第3話 廃墟の軍事施設~人間の気配がない~

極寒の寒さは、この軍事施設にも容赦なく襲いかかっていた。

壁や窓ガラスは寒さに耐え切れずに収縮し、崩れ落ちていくものが目立った。

R国の冷たい風が建物に吹きつけるたびに、ヒューヒューと不気味な音が響く。

人だけでなくほとんどの生物の気配がまったく感じられない。

まるでゴーストタウンだ。


天狐が捕らわれているという地下の施設に向かって、妖怪たちは全力で走った。

雷獣は口をかみしめながら、恩人の天狐の顔を思い浮かぶ。

天狐は自分を助けてくれたのに、自分は天狐を守れなかった。

その罪悪感と怒りと悲しみが、雷獣の足を速くする。

軍事施設のゲートが見えた。

妖怪たちは一瞬もためらわずに、ゲートをすり抜けて中に入る。

「形代で周辺を偵察する!」後鬼が声を張り上げた。

彼女は半紙のような紙を人型に切った形代に自分の息を吹き込んだ。

すると、形代は生き物のように動き出し、四方八方に飛んでいった。


しばらくして、形代が一斉に戻ってきた。

後鬼が形代の声を聞いて、顔色を変えた。

「どうした?」雷獣が後鬼に尋ねた。

「天狐どのはおろか、人間の気配も一切感じられないんだ。」後鬼が呆れたように応えた。

「ふざけるな!」前鬼が怒声を上げた。

「天狐どのがこの施設に連れてこられたのは間違いないはずだ。」前鬼が主張する。

「だったら、どうして天狐どのはおろか、人の気配すらないんだよ?」イズナが苛立ちを隠せなくて言った。

雷獣は背中に冷や汗を感じた。

「しかし、形代が入れなかった場所が二か所あるらしい。」

「二か所か・・・」雷獣は考え込んだ。

一つずつ調べるのは安全だが、時間がかかる。

人間たちの施設では、時間はかけたくない。

「じゃあ、二手に分かれるしかないな。」

「ならば、私が一人で行動する。私は戦闘能力が高いし、後鬼とも連絡は取れるからな。」前鬼が提案した。

「一人で大丈夫なのか?」イズナが心配そうに言った。

前鬼はイズナに向かって言った。

「お前は私の術に巻き込まれたくないだろう。」

確かに前鬼は力も強く、戦闘の経験も豊富だ。

「わかった。任せたぞ。」雷獣が承諾した。

「でも、無茶はするなよ。」

「心配するな。」前鬼は笑顔で応えた。

妖怪たちは二手に分かれて、それぞれの目的地に向かった。

雷獣・イズナ・後鬼のチームは、狭い通路を風のように駆け抜けた。

目的の巨大な倉庫の前に、小さなドアがあるのが見えた。

ここまで人の気配はまるでなかった。

妖怪たちはドアに向かって突っ込んだ。

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