第1幕 翻った旗印

1


 眠い。すこぶる眠い。

 休むつもりだったから体は重いし、やる気が出ない。

 

 後ろ足で目の前にやってきた、ジャージ姿の肩を掴む。手を引くと同時に背中に膝蹴りを決めた。男子生徒が地に伏した。

 その音につられて男子生徒が、2・3人振り返る。彼らは一瞬ぎょっとした顔をしたけれど、すぐにニヤついた。


「理事長の孫だと?! いや、【いただき】よりもコイツの方が倒すのは容易いぞ」


 なんて、思っているのだろうか。

 

 勢い任せに突きつけられた男子生徒Aの拳を体重移動で交わして、そのまま回し蹴りをかます。

 男子生徒Bの拳を掴み、襟首を掴んで、放り投げる。

 走ってきていた男子生徒Cの足を掬う。後ろ向きに倒れた。

 Bが痛いと言いながら、立ち上がろうとしている。横目にそんな彼らを待ち構える。すると、彼らの表情が一変した。真っ青になって、背を向けて走り出してしまった。

 気づけばすぐ後ろに、柳がいた。

 逃げた、か。


「今月って、風紀強化月間じゃなかったの?」

「風紀強化月間?」


 呻いて這いずって逃げていくヤツらのジャマにならないよう、柳をつれて端に避ける。


「新入生の最初のイメージを良いものにするために、毎年行われてるそうよ。いつもの倍の人数をかけて、不良行為や持ち物検査に力を入れるんですって」

「そうなのか」

「まあ、これは相変わらず除外ってところなのかしらね」


 風紀強化月間なんていう取り組みも、意識改革には到底及ばないようだ。


「今日は遅いんだな」

「本当は来るつもりなかったんだけどね」

「そうなのか?」

「授業ないからね」


 進級初日の今日は始業式とHRのみ。授業はない。

 なのに当たり前のように出席にする柳は、本当に律儀だと思う。

 去年と同様に教室に行くことを見送ったのなら、尚更。


「何かあったのか?」

「【菩薩】からメールが届いたの。すぐに来いって」


 誰もいなくなったAていに、肩の力を抜く。

 昇降口には、すでに誰もいない時間帯。HRが始まっている頃だろうか。

 一体、私はなんのために呼び出されたと言うのか。


「じゃあ、私は行くわね」

「ああ」


 昇降口へ向かう、足が重い。

 下駄箱を開ける。思わず、柳の足元をチェックした。靴だ。

 私は下駄箱に入れられていた紙切れを、柳に見えるように翳した。

 まだ中身は確認していない。


「柳。今日の放課後、委員会あるから」


 柳がこちらを見たのを横目で確認して、中身を確認する。


「行った方が良いのか?」


 そこに書かれていた文字に、疑問が浮かぶと共に、ため息がこぼれた。


「いいえ、大丈夫よ」


 ああ、戻ってきたか。

 厄介事と、嫌味を言われる日々。私の、異質な日常。

 ほんと、短い春休みだった。


 

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