第15話 グエンの決断

グエンはY国の出身だった。

Y国は資源も乏しく、大国に囲まれた小さな国だ。

そのため国家は貧困と暴力に苦しんでいる。

略奪や殺人は日常茶飯事。

グエンは幼いころからそんな環境で生きてきた。

生きるためには何でもした。

泥棒も殺人も。

グエンには戦い、生き抜く才能があった。

集団戦術をもっとも得意とし、年齢が上がるごとに統率力・戦略力は成長していった。

町の中でグエンの名は知れる存在になる。


そんな時、偶然に賞金稼ぎという職業を知った。

それは闇の仕事を請け負う者たちだった。

政府や企業から依頼されて、暗殺や破壊などを行い大金を得ている。

これこそ自分を生かせる天職だと直感で分かった。

賞金稼ぎで初めて大金を得た者は、その金を物欲・食欲・性欲などを満たすために使うことが多い。

しかし、グエンは違っていた。


「この仕事でY国を変えることができる」と本気で考えた。

自分の部隊を作り、Y国出身者を優先的に雇っていた。

研究開発チームも半分以上はY国出身者だった。

資源もなく、大国に囲まれたY国。

ならば、賞金稼ぎ・闇の仕事のを請け負う国になれば良い。

潤うのは部隊だけではない。

部隊を支える研究チームも、部隊にかかわる人間の健康を管理するチームも、情報収集分析チーム、食事のチーム、営業商談チームなど・・・連鎖的に潤っていけるはずだ。

この仕事の成功こそが貧しいY国を救える。

この理想がグエンの仕事の成果の高さにつながっている。


グエンは息を切らしながら、倉庫内の通路を走っている。

彼はヘッドセットから仲間たちの声を聞きながら、冷静に状況を分析した。

穴の開いた擁壁から流れ込む海水の勢いは弱まった。

しかし、確実に海水は増えている。

こちらの戦闘スーツはほぼ無力になった。

弾薬も残りわずか。

負傷者は4人だったが、幸い軽傷。

実験体は見つけられなかった。おそらく潜水艦の中に隠されているのだろう。

確定できないことは仕方ない。

最新鋭のロボットは2体手に入れた。

すでにトラックまで運んでいる最中だった。

最低限の成果はあったと言ってもいいだろう。


目の前には息を荒くした新型潜水艦が鎮座している。

その魚雷発射口がゆっくりと開いていく。

魚雷が入っているかどうかは分からなかった。

そもそもこんなところで撃つ気なのか?

厚い擁壁の向こうの海にはおそらくA国の潜水艦が待ち構えているだろう。

A国!

獲物を横取りしていく略奪国家。

気がかりなのは倉庫の外にも他の敵部隊が迫っているようだ。

まだ到着はしていないが、時間はない。


「全員に告ぐ、撤退だ!」グエンはヘッドセットで仲間たちに命令した。

「ロボットをトラックに積み込んだら、すぐに出発しろ。俺は最後尾を守る。」

その時、グエンは不気味な重低音を耳にする。

魚雷が発射された音だ。

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