悪友~入学式は喧騒に喘ぐ~

巴瀬 比紗乃

開演

【開演】



「それでは、入学式を開会致します」


 入学式は2つの体育館で、同時に始まった。式は滞りなく進行し、第一体育館では一足先に、会長挨拶が執り行われようとしていた。

 新生徒会長・煤原すすはら いずみは、おぼつかない足取りで演台に向かった。


「あ、新しく生徒会長になりました、煤原すすはら いずみです。未熟で拙い部分も多く、皆さんに満足していただけるほど、期待に答えることはできないかもしれません。ですが」


 手が震え、声が震える。広げられた祝辞の言葉を追えているのが、不思議なほどだ。


「朝の挨拶を始め、校内の巡回など、生徒会の枠組みを越え、僕にできることを精一杯、行っていきたいと思っております。もちろん、生徒会長としての役目も怠ることなく、最善を尽くしてまいります」


 徐々に緊張がほどけてきたか、言葉を発するに従い声の震えは収まり始た。

 その様に、横に控えた副会長は安堵の息を吐き、中指で眼鏡を持ち上げた。イヤホンの向こうで、誰かが話しているが聞き取れない。

 どうした。

 そう聞くより先に、豪快な音をたて、前方の扉が開いた。


「なんだ」


 そこには逆光に顔を隠した一群が、大きな影を形成していた。

 場内が、ざわめく。


「おいっ!」

「うるせぇ!」


 大声に続いて、衝突音が響く。ざわめきが一気に広がり、数名の生徒が悲鳴と共に立ち上がった。

 そのすべてに顔をニヤつかせ、教師を押し倒したライダース姿の男子生徒は、威風堂々と突き進み、副会長と睨み合う。

 そんな2人の間に、ジャージ姿の男子生徒たちは割り込んだ。

 その一部始終を、校紀委員会の3人は最後尾で見ていた。


「ねえ、これって、不味いんじゃないかしら」

「そうやな」

「だからって、俺らにできることはねぇだろ」


 槇村まきむらは全てを納めようとノートPCを動かして完璧なカメラワークに注視し、西尾にしおは携帯を取り出した。美樹みきはひたすら、怯えるいずみを心配するばかりで、助けに入る様子はない。


「頂いていくぜ!」


 そう言ってライダースは、泉の胸に光るバッジを引きちぎった。

 弾かれて、泉は地にひれ伏す。


「これで俺が生徒会長だぁぁあああ!!」


 響き渡る宣言。雄叫びにも似た歓声。ステージ上は揺らぎ、観客と化した新入生たちは状況が飲み込めずに、呆然と事の顛末をただ眺めていた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る