第2話 両親
長い髪をまとめる。
髪を伸ばしているのは、昔存在した侍達を模すため。彼らは覚悟を持った人達だったらしい。ぼくにも覚悟がある……なんて言うのは嘘。そんな大した覚悟は無い。ただ単に伸ばしているだけで、願掛けだと言い張りたいけれど、掛けるほどの願いや望みが無い。
何時かこの髪を切ってくれる人が出来たらいいな……。
前途に述べた通り、ぼくの性質は盗賊だ。
短命種(人)は十二歳になると己の性質と向き合うことになる。
早くて器用で運がいい。その反面、力や頑強さにかける。
ぼくの両親はお世辞にも褒められるような人達ではなかった。
父親はホスト。母親は放蕩者だ。
親との折り合いが悪く、家から逃げ出した母が、ホストの父と寝て、おろす時期を逃したから産んだのがぼくだ。
その後、母と父との折り合いがうまく行かず、ぼくは母に引き取られ、母は別の人と再婚し、その相手ともうまく行かず、ぼくを捨てて出て行った。良くある話だ。
血の繋がらぬ父が、ぼくを愛さなかったのは言うまでもなく、そもそも父にぼくを育てる義理もない。そもそも血が繋がっていないのだからそれも当然で。
どうしてそんなことがわかるのかと言うと、母が自分でそう言っていたし、再婚相手の父の様子を見れば、自分が愛されていないことも良くわかる。
お前を産んだのが最大の汚点だと話す母が、ぼくには不気味でならなかった。
ぼくの面倒を見てくれたのは、幼馴染の両親だった。
ネグレクトで放置されていたぼくに、温かいご飯や愛情を与えてくれた。
他人のさらに他人から愛情を教わるなんて変な話し。でも法律上の父がぼくを嫌う理由にも共感はあった。愛する女性が別の誰かと作った子供だ。血の繋がっていない書類上だけの赤の他人。身内で辛くておぞましい。いっそう清々しいくらい赤の他人の方が複雑な気持ちを抱かずに優しくなれるのかもしれない。
今のぼくが正しい者かと言われれば、自信は無いけれど、今のぼくが生きていられるのは間違えなく幼馴染の両親のおかげだ。
それも十二歳までの話。
十二歳になり、自らの性質を知る事になる。
こんな両親から生まれたぼくの性質が盗賊なのは、らしいと言えばらしいし、幼馴染の性質が、幼馴染の両親から引き継ぐのにふさわしいものだったと言えば、まさにその通りだった。
中等部の頃が一番悲惨だったかもしれない。
避けられる日々も、殴られる日々も、孤独な日々も、物を汚され隠される日々も、今に見ておれと奮い立つより先に、ただ虚しくてやり返す気になれなかった。
これだから親ナシは育ちが悪い――好きでいないわけじゃないよ。
親がいないから素養が悪い。親の素養が悪いから親がおらず子供の素養も悪い――好きでいないわけじゃないよ。
屑な親から生まれて来た屑の子だ。
痛みを言えばキリがなく、だからなんだと言われればそれまでで、甘ったれるなと正論で殴られるし同情して欲しいのと言われる。
この人達は両親に望まれて生まれて来た。それに対してぼくは、自分が何のために生まれて来たのかわからなかった。
賊には何をしてもいいんだって。
それは多分半分正解で、半分間違えている。
元の世界だったら多少はまともだったかもしれない。元の世界でも何も変わらなかったかもしれない。過去を懐かしむ人達を見ると、少しだけそんな事を思う時もあった。
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