第36話 足掛かり
「それで、これからどうするのじゃ、ドルンドルンよ」
降り
とはいえ、力を付けて、それでこの転生術とも言えるグラサンの力を打ち破れるかと言えば、それはそれで怪しい。また、奴の正体、目的も未だ不明のままだ。
「つまり、グラサンとやらの出方次第という訳じゃな。アンプル殿は、まあ前にも言った通り、誰とどういう繋がりがあるのか、はっきりした事は分からぬが、調べてみれば何かが見えてくるかも知れぬ」
「いや、それには危険が伴うだろう、メルにも下手な迷惑は掛けられない。いずれにせよ、時の加速はいつかは収まり、俺も誰かの体を借りて、ここで普通通りに暮らすことが出来るのかも知れない。それなら、それが俺の天命だったということさ」
「ドルンドルン……」
その時は確かに仕方がない。ただ、俺はどんな時代であっても風俗街を作ってみせるし、俺が女の体だというのなら、それはそれで何か他の楽しみ方があるはずだ。もちろん、男として風俗を再び利用しようと始めた夢だったが、少しばかり変わってももはや文句は言うまい。
僅かに沈黙が
「……お姉ちゃ~ん! タツネお姉ちゃ~ん!」
その時、どこかからヒスイの声が聞こえた。心配になって探しに来たのだろう。
「どうする? 天候不順のメル神様として、紹介しようか」
「……神様か。まあ、確かにそうじゃが、人間たち、そしてパンドラの神はお主じゃ」
「そうか」
「じゃから、まあ名前だけは広めておいてくれ。ここでの力は、向こうの地上でも使えるじゃろうから、無駄にはならぬじゃろう」
「分かった、必ず。今回は本当に助かった、ありがとう。天候不順の神としての御業、見事だった」
時代が下るに連れ、俺には思うことがあった。
今後、人間たちがどんな力を持つか分からない。神に対し挑まんとする者、不敬を働く者、また、これはずっと先で、可能性の話でしかないが、神の力を超えかねない者の出現。それらがどういう形で出て来るか分からない以上、神として人間に接することは、やはり長期的にはよくない事態であろう。
依然として照れているメルと、何やらぼーっとしていたリプリエに軽い別れをして、俺はヒスイと合流した。
「ヒスイ! 探しに来てくれたんだね。こんな所に来たら風邪を引くよ、帰ろうか」
「お姉ちゃん? ドルンドルン様?」
「……嘘は付けないな、ドルンドルンだ。その内、そなたの姉に戻る。もうしばらく、タツネの体を借りておくぞ」
それから俺たちは急ぎ集落に戻ると、歓迎を受けつつもまずは湯に浸かった。いや、これは仕方ない、何しろ神の精神体が入っているとはいえ、体は人間なのだ。このままでは風邪を引く可能性があった。いやあ、全く仕方ない。
ヒスイにも一緒に入って構わないと告げたのだが、「神様とは入れないよ……」ということで遠慮されてしまった。
まあ良い、それならそれでやることがある。そう、体を洗わなければならない。必要な事だ。
ごくり。……ぐっ……!
やはり、タツネの意思が存在するのか、必要以上の接触は妨げられるようだった。そういえば、まだタツネの身では具体的にためしていなかったのだ。
「おま……モゴモゴ」
加えてこれも変わらない。いつになれば俺にTSを楽しむ日が来るのだろうか。とはいえ、全く
揉むのではなく、揉まれる感覚がまずは欲しかった。それを得た今、少しばかり溜飲が下がった思いだ。もう半分はいつかの希望として取っておこう。
あの後、雨は更に酷くなり、一時はこれでもかというほどに地面を叩き付けた。それは間違いなく恵みの雨だった。大地に十分な施しを行うと、雨雲は満足したのか、瞬く間に散り散りになって消えていった。
雨が止んだ今、外では村人たちの歓喜の声ばかりがこだましている。
さて夕方過ぎ、俺は村人たちに招かれて、講堂らしき中に足を踏み入れた。とはいえ、それほど立派なものではない。共同の長屋のようなもので、集会や会議をする際に使用される施設だ。
「そこで私は言いました。メルの天候……不順(小声)の神としての力、それを存分に使える場所に来ないか、と」
「うおおおおお、ドルンドルン様!」
俺は世界の創世譚の一つ、メルを誘った時の話をしていた。
「そう、今回の私の奇跡の裏には、彼女の尽力があったのです」
この近隣は確かにメルの力で救われたのだ。その軌跡を目の当たりにし、感謝を抱き、後世に残さないはずはない。今回のメルの力は、パンドラそのものに宿る、人間の信仰心に
もしかするとメルは、正式に天候の神として
そして、俺は重要な教義を彼らに伝えた。それは婉曲的に俺の希望を奨励するものだった。
「神、そして自らを生かしている全ての者を愛しなさい。
魂のままに動くことも、時には恥ではありません。
誰もが生の喜びを嚙み締められる世界を作るのです。
その際、対価が存在するとしても、それは決して間違いではありません」
商業システムがもう少し発展しない以上、風俗業を表立って
そして夜、村人たちの一夜の歓喜の祭りも終わり、誰も彼もが疲れて寝静まった頃合い。
「立場があっても、正しい事だと分かっていても、それでも人間はそれほど強くない。だから間違いと知りつつ、正解に身を
俺はヒスイとピロートークのようなものを繰り広げていた。とはいえ別にエロチックなことではない。灯りを消して、枕を並べて、姉妹で仲良く眠っているだけだ。
好奇心はあるが、正直、それほど強い性欲は抱かない。ましてや相手は少女だ。俺は何となく寂しい気持ちを抱きつつ、一方で、それほど悪くない気分でヒスイに接していた。
「はい」
「だから、お姉ちゃんも、いつでもお姉ちゃんという訳でははないのよ。そういう時、あなたが守ってあげなきゃね」
既に俺の意識もタツネのものが混在し始めているような気がした。ぼんやりと眠気が襲って来る。
「うん、ありがとう、ドルンドルン様」
「良かった。明日から、またタツネと仲良くしてね。……お休みなさい、ヒスイ、そして……タツネ」
こうして俺のタツネとしての転生は終わりを告げた。世界に光を導く力が、少しずつ満ちていくようだった。俺はパンドラに、欲望ぎらつく世界という一面を与えようとしたが、もう一面は、清く健やかなものであって欲しいと願うようにもなっていた。
だが、心の中では風俗への強い思いが渦巻いている。それは絶対的な事項だ。
それが為だろうか、次の転生で、ようやく、俺はその下地が整っているとも言える世代に辿り着いたのだ。
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