大文字伝子が行く187

クライングフリーマン

待っていた悲劇(後編)

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。

 愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。

 愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。

 斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。

 金森和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。

 馬場力(ちから)3等空佐・・・空自からのEITO出向。

 馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

 大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

 田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

 浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。

 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長補佐。

 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。

 安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。

 日向さやか(ひなたさやか)一佐・・空自からのEITO出向。伝子の影武者担当。

 飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。

 稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。

 愛川静音(しずね)・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。

 工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向。

 江南(えなみ)美由紀警部補・・・元警視庁警察犬チーム班長。EITOに就職。

 伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。

 葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。

 越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。

 小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。

 下條梅子巡査・・・元高島署勤務。警視庁から出向。

 高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。剣道が得意。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。

 青山たかし元警部補・・・以前は丸髷署生活安全課勤務だったが、退職。EITOに再就職した。

 河野事務官・・・警視庁からのEITO出向。

 財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。

 仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。

 南部(江角)総子・・・大文字伝子の従妹。南部興信所所長の妻。EITOエンジェルのチーフ。

 足立祐子・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 石動悦子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 宇野真知子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 丘今日子・・・EITO大阪支部メンバー。看護担当。元レディース・ホワイトのメンバー。

 河合真美・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 北美智子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 久留米ぎん ・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトの総長。EITOエンジェルス班長。

 小峠稽古 ・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 和光あゆみ・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。

 中込みゆき・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。

 海老名真子・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。

 来栖ジュン・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7の総長。EITOエンジェルス班長。

 愛川いずみ・・・EITO大阪支部メンバー。EITOエンジェルスの後方支援担当になった。

 久保田管理官・・・EITO前司令官。斉藤理事官の命で、伝子達をEITOにスカウトした。

 渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当。

 草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

 大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。

 藤井康子・・・伝子マンションのお隣さん。EITO準隊員待遇。

 中津健二・・・中津警部補(中津刑事)の弟。興信所を経営している。大阪の南部興信所と提携している。

 西園寺公子・・・中津健二の恋人。愛川静音の国枝大学剣道部後輩。

 高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。

 泊哲夫所員・・・中津興信所所員。元警視庁巡査。元夏目リサーチ社員。

 根津あき所員・・・中津興信所所員。元大田区少年課巡査。

 立川・・・足立区区長。

 守谷・・・SAT隊長。

 御池花子・・・東京都知事。

 麻生島太郎・・・内閣副総理。

 久保田警部補・・・警視庁刑事。あつこの夫。久保田管理官の甥。

 幸田仙太郎所員・・・南部興信所所員。

 天童晃(ひかる)・・・かつて、公民館で伝子と対決した剣士の一人。EITO東京支部トレーニング顧問。EITO準隊員。

 松本悦司・・・かつて、公民館で伝子と対決した剣士の一人。EITO東京支部トレーニング顧問。EITO準隊員。


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 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==


 ======== 「大文字伝子が行く186」から続く ==========


 食事が終って寛いでいると、ひかるから高遠のスマホに電話がかかってきた。

「高遠さん。食事中に悪いけど、Redにサンドシンドロームからアップロードがあったみたい。確認してみて。」

 高遠がRedを起動して確認していると、EITO用のPCが起動したので、伝子は移動した。

 日本のお昼休みって大抵正午から午後1時だよね。俺って、頭が古いのかなあ。せっかちなのかなあ。おやつまでには終らせたいね。でも、妥協して夕方5時かな。日本の会社って大抵退勤時間が午後5時だよね。じゃ、また。

 》


 高遠がRedの埋め込み動画を再生し終ると、伝子は言った。

「理事官。すぐに行動に移しましょう。都下の市の市営住宅や区の公営住宅は、知事が指揮した『火の用心』で警戒し、我々は市の都営住宅に散開して、防火消火に当たります。学が調べたところ、市によっては、30以上都営住宅があります。今、奴が『頭が古い』って言ったのは、住宅の創設年が一番古いという意味です。従って、ターゲットは6カ所。午後3時というのは、火事が起こらなくても時限装置で爆発させるという意味です。そして・・・。」

