6


「他にどんな名前が上がってるのよ」

「副会長に【鬼編】【偽物】【チャラ男】。まあ【チャラ男】は女子がキャーキャー騒いでるだけだな。そういう意味では【菩薩】の名前も出てたな」

「どれもパッとしないわね」

「【幹部】に言わせればな」


 ベッドに横になる。日差しの温もりに、今にも眠ってしまいそうだ。


「気にならないの? 冗談抜きで、クビになる可能性だってあるんでしょ?」

「恨みでも買ってればな。いくら権限があっても、教師の配置にまで口出しはしねぇよ。前会長ほどこだわりがあるやつなんて、そうそう居やしねぇからな」


 つまり【魔王】は、教師の割り振りも行ってたのね。


「お前が気にしてる理由は、自分の邪魔をされるかもしれないからか?」

「私をなんだと思ってるのよ」

「理事長の孫なんて噂に戦々恐々してるのは、今に始まったことじゃないだろ。権力と言う甘い汁をすすって、好き勝手してるって噂まで出てきてる」

「あなた教師でしょ? 噂なんて信じるの?」

「俺は保険医だし、別に信じてねぇよ。でも、堂々と遅刻やサボりをしてりゃ、誰だって許されてると思うもんだ」

「許されてない。穴をついてる」

「そうだったのか。初耳だ」

 

 嘘つけと言いたかったけど、やめた。口にするのは初めてだったし、予想は確証じゃない。


「どんなやつが会長になろうが、前会長ほど酷くはならないだろう」

「その酷いっていうのは、脅しの事? それとも、彼女のいうところの改革案のこと?」

「前者だ。後者は教師にとって何の意味もない」

「監視カメラも?」

「防犯カメラ。教師は喫煙を禁止されちゃいないし、見張られてもいねぇよ」


 サボりはどうなんだと思いもしたが、保健室にカメラがないことを思い出した。

 だから私も安心してサボってる。佐山も同じだろう。

 

「理事長の孫って、そんなに万能なの?」

「まぁ、身元が保証されてるって思ってる奴らにとってはな。それに、教師の配置を決める権限はあっても、理事長をどうこうできる権利は、会長にはない」

「むしろ、その逆?」

「まあ、そう思ってるやつもいるだろうな」


 春の陽気はこんなにも強かっただろうか。

 差し込む日差しは、瞼を閉じても燦燦と私を照らす。


「強請ってなにも、弱みを握るだけじゃないわよね」

「何か言ったか?」

「なにも」


 権力は、何物にも代えがたい、強さネタになる。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る