第7話 結太、あまりのショックに固まる
目の前にいる咲耶の印象が、噂で聞いていたものとは全く違うということに、今更ながら気になり始めた結太だったが、
「殿。お二人が参られたようです」
赤城の声にハッとし、ドアの方へ振り返ると、ちょうど二人が入って来るところだった。
「龍生! おま――っ」
文句を言ってやろうと口を開いた結太の目に、しっかりと繋がれている、二人の手元が映る。
さすがに、〝恋人繋ぎ〟ではなかったし、〝手を繋いでいた〟ということは、事前に赤城から聞いて知っていた。
知っていた……が、実際目にすることによる衝撃は、あまりにも強く、結太は頭が真っ白になった。
咲耶の目にも、当然それが映ったのだろう。まなじりを吊り上げて二人の側へ寄って行くと、
「秋月っ! この…っ、桃花の手を離せッ!!」
言うと同時に、龍生の手首を掴み、ギリギリと締め上げた。
「さっ、咲耶ちゃん! 待ってっ?」
桃花は慌てて咲耶の手に自分の手を重ね、顔を上げて訴える。
「秋月くんは、もう暗くなっちゃったし、外灯の明かりも頼りないし、足下も危ないからって、わたしが転ばなくて済むように、手を繋いでてくれただけなの! だからお願い! 秋月くんのこと、悪く思わないで?」
「――っ!……桃花……」
桃花に
だが、すぐさま気を取り直したように、龍生を鋭い目つきで睨み付けると、早口でまくし立てる。
「そうか、それは気を
「フフッ。そこまで顔を寄せられたら、さすがに照れるね。……まあ、美しい君を、こんな間近で見つめられるのは光栄だけれど」
「なっ――!」
不意打ちで予想外の
美しいなどと形容されることには慣れているはずだが、ここまで正面切って言われたのは、初めてだったのだろう。
咲耶は、まるで汚物にでも
「なんなんだ!? なんなんだこの男はっ、なあっ!?……桃花、こんな男とずっと一緒で、よく平気だったな? 私だったら、五分でも耐えられんぞっ?」
龍生は表情を崩さぬまま、『なんなんだと言われても。僕は素直な気持ちを伝えただけだよ』などと言い、桃花の手をそっと離すと、今度は龍之助に向き直った。
「お祖父様。また赤城に、
人前で、孫にたしなめられたにもかかわらず、龍之助は、何故か嬉しそうに笑っている。
「おお、やはり気付いておったか。赤城の気配を察知するとは、大したものだ。――赤城、おまえもまだまだだな。修行が足りん」
「はっ。お恥ずかしい限りです」
どうやら、孫の感覚の鋭さに、感服しているらしい。龍之助は、何度も満足げにうなずいた。
龍生はというと、そんな祖父の様子は一切気にする風もなく、結太に視線を移した。
結太は、まだショック状態から立ち直れていないらしく、言うべき言葉を失ったまま、呆然と立ち尽くしている。
龍生は
「やあ、結太。おまえがここに来るのは久し振りだな。まあ、中学までと違って、今は学校で会えるしな。わざわざ来る必要もないか」
龍生に肩を触れられたとたん、スイッチがオフからオンに切り替わったかのように、結太はハッと目を見開いた。
僅かに顔を動かすと、龍生と目が合う。――瞬間、今まで吐き出せずにいた感情が、一気に
……が、龍生の
まだ告白もしていないのに、『オレの気持ち知ってるくせに、伊吹さんに告白したってどーゆーことだ!?』などとは訊けない。
「……何か、言いたいことがありそうだな」
龍生は薄く笑う。
結太は『当たり前だ!!』と叫んでやりたかったが、またもググっと
「そう睨むなよ。こうなった事情は、この後きちんと説明してやるから」
(何が『説明してやる』だ! 『説明させてください』だろっ!?)
何度言葉を呑み込めばいいのだろう。
龍生はくるりと背を向けて再び祖父に向き直り、
「お祖父様。申し訳ありませんが、伊吹さんと保科さんを、自宅までお送りする手配をしていただけませんか? 私はここで、もう少し結太と話すことがありますので」
龍之助が
「伊吹さん、今日は僕の
咲耶は『何が事情だ。そんなもん知るか!』などと、龍生に噛み付いていたが、桃花になだめられ、龍之助に指示された赤城に
龍之助は、龍生と結太に気を利かせ、他の部屋へ移ろうとドアを開けたが、退室する寸前、
「お祖父様。おわかりのことと思いますが、また赤城に様子を探らせたり、僕達の話に聞き耳を立てたりするのは、お
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