「そして?」「午後5時が退勤時間というのは、作戦終了予定時間ということです。火事によって、何らかのヒントがまた出てくる可能性もあります。あ。知事には今夜からって言ったわ。」

「もう、一佐が、そちらに向かったよ。神さんとカミさん。」理事官は皮肉を言い、「知事には副総監から連絡して貰うよ。」と言って、PCの通信を切った。

 高遠は、もう台所に行き、綾子は寝室で待ち構えて伝子の着替えを手伝った。

 伝子が走って台所に向かうと、開かれたベランダの向こうにロープが降りて来た。

 なぎさは、オスプレイを伝子のマンションから遠くない場所で待機していたのだ。

 各班の行き先は、オスプレイの中で行われた。

 午後1時半。昭島市の一番古い都営住宅。

 警察と消防が血眼になって、火災現場になっている箇所を探していた。

「あそこだ!」警察官の1人が叫び、昭島市の消防隊の隊長は隊員を鼓舞して消火に当たった。エマージェンシーガールズ姿の増田達が到着した。警察官達は、避難誘導を始め、増田達も手伝った。

 午後1時半。調布市の一番古い都営住宅。

 警察と消防、自治会長が、ボヤがないかどうかを探していた。「3階から煙が出ています。」

 警察官の叫びに、自治会長は、契約した警備会社の警備員達と警察官の避難誘導に協力した。消防活動が始まった。そこへ、エマージェンシーガールズ姿の馬越達が到着した。

 午後1時半。小平市の一番古い都営住宅。

 現場に到着した消防隊員が見たのは、既に燃えている住宅だった。消防は化学消防車も動員して、消火に当たった。駆けつけた警察官は、必死に避難誘導をした。

 そこへ、エマージェンシーガールズ姿の金森達がやって来て、避難活動に加わった。

 午後1時半。国立市の一番古い都営住宅。

 不動産屋が、警察と消防を案内して到着した途端、住宅の一角から爆発音がして、燃え始めた。消防隊が消火活動に入った時、大町達がやって来て、避難活動に加わった。

 午後1時半。狛江市の一番古い都営住宅。

 エマージェンシーガールズ姿の日向達がやって来た時、既に消防は消火活動を、警察は避難活動をしていたので、日向達も加わった。

 午後1時半。稲城市の一番古い都営住宅。

 警邏の警察官からの連絡で、消防は消火活動を行っていた。エマージェンシーガールズ姿の伊知地は、本部に連絡の上、避難活動を始めた。

 時間は遡って、午後1時。足立区区役所。

 区長は、『火災情報本部』を区役所内に設け、SAT隊長の守谷が詰めていた。

 他の区役所も、SATの隊員が詰めていて、公営住宅火災があれば、現場に駆けつける方針である。これは、足立区区長の立川が、以前EITOが誘拐から救い出された恩義に報いる為と呼びかけ、区長会議が自主的にオンライン会議で決め、SATに依頼したから整った体勢だった。

「知事のおっしゃる通りだと、いや、SATの言う通りだと、区内の公営施設は範囲外ですが、こちらも『陽動』した方がEITOも闘い易いでしょう。」「おっしゃる通りです、区長。あらゆる場合に備えないと、隙を突かれます。」

