第6話
昨日はおすすめされた宿に泊まった。価格も良心的だし、部屋は狭かったが一人用だからぐっすり眠れた。料理も美味しかったし、しばらく泊まるか。
「さて丁度良さそうな時間だしギルドに行くか」
ギルドに着くと同じような背丈の子供が多くいた。
「こんにちはグリムさん」
「こんにちは、えっと……」
「ああ、申し遅れました。ルイスです。これからよろしくお願いしますね」
「よろしくお願いします」
とりあえず昨日受付してくれたルイスさんがいたので聞いてみる。
「確か写本の依頼があるんですよね?」
「ええ、Dランク以上の方にはギルドの図書室が解放されます。けどこの依頼を受けるとDランク以上じゃなくても読むことが出来ますよ。まああまり人気はないですが……」
そういって苦笑を浮かべるルイスさん。まあ一般的な冒険者が本を読むかと言われると、あまりイメージがしにくいのは確かだ。
「期限はとりあえず1週間で、写本した数だけ評価と依頼料が高くなります。それと字が綺麗だと加点ですね。材料はこちらで用意しますが、ご自分のを使っていただいても構いません。ですがその場合補填などもありません。何か質問は?」
「自分用のペンなどは持っていないから用意してほしいです。それとどの本を写本すればいいんでしょうか?」
「お好きな本でいいですよ。ちなみによく写本されるのはあまりページ数がない本ですね」
「わかりました」
図書室に行くと、家にあった本よりも少ないがそれなりの数があった。ぱっと見魔物についての本が多いみたいだ。それと家にもあった初心者向けの魔法の本があった。
「懐かしいな」
最初はあれを読んで魔法の練習をしたものだ。今でも一言一句思い出すことが出来る。……うん? いやちょっと待て。流石に一言一句思い出すことが出来るのはおかしくないか? これはいくら何でも記憶力がいいとか超えてるだろう。
「もしかして……」
ほかにも今世でのことは思い出そうとすれば思い出せる。前世のことは朧気にしか思い出せないから、なおさら異常が際立つ。もしかしてこれも魂を喰らった影響だろうか?
こういう場合は魂を喰らったからと考えた方がいいか。それにしてもいつの間にか能力が生えてくるな。何かしらの方法で分かればいいのだが……。
「お待たせしました、グリムさん」
紙と羽根ペンとインクを取りに行っていたルイスさんが来た。とりあえずこのことは後で考えるか。
「こちらが紙と羽根ペンとインクになります。それでは頑張ってください」
そういってルイスさんは図書室から出ていった。さてそれじゃあ写本しますか。
「まずはインクに魔力を流して『ウオーターコントロール』。これでインクを操作すればずっと書き続けられますよね」
羽根ペンをいちいちインクに付けなおすのが面倒くさくて、それならインクのほうを羽根ペンに付ければいいのでは? と考えた結果やってみたところ出来たからこういうときによく使う魔法だ。本当なら金属ペンのほうがやりやすいのだが、一般的には高価だからな。
「さてまずは魔物図鑑から写本していきましょうか」
まず一般的な魔物が載っている魔物図鑑を写本していく。どういう魔物が載っているのかというと、スライムやゴブリンなどだ。
スライムはゲル状の生き物で、中心にある核を壊すか抜き取ることで倒すことが出来る。一応ゲルは酸性で溶かすことが出来るが、長い時間触れていないとほとんど効かないくらいに弱い。
ゴブリンは緑色の肌をした子供くらいの背丈の人型の生物だ。とても頭が悪く、群れると上位個体がいないとよく喧嘩をする。基本雑食で繫殖欲が高いから駆除しようとしてもなかなか減らない。
こんな感じに書かれている。ちなみに魔物の定義は、体内に魔石があるかどうかだ。この魔石は魔道具の燃料になったりしていてとても便利に使われている。
スライムは核が魔石の役割をしていて、ゴブリンは心臓の部分に魔石がある。
こんな感じですらすらと読みながら写本していく。これなら昼前には1冊できそうだ。
予測通り昼前には写本できたのでルイスさんに報告しに行く。
「ルイスさん」
「どうしましたかグリムさん。何か問題でも?」
「いや問題はありません。1冊写本し終わったのですが、出来上がったのはどうすればいいのか聞くのを忘れていて」
「もう出来上がったのですか?」
ルイスさんは小さな声で驚きを示す。
「とりあえず出来上がったのは確認しますので、持ってきてください」
「わかりました、それと昼飯を食べたいのですが行ってきても?」
「もちろん構いません。そうですね、写本したものは図書室に?」
「はい」
「それなら先にお昼ご飯を食べに行ってもいいですよ。その間に確認するので」
「わかりました、それでは行ってきます」
「いってらっしゃいませ」
とりあえずお昼ご飯はそこら辺のお店で食べる。まあまあな味だった。
図書室に戻るとルイスさんがいた。
「お帰りなさいグリムさん。早かったですね」
「そうですか? それで写本のほうはどうでしたか?」
「はい、完璧ですよ。これなら加点もたくさんつきます」
「そうですか、それはよかったです。それなら順次書いてよさそうですね」
「ええ、どんどん書いてください」
そうしてページが少ないのなら1日で2冊、ページが多いと1日1冊写本した。1週間で合計9冊の本を写本することが出来た。
「ではこれが依頼料になります。それとEランクに昇格ですね」
袋の中には硬貨がぎっしり詰まっているのが持つだけで分かる。後で確認したところ中には銀貨がぎっしりとあった。
一般的に銅貨10枚あれば一日過ごせると言われて、銅貨100枚で銀貨1枚になる。それで袋の中には45枚の銀貨があったから、単純計算で450日過ごせる計算だ。まあこれに衣服とかの生活用品が掛かってくるから、そう単純にはいかないが。
そして冒険者証はEランクになって戻ってきた。見た目には変化がないな。
「これで通行料を掛けずに門を行き来できるようになりますね」
「それじゃあ明日からダンジョンに行けるんですね」
「そうですね、でも一人だと危険ですからパーティーを組んだ方がいいですよ」
パーティーか、面倒だな。組むなら同年代だろうけどそんなに稼げるとは思えない。それに人付き合いが面倒だ。
「パーティーはひとまず後回しにして、まずはこれで装備を整えないといけないですよね」
そう言って受け取ったばかりの硬貨が入った袋を見せる。なんにせよ装備を整えないとな。一応剣を持ってはいるがそれだけだし。
……というのを建前にしてひとまずパーティーを探さないでおく。できれば一人で行動したいし。
「そうですね、そっちのほうがいいですね」
「それではルイスさん、また」
とりあえず今日はもう宿に帰って寝るか。
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