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 去年とは違う、ひとつ上の階に教室。

 教室の中は、相変わらずの風景だった。

 教卓では担任のかおるちゃんが、淡々と連絡事項を告げている。


「あれぇ? 今日はあと帰るだけだよぉ?」


 2年から同じクラスになった松木まつき みつることまっちゃんが、声を潜めもせずに楽しげに話しかけてくる。


「なんであんたがそこに座ってるのよ」

「席順なんてあるのぉ?」

「張り紙あるでしょ。後ろの掲示板に」

「いいんじゃなぁい? ココの人、出席してないみたいだしぃ」


 相変わらずのギャル訛りのうざいしゃべり方で、松ちゃんは私の席に肘を着いた。

 

「【魔王】からの手紙、見なかったなんて言わないわよね?」

「卒業してるのになんで届くんだろうねぇ?」

「手下でもいるんじゃない?」


 学級委員の声が聞こえて、立ち上がる。

 号令を合図に、クラスメイトたちは帰り支度を始める。

 私は再び腰を下ろすと、携帯を取り出した。


「どうしたのぉ?」

「今日、委員会やるわよ」


 分かっていることとは思うが、念のため、メンバーに招集メールを送る。

 自然とため息がこぼれた。

 それを見計らったかのように、松ちゃんの隣の席に誰かが座った。


「ずいぶん遅い登校だね、大久保さん。今日はHRだけだって知らなかったのかな? それとも、予期せぬ事態の発生かな?」

「どこまで知ってるのよ」

「さあ? なんの話かな」


 エンジェルスマイルという悪魔の微笑みで、七倉ななくら さとりは楽しげに私の神経を逆撫でしてきた。


「はじめましてぇ、だよねぇ?」

「そうだね、松木くん。お父さんとお母さんに、この事はどう報告したの?」


 自己紹介をすっ飛ばして、嫌味とは。感心する。


「なんのことぉ?」

「松木くんの家って厳しいんでしょ? 最低クラスに落ちたって知ったら叱られたりするんじゃないのかなって思ったんだけど」


 どうやら七倉は素性を隠す気はないらしい。


「君、誰かなぁ?」

「僕は七倉 悟。今年から君のクラスメイトだよ」


 七倉 悟。彼はいわゆる、情報屋だ。

 

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