 午後1時。国賓館。

 SP隊隊長が、訓示している。「敵は、本来の作戦に紛れて、違う行動を起すこともある。特別隊員からの要望は正しい。」

 特別隊員とは伝子のことである。「速やかに、要人警護にかかれ。」隊員達は、すぐに出て行った。

「流石は大文字君だ。そこまで考えているとはな。」と麻生島副総理は笑った。

 午後1時。仙石諸島付近。

 那珂国の船の群れが『水域』を越えようとしていた。海上保安庁の船が追い払おうとすると、更に越えようとしている。海上保安庁の船の後方にイージス艦が並んだ。

 午後1時。津軽海峡付近。

 オトロシアの潜水艦が現れた。すると、上空に『零戦』が数機並んだ。勿論、ただのペイントである。

 午後2時半。EITO本部。司令室。

 都営住宅に配置した隊員達から、続々と情報が入ってきた。

「こちら、昭島市の増田。火災現場から文字プレートが発見されました。『ん』です。五十音の最後の『ん』です。」

「こちら、調布市の馬越です。火災現場から文字プレートが発見されました。『う』です。『あいうえお』、の『う』です。」

「こちら、国立市の大町です。火事の現場に文字プレートがありました。『き』です。『かきくけこ』の『き』です。」

「こちら、狛江市の日向です。火事の現場に文字プレートを発見しました。『ぶ』です。『ばびぶべぼ』の『ぶ』。」

「こちら、稲城市の伊知地です。火災現場に文字プレート。『く』と読めます。『かきくけこ』の『く』です。」

「小平市の金森です。連絡が遅れました。汚れが酷かったけど、『よ』と書いてある文字プレートを発見しました。」

 ディスプレイの向こうから、高遠が叫んだ。「伝子。文京区だ。東京ドームだよ。」

「了解。なぎさ、あつこ、みちる、総子。東京ドームへ急げ!!」と、伝子はインカムに叫んだ。

「アンバサダー。中津興信所から通信が入っています。」と、草薙が言った。

「繋いで下さい。」「大文字さん。本物の和知南の部屋から、色んなものが見つかりました。」

 午後3時。東京ドーム。

 5台のオスプレイがドーム天井の外に現れた。

 ドーム中央に、5000人は、いるかと思える、武装集団が集まっていた。

 しかし、リーダーらしき人間はいない。

 なぎさのチーム、あつこのチーム、みちるのチーム、総子のチームがパラシュートを使って降りて来た。

 どうやって指揮するのかと、なぎさが訝しんでいると、ドームの大きな時計が3時30分になった。武装集団は、誰彼構わず発砲をし出した。

 エマージェンシーガールズとEITOエンジェルズは、一旦、隅に避難した。

 すると、MAITOのオスプレイが3機現れた。集団の拳銃や機関銃は一瞬の内に『消火弾』と『水流弾』で使用不能になった。水流弾とは、エマージェンシーガールズが使う水流ガンと同じでグミ状の液が出せる。

 実は、MAITOは『来られなくなる』予定だった。だが、今回のような場合に備えて、アメリカ空軍のオスプレイにもMAITOと同じ装備を積んだ機種が出来、基地に待機していた。敵が目論んだ、他県出張は必要でなくなり、上空で待機していたのだ。詰まり、関東他県の火事は、米軍が消火を行った。

 エマージェンシーガールズとEITOエンジェルズは、ペッパーガン、シュータ、ブーメラン、バトルスティックで闘った。

 ペッパーガンとは、胡椒などの調味料を原料とした丸薬をこしょう弾として撃つ銃のことで、シュータとは、うろこ形の手裏剣で先端には痺れ薬が塗ってある。

 また、3段階に変形出来るバトルスティックの先端にも痺れ薬が塗ってある。

 EITOは民間団体であり、例え威嚇用にでも、通常の銃は使えない。また、ブーメランやシュータは多少傷を付けることになっても殺傷能力はない。

 30分後。住宅に行っていたエマージェンシーガールズが到着した。

 1時間後。他の入り口から、援軍が到着した。ミニ電動三輪車やトレーラー、クレーン車でSATが突撃してきたのだ。

 ホバーバイクのEITOボーイズも加わり、混戦模様となった。

 ホバーバイクとは、民間開発の『宙に浮くバイク』をEITO用に開発したものである。

 青山は、ホバーバイク搭載のウッドフルーレで敵を突き倒し、高木は、既に大阪支部で採用されたメダルガトリング砲を撃った。馬場は水流弾を水流ガンで撃った。

 武装集団が壊滅に向かった時、突然ナナハンのバイクが現れた。そして、エマージェンシーガールズに突っ込んで行った。

 しかし、もう1台バイクが現れ、ブーメランで、バイクの搭乗者に投げた。

 ナナハンは転倒した。

 武装集団は、投降をした。なぎさは長波ホイッスルを吹いた。

 長波ホイッスルとは、犬笛に似た特殊な音波を出す、簡易通信装置だ。

 伝子のイヤリングに、『放送席』の渡の声が聞こえた。

「こそ泥は、皆、天童さん松本さんの餌食になりましたよ、アンバサダー。それと、ドーム内の全ての爆発物は撤去した、と処理班から連絡がありました。

 エマージェンシーガールズのイヤリングも通信装置だ。前は一方通行だったが、今は双方向だ。ユニフォームはヘルメット内蔵でインカムも付いている。インカムも通信装置の一つだ。

