようなものだったが、その背後に隠された真実は分からない。

「実験体を作る材料となった1体の白い生き物が、R国かY国へと移送される。」

という情報が入る。

「実験体を作る材料となった生き物も捕獲せよ。これは生死を問わない。」

上層部からの命令が下される。


R国からY国の間には多くの国々が広がっており、陸路や空路を使えば危険が付きまとう。

海、海中移動が最も確実とされていた。

この海域、それはコルートンにとって最も力を発揮できる領域であり、彼自信をアピールするには絶好の場所だった。


「楽勝だな…」コルートンの心には余裕が広がっていた。

この海域は彼にとって、まるで自分の家の庭のようなものだ。

彼は隅から隅までを知り尽くしている。


海底の景色、潮の流れの秘密、生物の生態、そして季節ごとの微妙な変化。

これら全てが彼の頭の中に収められている。

彼はこの海域に精通し、この海域では「深海の皇帝」とまで呼ばれていた。


この闇に包まれた海域を通る航路はたった2つしかない。

彼にとっては、その2つのルートに罠を仕掛けることは難しくはなかった。

情報によれば、"運び屋"という謎の男がこの過酷な道を通り、運搬をしていくらいい。

コルートンの瞳には野望の火が燃え盛り、彼は口に出して言った。

「すばらしい!神は私にキャリアの道を示してくれた。」

未来は明るい・・・はずだった。

罠は巧妙に仕掛けられていたが、簡単に突破されていた。


『運び屋』、その謎の男は期限内にR国に実験体を届けていたのだ。

その行程には海路の経路が使用されていたとの噂が広がっていた。

直後、上官達がコルートンを召喚し、屈辱的な尋問が行われた。

コルートンのプライドが深く傷つけられる。


新たな情報が入る。

「実験体の中から1体がY国からR国へ、海路で運ばれる」という情報が。

その瞬間、彼は自身の名誉を取り戻す決意を固めた。


コルートンは前回の三倍の兵力、軍艦隊、潜水艦を動員し、彼が蓄積したあらゆる知識を駆使して、巧妙な罠を二重、三重に仕掛ける。

しかし、彼自身も気付かないうちに、『運び屋』はその策略を突破していた。

それはコルートンにとって、痛ましい敗北の瞬間であった。


A国の軍上層部内は、コルートンへの信頼が急速に崩れ去り、彼の名声は地に落ちた。

屈辱と怒りがコルートンを突き動かす。

彼は上層部に実験体の略奪を志願する。

実験体や将来のキャリアなど、もはや彼にとってどうでもよいことになった。

『運び屋』という男を捕らえねばならない。

R国にはまだ、運び屋がいる。

自分の罠を破るためにどんな秘策を使ったのか、その詳細を聞き出したい。

それから、この恥辱が晴れるまで、彼を苦しめてやる。

一度しか殺せないことが残念で仕方がない。

コルートンの目標は、"運び屋"を生かしたまま捕らえること。

どんな手を使ってでも。


軍事施設内に昆虫型監視カメラを潜入させていた。

お陰で、施設内の様子や研究者、軍人、スタッフが認識できるようになっている。

ロボットによる奇襲が発生した際、一人の男が白い小さな生き物を手に、潜水艦内に忍び入る様子が映っていた。

その男は身長約180㎝で金髪のポニーテール、細身のビジネススーツを身にまとっていた。

この男が『運び屋』!

ようやく、捕まえることができる。

コルートンの体にアドレナリンが駆け巡り、熱くなる感覚が広がった。

しかし、コルートンは気付かなないでいる。

この男がカメラに向かって何度も小さくVサインをしていたことに。

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