5


 思わず、あくびが漏れた。


「新学期早々、サボりか。行動を改める気はないのか」

「それ、不良たちに言ってよ」

「言ってもムダじゃねぇか」


 学校医・佐山は言葉だけで注意して、こちらを見ようとしない。

 私はいつも通りベッドに直行した。


「ねえ、新会長について何か聞いてない?」


 佐山の背中に問いかける。


「弟子だ、後輩だ、親族だ。好き勝手言ってるが、最有力候補は弟子みたいだな」


 どうやらここは、相変わらず情報の宝庫らしい。

 

「どうして?」

「【魔王】が自分の後釜に選ぶんだ。それ相応の意地の悪さがなきゃな。【魔王】はそれを、3年間で選別してたんだろう。もしくは育てたんじゃねぇかって話だ」

「へえ」


 頭の中に「執着がない」と言った【魔王】の笑顔が浮かんだ。

 【魔王】は利己主義者だ。後継のことに、興味を示さない。

 それを知ってるのも、身内だけということだろう。

 つまり、噂は噂の域を出ていないのだ。


「それで? お前じゃないのか、次期会長は」

「なんでそうなるのよ」


 佐山の背中を睨む。


「意地悪くて、会長の近くに居て、【幹部】なんて仇名まで貰ってる。お前の名前が上がるのは自然だろう?」

「私をなんだと思ってるのよ」

「会長のお気に入り」

「どこが」

「近しいヤツは、みんなそう思ってるんだろ?」


 近しいヤツほど、そうは思ってないわよ。なんて反論を、盛大なため息に変える。


「私が会長になったら、速攻クビね」

「サボれなくなって良いならな」


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る