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また携帯が震えた。仕方なく携帯を開く。
案の定、届いたメールは【菩薩】からだった。
『勧誘してないヤツが居るぞ』
アイツ、松ちゃんの名前忘れたんじゃないでしょうね。なんて、誰のためにもならない心配を鼻で嗤い飛ばして、携帯をしまった。この20分というわずかな時間に3回も送ってくる暇人に、返す言葉はない。
誰もいない廊下に佇む。昇降口に向かうか、学食に進むか。
残りの時間をどう過ごすか考える間もなく、私は二科への道程を逡巡した。
学習室の扉を押し開けると、室内にこもっていた澱んだ空気が一気にぶつかってきた。
「何ぃ?大久保ちゃん、俺に会いに来たのぉ? 」
薄暗い蛍光灯の下で、椅子にふんぞり返った松ちゃんが、こちらを見てにやりと口角を上げた。
「勧誘はどうしたのよ」
「向き不向きってあるからねぇ」
口元のだらしない笑みが、癇に障る。
「サボってるの、アンタだけよ」
「あらぁ。大久保ちゃんもシゴトしてるの?」
まだ言うか。誰よりも何もしていないくせに、飄々とした態度だけは一丁前だ。
「もしかして、安曇くんのコトぉ勧誘してたぁ?」
軽い口調で放たれた名前に、頭に血が上った。――わざとだ。この男は、わざと人の嫌がる部分を突いて楽しんでる。
「何それ」
「さっき昇降口で喋ってたでしょう? 勧誘じゃなかったんなら、何喋ってたのぉ?」
眉をひそめる私を、松ちゃんは蛇のように目を細めて笑った。軽い調子とは裏腹に、言葉の端々に棘が混じっている。棘は皮膚の奥まで入り込んできて、不快感を煽った。
「もしかして、お父さんのことだったりしてぇ」
その一言で、胸が焼けるように熱い。冗談めかした声色は、的確に急所を突いてきた。
「アンタに関係ないわ」
「そぉ? 一応、親族じゃなぁい」
――頭の奥で何かが弾けた。視界が赤く染まる。
気づいたときには、もう松ちゃんの胸ぐらを掴んでいた。
「大胆だねぇ」
「……アンタなんか知らない」
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