7
今は、堂々と振る舞うことが必要だ。
私は特進科3-Aの教室を、肩で風を切るように歩き、副会長の元へ向かった。刈り上げた後頭部に白いシャツ。副会長に間違いないだろう。
ふと熱視線を感じて横を見ると、【菩薩】と目があった。4・5人の男子生徒と一緒にこちらを見ている。皿の目の中に、1つだけいぶかしむように眉根を寄せている。
皆がこっちを見てるからって、油断しすぎなんじゃない?
顎で【菩薩】を指せば、彼の周囲にいた男子生徒が【菩薩】へと視線を移した。【菩薩】の顔が瞬時に笑顔に変わった。ちなみにマッキーはPCから一切顔をあげず、いつも通り、タイピングの音を響かせていた。
彼の前に立つ。上目使いに睨んでくる顔が副会長であることを確認すると、私はにっこりと笑った。
「なんの用だ」
真面目に話を聞く気はないのだろう。副会長は本を閉じずに、聞いてきた。
私は笑顔をやめた。
「聞きたいことがあるの」
臆せず、見下す。語気は強く。
「新しい生徒会長についてよ」
にわかに副会長の眉が動いた。
良かった。無反応だったらどうしようかと思っていた。外野は反応しすぎだけど。まるで クビキリギスのようだ。狙った通りとはいえ、このざわつきは耳障りだ。これから先、過剰反応せずにいて欲しいけど。
「どうして、私に教えてくれないのかしら? これは必要事項でしょう?」
口を開きそうになった副会長を、睨み目でいなす。
「悪あがきは良したら? 今なら、許してあげる」
なにかを見定めようとしている目をして、副会長は口を閉ざした。今は議論も反論も望んでいない。それは今、私が築き上げようとしている嘘の立場を、容易く崩しかねない。
さっさと切り上げよう。
「じゃ、待ってるから」
笑顔で睨みを効かせて、今度は前方のドアから出ていこうと足を向ける。
「何をしたいのか知らないが、良いのか?」
もう少しで出ていけたのに。
ドアの縁に手をついて、嫌々顔だけで振り返る。副会長は本を閉じ、横目でこちらを見ていた。
「人数、足りてないだろう?」
人数? 何の話だ。
疑問をここで晴らしても良いが、当初の目的が達成されない可能性があることを鑑み、一旦その疑問は飲み込むことにした。代わりに、不敵に微笑む。
「そんなこと、どうとでもなるでしょう?」
出ていく間際、【菩薩】の姿が目に入った。今にも吐きそうな面をしていたけど、それはマッキーが手を止めた理由と関係があるのだろうか?
情報収集か。警備部の予定を確認しなければ。
少数精鋭の特進科でも、視線を集めるということは、針でつつかれるように痛いのか。数なんて関係ないんだなと、肌で実感する。心の中で美樹の清々しい横顔に敬礼して、授業を受けるために二科の校舎へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます