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 今は、堂々と振る舞うことが必要だ。

 

 私は特進科3-Aの教室を、肩で風を切るように歩き、副会長の元へ向かった。刈り上げた後頭部に白いシャツ。副会長に間違いないだろう。

 ふと熱視線を感じて横を見ると、【菩薩】と目があった。4・5人の男子生徒と一緒にこちらを見ている。皿の目の中に、1つだけいぶかしむように眉根を寄せている。

 

 皆がこっちを見てるからって、油断しすぎなんじゃない?


 顎で【菩薩】を指せば、彼の周囲にいた男子生徒が【菩薩】へと視線を移した。【菩薩】の顔が瞬時に笑顔に変わった。ちなみにマッキーはPCから一切顔をあげず、いつも通り、タイピングの音を響かせていた。

 

 彼の前に立つ。上目使いに睨んでくる顔が副会長であることを確認すると、私はにっこりと笑った。


「なんの用だ」


 真面目に話を聞く気はないのだろう。副会長は本を閉じずに、聞いてきた。

 私は笑顔をやめた。


「聞きたいことがあるの」


 臆せず、見下す。語気は強く。


「新しい生徒会長についてよ」


 にわかに副会長の眉が動いた。

 良かった。無反応だったらどうしようかと思っていた。外野は反応しすぎだけど。まるで クビキリギスのようだ。狙った通りとはいえ、このざわつきは耳障りだ。これから先、過剰反応せずにいて欲しいけど。


「どうして、私に教えてくれないのかしら? これはでしょう?」


 口を開きそうになった副会長を、睨み目でいなす。


「悪あがきは良したら? 今なら、許してあげる」


 なにかを見定めようとしている目をして、副会長は口を閉ざした。今は議論も反論も望んでいない。それは今、私が築き上げようとしている嘘の立場を、容易く崩しかねない。

 さっさと切り上げよう。


「じゃ、待ってるから」


 笑顔で睨みを効かせて、今度は前方のドアから出ていこうと足を向ける。


「何をしたいのか知らないが、良いのか?」


 もう少しで出ていけたのに。

 ドアの縁に手をついて、嫌々顔だけで振り返る。副会長は本を閉じ、横目でこちらを見ていた。


「人数、足りてないだろう?」


 人数? 何の話だ。

 疑問をここで晴らしても良いが、当初の目的が達成されない可能性があることを鑑み、一旦その疑問は飲み込むことにした。代わりに、不敵に微笑む。


「そんなこと、どうとでもなるでしょう?」


 出ていく間際、【菩薩】の姿が目に入った。今にも吐きそうな面をしていたけど、それはマッキーが手を止めた理由と関係があるのだろうか?

 

 情報収集か。警備部の予定を確認しなければ。


 少数精鋭の特進科でも、視線を集めるということは、針でつつかれるように痛いのか。数なんて関係ないんだなと、肌で実感する。心の中で美樹の清々しい横顔に敬礼して、授業を受けるために二科の校舎へ向かった。


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