第5話

「あなたみたいな子供を登録できるわけないでしょう?」


 こんな一言で冒険者ギルドへの登録を断られた。クソが。


 おっと、思わず口調が荒くなってしまった。今は朝起きて町のギルドに登録しようとして断られたところだ。まあ子供が登録しようとしたら止めようとするのは分かるが、まさか問答無用で登録させてもらえないとは。せっかく泣き落としまでしようと思っていたのに。


 こうなったら仕方ない。まずはダンジョン都市に向かうか。都市ならもしかしたら子供でも冒険者ギルドに登録できるかもしれない。



◇◆◇◆



 馬車に乗ったり歩いたりしながら1ヶ月近く、ついにダンジョン都市に到着した。


「随分と平和な道のりですね」


 この1か月ほとんど問題が起こらなかった。強いて言えば私が子供で、孤児院に入らないか誘われたくらいだ。もちろん断ったが。


「それにしてもすごい行列ですね」

「そりゃあ嬢ちゃん、あちこちから冒険者が集まってくるからな。それに商人や職人なんかもくるから連日人がたくさんよ」


 ちなみに今の私は女ものの服を着ている、いわゆる女装だ。私のことを探すなら貴族令息を探すから、女の子の恰好をしていればバレないと思った。それに着てみたかったからな。うん、似合ってる。

 それと喋り方も丁寧にした。この方が女の子らしいだろうし。

 

 同じ馬車に乗っている人と話しつつ、ダンジョンについて振り返っておこう。


 ダンジョンは一般的には魔王の呪いとされている。というのもダンジョンは適当に出現して放っておくと、中で生み出された魔物を吐き出してくる。俗に言うスタンピードというやつだ。それが起こると周りの村とかに被害が及ぶ。

 今でこそ神殿がダンジョンの場所を発見できるようになったが、それまでは村への被害が甚大だったらしい。今だと冒険者がこぞって潜るから、そんな心配はほとんどないのだが。


 それとダンジョンを破壊する方法だ。それは最深部まで行ってダンジョンコアを破壊することのみだ。魔法を使って破壊しようとしたが、壊れても再生して無意味だったようだ。


 そしてここからがダンジョンに潜るメリットだ。

 まず魔物の素材を取ることが出来る。今では森などの人が通らないところにしか生息しない魔物の素材がたくさん手に入る。

 それとダンジョン内の環境によっては鉱石や植物が手に入るようだ。ダンジョンによって中の状態が異なるようで、森や洞窟になっているらしい。場合によっては希少なものが取れる可能性もある。

 そしてこれはあんまりよくわかってないのだが、魔物を倒すことで強くなれるらしい。というのもダンジョンに潜ってる人、それも深い階層を潜っている人はかなり強い。

 これを裏付けるのがダンジョンの破壊で、ダンジョンを破壊することで劇的に強くなれるみたいだ。だから魔物を倒せば倒すほど強くなるのではと思われている。


 そういえばなぜここがダンジョン都市と言われているのか、それはここ周辺ではダンジョンが多く発見されるからだ。

 普通なら数年で一つ見つかればいい方なのに、ここでは一年で数個見つかるみたいだ。それでいつのまにかダンジョン都市と名付けられた。


 そうしてダンジョンについての知識を振り返ってるとお昼ごろに門の中に入れた。門のすぐそばで荷物を持って馬車から降りて他の乗客と分かれる。ちなみに馬車代は乗る前に払っている、この世界では前払いが基本だ。


「さてまずは冒険者ギルドを目指しますか。この時間なら人もあまりいないでしょうし」


 まず腹ごしらえもかねて近くの串焼きを買う。そして店主に冒険者ギルドの場所を聞く。すぐそばにも冒険者ギルドの建物があるが、あそこは素材などを買取する支部だ。ここのような都市だと冒険者ギルド支部は門の近くにあることが多い。

 大物の魔物を解体するときなんかは門の近くのほうが便利だからだろう。まあ他にも何かしらの理由があるのかもしれないが。


 冒険者ギルドはこのまま大通りを真っすぐ行くと見えてくるようだ。店主にお礼を言ってから向かう。10分程で冒険者ギルドが見えてきた、できるだけ早く歩いたつもりだが、子供の足ではこのくらいかかるか。


 冒険者ギルドの中に入ると、酒場などは無く清潔感があった。まあ依頼人がくることもあるからそこらへんはきっちりしてるのだろう。さてさっさと受付に登録できるか聞いてみようか。


