第2話・「個人事業主」
僕は元同僚に勧められるまま転職サイトに登録し
会社を定時で上がっては、さまざまな会社の面接に足を運んだ。
会社を辞めようというアドバイスに耳を貸すのは「普通」なら聞き流すだろう。
僕がそれを聞き流したのは、アドバイスをくれたのが
僕の勝手をよく知ったる元同僚だから、というだけでなく
彼が「尊敬に値する人物」だと思っていたからだ。
自分の言葉を持っている人は真に尊敬に値する。
ロボットではない、自分の信念を持っているということだから。
多くの人が借り物の言葉を使っている。
それというのも自分に自信のなさが伺えるからな。
彼はよく言っていた。
『自分の目と耳で見たものしか真実と断じない』とね。
これだけ聞くと、ただの融通の利かない人物に思えるかもしれない。
しかし本当の意味で人を尊敬したことのない僕にしてみれば
尊敬の念を抱かずを得られなかった。
これは僕にしてみれば人生で初めてのことだった。
どんな著名人や起業家でも、まして両親でもない。
一介のサラリーマンに対して尊敬の念を抱いたのだから。
自分の独特の言葉を持っている
それだけでも自分の人生を生きていると言える。
元同僚との出会いは、僕にとってとても大きかった。
智者と話すと自然とエクソシズムされるんだ。
立場的強者に影響されることのない、自分の哲学を持っている。
真に自分の中に芯が通っているからこそできること。
『借り物の言葉』でない独自の強さがある。
多くの人が絶対的強者に心酔し、
自分の言葉でなく他者の言葉を借り、虎の威を借る狐になる。
絶対的強者の影響を傘に着ることなく、自分の信念を持って生きるー
それだけの生き方をできる人が、どれだけいる?
それが「自分を生き切る」ということなんだ。
そのことが自分の人生を真に動かす、ということであるし、
そういう人に出会えたことこそ勝利なのでないだろうか。
しかしその当時は「興味があるから話を聞いてみる」という程度で
会社を辞めよう、ということに関しては本気ではなかった。
何社か話を聞いて巡り回ったが、
どうしても転職という気が湧き上がらなかった。
決定打になりうる会社がないのか。
そんな中、ある年の年末のことだ。
フリーランスの人と一緒に働いている、
という会社の面接に行ったことがあった。
僕にしてみれば「フリーランス」という単語を聞いたのは生まれて初めてのことだった。
生まれて初めてではあるのだが、なんだか「自由」そうな感じがして
とてもいい響きに感じたものだ。
これなら働き方が自由な人生を送れるのでないだろうか?
フリーランス、いわゆる「個人事業主」というやつだろう。
その会社の人と面接をして、個人事業主という生き方に興味を惹かれた。
この個人事業主という生き方について探す方向に、僕は方針を変えたー。
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