第3話 神の試練
ここに神々との契約はなった。
それではどんな試練を与えようか? 実際のところ私は今まで眠りについていたのだ。
興味本位で安請け合いをした。それだけである。
カールのこともよく知らない。ただの復讐のために、世界の理を変えるという事でも私は一向にかまわないのだ。
試練などは建前に過ぎない。ただ久方に現れた興味の惹かれる演目に、彩を添える程度の認識なのであった。何か考えがあるわけではない。
私は寝ていた間の人の世について、カールに聞くことにする。
「オルディーヌ様は、世界から死が取りのぞかれた日よりお眠りになっていたのでしょうか?」
「そうだ。 あれから何年たった?」
「206年ほどでございます」
「ふむ……。案外時間がたっているな。 もう少し早く、神々は飽きると思っていたのだが、まだ存続しているとは」
「いえ、もうほとんどの神々は我らをお見捨てになりました……。 ここ100年ほどは二柱の神様しか残っておりません」
そんな奇特な神は一人は思いつくが、もう一人が分からない。
しかし、カールから出てきた神の名は予想外な二人だった。
「一柱は血と闘争の神、グアール。 もう一人は、饗宴と快楽の神、アーガンドです」
私はその二人の名前を聞いて、頭を抱える。
最悪だ。 それは本当に最悪だった。
死なぬ人の子に力の愉悦と享楽の加護のみを与え続けたのだろう。
それが100年、それは悲劇ですらない。
物語にすらならないただ血をインクにした暴力的な言葉の羅列を見ることになるだろう。
そんな世界では死を返してくれと望む者が現れても仕方がないだろう。
ある意味では救済だ。終わりがあるというのだから。
今すぐにでも返して、私が主神となるというのも考えたが、それでは味気ない。せっかくの契約だ。
それでは楽しめないではないか、せっかく起きた意味がない。
「決めたぞ。試練を、カールよ心して聞け。 お主が望む死は人の子の総意か? 時はある。 お主はあまねく世界の人間を束ね説得せよ。 それが出来たとき私はお主たちに死を約束しよう」
「すべての人をということでしょうか……」
私の試練を聞きカールは身じろぐ、我ながら中々の無理難題ぶりである。
私はその言葉に微笑み首肯する。
幸せで死のない世界を望んだ人々が長く続く生に飽いていたとしても、死の恐怖はけして拭えない。
しかしこれが出来なければ、人の子に死を返す意味がないのだ。
死の恐怖。そして、生の愛おしさを人間は思い出さねばなるまい。
少し八つ当たりもある気がする。
私は死が取りのぞかれたとき確かに拗ねていたのだ。
役目が奪われたこともそうだが、ただ人に不要だと言われたことに。
しかし手のひらをぐっと握りしめ変わらず意思を秘めた瞳の青年に私はやり遂げるという確信があった。
ただ人の子のきらめきにあてられただけかもしれない。
神だって全知全能ではないのだ。
しかし、この瞳を信じてあげたいと思うのだった。
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