「冒険者になりたいのだが登録できますか?」

「ええ、できますよ」

「それはよかった。町の冒険者ギルドでは年齢を理由に登録できませんでしたから、ここで登録できるようでよかったです」

「それは災難でしたね」


 受付嬢は苦笑いしながら言う。ちなみに冒険者になるのに必要な年齢は特に決められてない。


「普通の町だと子供ができる依頼がないですからね。登録を受け付けないところもあるみたいですよ」

「そうなんですか。ということはここでは子供ができる依頼もあるということでしょうか?」

「そうですね。それについては手続きした後で説明しましょうか。と言っても簡単なことだけですが」


 本当に簡単なことで、名前や戦闘方法を聞かれただけだった。


「名前はグリムで、戦闘方法は主に魔法を使いますね」

「名前はグリムで、主に魔法を使う……と。魔法の種類は?」

「火水風土の四属性です。特に苦手な属性がありませんでしたので」


 闇は一般的に嫌われているから隠しておく。それともちろん名前は偽名だ。


「四属性もですか……。この後確認しても?」

「もちろんです。さすがに子供の話をそのまま鵜呑みにはできないでしょうし」

「ご理解ありがとうございます」


 苦笑いを浮かべながら言うと、受付の人は疲れたような顔をする。これは相当無理なことをいう人もいるみたいだな。


「ではまず魔法の確認をしましょう。地下に下りるのでついてきてください」


 そういわれたのでついていく。ちなみに建物に地下があるのは珍しくない。なにせ土魔法があれば簡単に作れるからな。まあだからといって勝手に作るのは違法だが。


「それでは依頼についての説明もしましょうか」


 受付の人はこちらの歩幅に合わせるようにゆっくりと歩く。ありがたい。


「だいたいは子供でもできる、というより登録したら誰もがやる依頼ですね。薬草の選別が基本です。冒険者が持ってきた草をそれぞれ薬草、毒草、雑草に分けてもらいます。

 これには薬草の見分け方がわかれば緊急時に使えますから。それに低ランクの時は怪我をしやすいですからね。ポーション代の節約にもなります」


 ここまででわからないところは? と聞かれたので首を横に振りつつ大丈夫だと答える。


「それかもしくは写本になります。こちらは字に自信がある人がやります。グリムさんにはこちらがおすすめかもしれません」


 ふむ、写本か。まあ仮にも貴族だったから字は綺麗だと思うからやってみるのもいいな。それにこっちのほうが魔物や採取物の情報が多そうだし。


「着きましたね、ここが訓練場になります」


 階段を降り切るとそこには魔道具で照らされた訓練場があった。ちなみに何人か冒険者がいる。


「ここは冒険者なら自由に使えるのでいつでも使っていただいて構いませんよ。それでは壁に向かって魔法を使ってみてください」


 壁には何かしらの魔法がかかっているようだから撃っても問題ないだろう。言われた通りに魔法を使おうとするが、じろじろと見られるのはあんまり愉快ではないな。


「火よ 火球となりて 撃ち抜け 『ファイヤーボール』」


 手から火球が壁に向かって飛んでいく。普段は詠唱はしない。というのも私の場合は、火の魔力だけを集めることで詠唱した場合と同じ威力になるからだ。

 だが普通の人にはまずできないから、普通の人に合わせるように詠唱した。基本詠唱しないやつはかっこつけだからというのもある。


「水よ 水球となりて 撃ち抜け 『ウォーターボール』」

「風よ 風球となりて 撃ち抜け 『ブリーズボール』」

「土よ 土球となりて 撃ち抜け 『サンドボール』」


 次々とボール系の魔法を繰り出す。ちなみに飛んで行った魔法は、壁に当たるとすぐに霧散した。


「とりあえずこれでいいでしょうか?」

「ええ、十分です。それでは上に戻りましょう」


 その後は上に戻ってドッグタグのようなものを渡された。これには名前と戦闘方法、Fランクと空欄の実績が書かれていた。


名前 グリム

戦闘方法 魔法

Fランク

実績


「それが冒険者証になります、無くさないように」

「わかりました、それとおすすめの宿はありますか?」

「それならギルドを出て左に行くと若鳥の宿場という店があります。女性からも人気があるのでそこがおすすめですよ」

「わかりました。ではそこにしようかな、ありがとうございます」


 とりあえず今日はもう休むことにして、若鳥の宿場に向かった。

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