 エマージェンシーガールズ姿の伝子はバイクから降りた。

「観念しろ。偽の和知南。」ヘルメット内蔵のマスクを外した。

「時間切れだ、大文字伝子。」伝子は、ドームの電光掲示板の時計を見た。

 5時5分前だった。伝子はヘルメットマスクを被り直して叫んだ。

「撤収!!皆、散るんだ!散れ!!」伝子はまたバイクに跨がり、その場を離れた。

 東京ドームに爆発音が響いた。

 翌日。午前10時。ある病院。

 ここは、テラー・サンタの義理の母親、紅林貴子が入院していた病院だ。事件の後、芦屋三美が芦屋グループで接収、特殊な病院として、医療を再開していた。

 その事情を知る者は、僅かな人数だ。

 集中治療室Aとプレートのある部屋の前に、久保田管理官と伝子は来た。元は手術室だった部屋だ。ベッドは一つ。他の空間には、沢山の聞きが並び、職員が作業をしている。

 伝子は偽の和知南の傍らに座った。


「私を殺さないのか?」「そんなことはしない。」「生かさず殺さず、か。」「それは『那珂国』のやり方。ここは日本だ。」「・・・レッド・サマー。次の幹の名前が知りたいのだろう?」「何故、幹は『順番』なんだ?一気に攻めた方が効率良くないか?」「そんなこと知るかよ。」「何故、本物の和知を殺した?」「優秀な探偵だった。だから、私に気づいた。目黒区連続レイプ事件の時、私たちは親友だった。だが・・・一瞬だった。中津は利用価値があると思っていた。だが、少し誤算だったな。」「計算違い、と言うべきじゃないのか?」「一つだけ、教えてくれ、大文字伝子。何故、躍起になる。マフィアの侵攻に。お前、一般人だろう?」「行きがかり上だ。義理だ。人情だ。皆、那珂国人のお前には分からないことだ。」「いや、分からないのは、私が『生きた屍』だからだ。皮肉な末路だな。」「私は、アンバサダーと呼ばれている。『平和への案内人』だ。」


 伝子は、合図を送った。担当技師が、偽和知南ことホンファ伊東に繋がっているコンピュータの電源を切った。偽和知南の視線の先にディスプレイがあり、視線を画面のキーボード上で動かし、カメラがその動きに合わせ察知、文字が映し出されていた。偽和知南の四肢はもう動かない。口もだ。耳は聞こえる。目も、頭脳も動く。だが・・・。

 高遠の最後のアイディアで、ドームの時計の表示をずらしていた。渡が頑張ったお陰で、被害は最低限で済んだ。自ら自爆スイッチを押した、偽和知南以外は。

 伝子はキーボードから手を離し、席を立った。立ち会っていた久保田管理官と部屋を出た。

 午前11時。久保田警部補の車の中。

「残酷だと思うかね?大文字君。」伝子は、黙ってかぶりを振った。

「ホンファは、君以外とは話したく無いと言った。私たちには、まだ『次』がある。放っておく訳にも行かなかった。」

「叔父さん。大文字さんは分かっていますよ。」と運転席の久保田警部補は、久保田管理官に言った。

 午後1時。伝子のマンション。

 高遠と伝子は、EITO用のPCの前に座っていた。

「レッド・サマー。もう冬だけどね。ご苦労様。会議は明日にしよう。敵の名前くらいは皆に衆知しておくよ。」そう言って、理事官は電源を切った。

「変な名前の幹部ばかりね。」と藤井は言った。

「センスがないのよ。」と綾子が言った。

 その言葉は、外の『ひょう』の音でかき消された。

 ―完―


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