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 【菩薩】の嘆息が聞こえて、視線を向ける。


「対戦相手は大体、決まってるよ。権力欲が強い奴らだったり、会長の懐に入り込もうとしているヤツらだったり」

「会長職を狙ってる奴らの目的は大抵、バッジ制度の廃止や、教師を好きなように弄ぶんやとか言うてるようなヤツらや」

「なんにしろ、この学校を好き勝手したいんだろ。あとはまあ、知っての通り、会長を恨んでるヤツらだな。今はもう居ないだろうけど」

「種目は基本、対戦相手の得意分野や。統一感はあらへん。独楽回しとか宝探しとか変なもんから、50M走とか計算問題とか全うなもんまで、ピンきりや」


 【菩薩】につられたように、マッキーも口にした。


「つっても、どれも噂の域をでねぇよ。まあ、対戦相手の目的なんて、党紀も記録してねぇだろうけど」

「種目や勝率の正確な情報なら、持ってるはずや。そう簡単に見られはせーへんやろうけど」

「それでぇ? 新会長って誰なのぉ? 対策立てる前にぃ、知っておかなきゃでしょお?」

「【幹部】は知らないのかよ?」

「知るわけないでしょ。でもまあ、3年間ってことは、新入生なんでしょうね」


 会長バッジの行方について、【魔王】は卒業式でも口にしなかった。


「当事者も分からない状況で、どう対策を練れって?」

「まずはバッジ争奪戦を遠退ける。同時に、情報収集ね」

「情報収集って、新会長のこと?」

「噂でも特定されてねぇぞ」

「掲示板では大方の噂が否定されてるって話やったで」

「1週間で特定するのはムリよ。そんなことに時間を費やすくらいなら、バッジ争奪戦の対策を練った方が、賢明でしょうね。新入生の情報は、まだ出回ってないんだから。調べられることがあるなら、それは対戦相手や党紀についてよ」

「会長バッジを狙ってるやつを調べろって?」

「そうね」

「党紀については何を調べればええねん。袖の下か? それは俺の仕事ちゃうわ」

「配置や人数を知るだけでも、対策を練る助けにはなるでしょ」

「袖の下はお前の役目だよな? 【幹部】」

「無理言わないで」

 

 【菩薩】は流れるように勉強道具をしまい、立ち上がる。

 いつも通りの解散の合図に、マッキーも美樹も立ち上がる。


「稔流。何かあったら、相談してね」

「分かってる」


 目の前で、綺麗な顔が傾いている。苦笑する顔も小さくおしとやかな足音もまた、モデルのようだ。


「大久保ちゃんさぁ、なんか変わったよねぇ?」

「そんなことないでしょ」

「ふぅん」


 飴を砕く、音がした。

 睨み上げると、松ちゃんが私を見下していた。


 

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