第5話 この世界③
路面電車、揺れている。窓から見える景色、いつもと同じ。建物。本物の夕日というものがあると聞いた。何時か見てみたい。ここからは、人工燈の夕日しか見えない。
これから学校へ向かう。三年前に探索者になったけれど高校には、高等部には通っている。
前世紀では定期とか電子パスなどを利用して電車に乗っていたらしい。
現在は統一機構が一律で管理していて短命種は無料で乗れるからお金を払う必要がない。というかほとんどの事にお金を払う必要がない。
小学校、初等部、中学校、中等部までが無料で一律化されている。カリキュラムも一緒だ。
高校、高等部などの高等教育は任意だけれど、今後のために進学はしていた。学費を稼ぐは血反吐が出るほど大変だったし、子供である事を強く実感させられた。
「なぁなぁこれ見た? すげーよな」
電車の中では同級と思わしき男性達に端っこに追いやられている。ぼくがいることを理解しているのに彼らはそのまま居座る。ぼくが隅っこで狭い思いをしても、彼らはそれを保持しようとする。背中で押されて壁に押し付けられる。広い空間があるのにこのざまだ。
迷惑に思っていながらも争いを避けるために縮こまっている。これがボクだ。彼らはボクを陰キャだと言う。
電車を降りて学校へ向かう。
同じ学校の人たちが楽しく喋りながら歩く中、下を向いて歩く。
幼馴染の聖女を見かけても、ボクは目を反らして見ないように歩いた。隣に背の高い男子がいるのですぐわかる。自分と彼の違いに絶望する。これらの身体的な特徴や差は決して覆ることがない。
学校に入り、教室に入り、自分の席が複数人に占拠されているのも当たり前なのでため息を押し殺す。時間まで屋上前の階段か、誰もいない棟を探して休む。ちなみに屋上には入れるけれど、家庭菜園部が野菜を育てていて盗まれた事があるので不用意に近寄ると犯人にされる。された。
保健室登校は無理。保険室在住の養護教諭が美人で人気がある。ぼくが行くと学校での立場を考えて保健室登校を視野に入れてくれているのがわかる。でも無駄に良くしてくれるので、先生を好きな生徒に目の敵にされて困る。
学校が楽しい場かと問われると困る。みんな嫌いだ。みんな嫌いだと笑ってしまう。
ポケットから取り出したカードで無料の小説を表示して、読みながらホームルームを待つ。
ホームルームの始まるチャイムが鳴ったら教室に入り、空いた自分の席に座る。先生の話をぼんやりと聞き、電子端末を使って授業を受ける。休み時間は席が占拠されるので逃げる。
席移動が自由な授業は最悪だ。席が占拠されるので空いている席を探して座る。移動した先の席で隣の子になんでここに座るのかと睨まれるけれど、空いているのがここだからと心の中でごめんと謝る。ぼくの席を占拠している人達に言って欲しい。
残念だけれど自分の席に居座ったところで、そこを使いたいと言われれば強制的に移動させられる。そのまま居座る度胸も意味も無く、無視すると椅子を蹴られる。
チームを組めと言われる授業はサボる。居場所が無いから。それが一番精神衛生上良い。それで先生に注意されてもぼくは参加しない。親に言うと言っても無駄だよ。親はすでに育児を放棄している。文化祭とか体育祭とか、朝礼とか長い校長先生の話も全てボイコットする。それが精神衛生上ぼくにとってもっとも良いからだ。ボイコットは違うかもしれないけれどニュアンス的には一緒だと思う。サボる。
みんな勉強とか恋愛とか趣味とか、目をキラキラさせながらお喋りしている。ぼくは濁った眼で心を殺している。
特に恋愛の話は多い。
恋愛話の次に多いのがダンジョンやラビリンス等の攻略動画の話だ。ぼくも良く見る。話しに混ざりたいけれど混ざれるわけもなく、盗み聞きしているのを申し訳なく思う。いや、違うのです。聞きたくて聞いているわけじゃないのです。あぁ神よ、聞こえてしまうのです。
時折トイレで絡まれる。カツアゲとかそういうのがある。カツアゲされる方が悪いという風潮は嫌いだ。先生に言って止まるのかと言えば否で、相手を殴った場合、罰を受けるのはぼくの方だ。例えぼくが先に殴られていたとしても。
だってぼくの性質は盗賊なのだから。
悪い事をしているのは彼らなのに、先生に訴えたぼくはダサい奴になる。
ヤンキーは嫌いだ。良いヤンキーは大体なんちゃってチャラ男でヤンキーとは違う。ヤンキーという言葉自体が良くないと思う。ヤンキーが猫に優しくしていたらなんなのだ。カツアゲしてもいいのか。人に迷惑をかけてもいいのか。お洒落なら何してもいいのか。
大体いい奴だと言われているヤンキーは幻想で、ぼくには敵でしかない。
中等部の時、一度だけぼくの教科書などを捨てたり汚したりした女子生徒達に、同じようにしたことがある。
その女子生徒達は自分達だけが被害者のような面をしてぼくに詰め寄って来た。
先生は誰の味方って女性徒の味方だ。
「ぼくはよくて、相手はダメなのですね」
そう言ったぼくに先生は激怒した。
「証拠も無いのにぼくが犯人なのですね」
そう告げると先生は頭ごなしにぼくを全否定した。
女生徒の親たちもぼくを怒った。
「貴方の娘にされたことをやり返しただけです」
そう告げると。
「私の娘がそんなことするわけないでしょ⁉ これだから親のいない子は‼」
親と子は関係ないよ。
後ろで目を反らす女生徒達は興味無さそうにしていた。嘘をつくことに罪悪感を覚えないのだろうか。覚えないのだろうな。
まぁ……犯人はぼくなのだけれど。
彼女達の彼氏やクラスメイトの男子に呼び出されて責められた。殴られたり踏まれたりしたけれど、ぼくは殴り返さなかった。
弱い者にしか攻撃しない臆病者とか、女子に暴力を振るう最低野郎だとか散々言われた。今君たちがしているのはまさしく弱い者いじめじゃないのかと思ったし、誰も助けてなどくれなかった。
世の中なんてこんなものだ。
人は人に基準を付ける。
可愛い子、かっこいい子、頭の良い子、運動のできる子。
学校内で一番良いと言われる人を好きになるのってなんなのだろうね。
クラスのマドンナ的存在を好きになるのって、その子に優れた所があるから好きなのかな。容姿の良い男子生徒に憧れる。本当にそれでいいのね。容姿が良ければそれで本当にいいね。でも女性が化粧するのを見れば、女性にとって見た目がどれほど重要なのかが良くわかる気がする。気がするだけ。ボクは女性じゃないもの。おこがましいよね。
こういうところを自分でもウザいと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます