二通目 『電車の中から』

 思い出せない?今までのやり取りでも記憶がないことは分かっていた。だが俺の事を知っている、だがそれまでの思い出が思い出せないのか?わからないことが多すぎる。

とりあえずは家に着いた今日の事はお風呂を上がってから考えよう。俺は靴を脱ぎ自室へ行く。鞄、諸々を定位置に置きお風呂の準備をする。


「おっ風呂~おっ風呂~」


 俺は気分上々でお風呂に行く。制服を脱ぎ捨て籠に入れるとちょうどお風呂が沸いた。計画どおり、何故ここまでテンションが上がっているのかというと


「ふ~起きている時に落ち着く所はここぐらいしかないもんなぁ」


 という事だ。まぁ全然落ち着く所はまだあるのだが身近にあるものは数少なるだろう。髪を洗い、体を洗い終えお風呂に入る事数十分。

 俺のスマホが鳴る、俺のスマホの通知は常にバイブレーションにしてあるのでなんのアプリかは分からない。

 俺はお風呂場から少し体をだしスマホをとる。スマホを見るとすぐに目に入った。

宛名はunknown、慣れた手つきでメールを開ける。


To:『今電車の中なんだ、外が凄いきれい。思い出せないけどなんだか懐かしい気がするな』


 そんなポエムじみたメールだった。


To:『こんな雑談をするために登録したわけじゃないぞ』


To:『あぁごめんごめん、ところで君の事は何と呼べばいかな?』


To:『俺の名前は藍沢 龍海。タクミでいい』


To:『タクミ君ね、分かった。因みに私の事はunknownでいいよ』


  自己紹介を終えた俺はのぼせそうになったのでお風呂から出る。


「unknownと言われても、どこの誰かも分かんねぇし。」


 そんな愚痴をこぼしながらパジャマに着替えた。

 パジャマに着替えた俺はキッチンに行き冷蔵庫にあったレトルト物を数品取りレンチンした。因みに毎日レトルト系ではなく今日はたまたま冷蔵庫に入っていたのでこれを食べることにした。

 スマホを見ながらご飯を食べているとLINEが来た。俺のLINEはマイメンだけなのですぐわかる。


『今度の休日どっか行かない?』


 あかりだ。俺は特に用事もないのですぐさま返信する。


『別にいいけど、どこに行くの?』


『どこって言われてもなぁ』


 決めてなかったのかよ


『遠出はしたくない?』


『遠出か、そうなると限られるな。例えば山とか、川とか、海とか?』


 ここら辺はそこそこ自然が少なくあまり子供の時から山とかでは遊んでこなかったのだ。


『海かぁ、いいね!じゃあ今度の土曜日私の家集合でそっから海に行くよ』


 おぉ無理やりだな、まぁいつもの事なんだがな


『はーい』


 生半可な返事で返し食べ終わった食器をかたずける。

食器をかたずけ終え、自室に行く。この後のいつもの流れとしては、PCに電源を付けて、ゲームをするだけだ。そんなことを考えているとスマホから一通、


To:『今どこのいると思う?』


To:『知らん、家か?』


To:『不正解、正解は電車の中でしたぁ』


 なんだこの会話は、まぁやる事もないので返信はするんだがな。


To:『いやぁー凄い綺麗な海だなー』


 綺麗な海?おいおい今の外は真っ暗なんだぞ。ライトとかで照らされて見える海はきれいだけど、


To:『外は真っ暗だぞ』


To:『?いや全然明るいし快晴だよ』


 なるほど向こうの世界は俺が住んでいる世界との時間が違うんだな。


To:『ちなみにそっちは今何時なんだ?』


To:『今?今は10時だけど』


 今の時間は22時、向こうの世界とは24時間の時差があるのか。まぁそこまで使わない情報だと思うがな


To:『所でunknownは男なの?女なの?』


To:『そこ聞いちゃうかぁ。因みにどっちだと思う?』


To:『女じゃね?文の書き方的に』


To:『せいかーい、かわいい女の子でーす。年齢は非公開ね』


 unknownは女なんだ、まぁ文の書き方的にそうだろうと思ったけど。

 所でなぜ電車なんだ?綺麗な海みたいな事は言っていたが…


To:『俺も今度海に行くんだよね』


To:『え?いーじゃん。なんかさぁ、海って何故か虚しくなるんだよねぇ』


ん~、分からなくもないが、一般的は楽しく思うだろ。


To:『分からなくはない、』


 これ以上会話を続けると、終わりそうないのでここらへんで無視をする。今日はゲームのイベントがあるので夜更かしと行こうか。






*******





 はぁやっぱりタクミ君はかっこいいなぁ、あれ?返信がない、ん~さては無視してるな~



 ある少女が電車に乗っている。その容姿は男女問わず魅了されるほど、だが電車内はその少女一人。景色は凪そのもの、音もなく、何もなく。

 少女はもう慣れている、体感は幾千年、

 いつも彼の言葉を思い出して、でもノイズがはしって。

 彼女が進むその延長線上に先になにがあるかも分からずに、泣き叫んだ。その涙が枯れるほどの時間、泣き叫んだ。

 助けはある人のメールだけで、


「早く来てよね、私のたった一人の王子様」

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