疑似王女の成り代わり~異世界でアタシは偉くなる~

満仲充

プロローグ

落ち着きのあるオシャレな音楽の流れる喫茶店にて―――。

とある二名の女性客が来店していた。


ひとりは黄金のような金色の長い髪を靡かせながら、いかにも高級そうなドレスを身に着けた態度が悪い女性がひとり。

そしてもう一方は、金色の長い髪を指でクルクルと回しながらポカンとした表情で紅茶の入ったティーカップをジっと見つめる学生服の女性がひとり―――。


「いやー急に見知らぬ場所に連れてこられてビックリしたでしょー?」

「は…はい…まぁ…」

「おっと自己紹介が遅れたね、私はレッドサン・スファレットだ。よろしくね?」

高級そうなドレスを着た女性は先程まで吸っていた煙草を灰皿に擦り消し、自分の名前を名乗った。


「あ…ご丁寧にどうも…あはは」

ヘタクソな作り笑顔で曖昧な返事をした学生服の女性 彼女の名は金城薫子きしろ かおるこ高校三年生の帰宅部。趣味は無いし、夢も特に無い。特徴といえば退屈な時や悩んでいる時に足を組む癖があるくらいだ。

そんな薫子はつい先程までは、学校で授業を受けていたはずだった。

―――遡る事、一時間前。

この日は天気も良く、

ぽかぽかした日差しをそばに、窓から涼しい風が教室を吹き抜けていた。

その影響なのか、まともに授業を受けている生徒は半数も居なかった。

教科書を壁に熟睡する男子、生徒先生に気づかれないようヒソヒソとお喋りする女子生徒、薫子もそんな生徒のひとりに過ぎなかった。

ミニスカートにもかかわらず足を組み、脱ぎかけのローファーをつま先でプラプラしながら授業が終わるのを待っていた。


(はぁ~退屈だな…早く授業終わんないかな。。。)

心の中でそんな倦怠な事を呟いた薫子も、しばらくして睡魔に襲われゆっくりと瞼が閉じていった―――。


“キーンコーン、カーンコーン”


「う、う~ん…」

学校のチャイムで目が覚め、机にうずくめていた顔を起き上げると、

教室には誰ひとり居なかった。


「―――あ…あれ?…もしかして…授業終わっちゃった…?」

受けていた授業は六時限目だった。

本来なら授業中担任に叱られてもおかしくはないのだが。

廊下を見渡しても、なんの物音も無く生徒どころか教師すら居なかった。


「………」

―――なにかがおかしい。

そう思った薫子は、咄嗟に廊下を小走りで歩き出した。角を曲がって階段を駆け下り、一目散に校門へ向かった。


「ハァ…ハァ…」

校門を超え外に出ると、薫子の目には現実ではありえない光景が写っていた。

『よってらっしゃい!見てらっしゃい~!』

『ヨイショっ!!ヨイショっ!!』

『ギ…ギギ…ギ…』

市場のように賑わう道行く人々に食材を売り込む亀、餅をつく兎、身体に灯油を注ぐロボット、人間に交わり二足歩行で歩く動物達の姿があった―――。


これは夢?知らぬ街中に迷い込んでしまったのか?

戸惑っていた薫子を見て、食材の売り込みをしていた亀は驚き叫んだ。

「―――なっ…スファレット王女…!!?何故こんな所に…!!?」

『えっ…スファレット王女…?』

『まさか…スファレット王女がこんな所にいるわけ…』

『ギ…!?ギギギ…ギー!!!』

亀の声は市場中に響き渡り、それを耳にした人々もまた薫子を見て驚いた。


「スファレット…?いや私は薫子…」

『スファレット王女!!!市場に何かご用事でも!?』

『王女!!!今日はプライベートでお越しですか?』

『ギギ!!!ギギーギ…ギギギ?』

薫子の言行に聞く耳を持たず、喰い気味に問いかけてくる人々。

気づけば薫子の周りには沢山の人集りができていた。


「だ…だからその…私はスファレットでも王女でもなくて…」

「―――こらこら君たち、もうその辺にしときなよ」

「…え…?」

人集りをすり抜け、唐突に薫子の前に出て現れたのは顔も見えないくらいフードを深く被った女だった。


「薫子…ほら…こっちだ」

「あっ…ちょっ…ちょっと!!!」

フードの女は薫子の手を握りしめるなり、人集りをかき分け颯爽と走りだした。

『あ!!!お待ちくださいスファレット王女!!!』

『おいっ!!!誰かあのフードの奴を捕まえろ!!!』

『ギギギーーーギギギギー!!!』


―――人集りを切り抜け、薫子とフードの女は薄暗い路地へ出た。

「ハァ…ハァ…もうなんなの…」

「薫子…大丈夫かい?すまなかったね…キミひとりを私の元へ転移させたつもりが、色々と手違いがあってキミの通っているもろとも転移させてしまったね」

「手違い…?転移…?あの…!?ここはどこなんですか!?なんで私の名前まで…!?」

「……うむ」

女はフードを脱ぎ、薫子に素顔を露わにした。


「…えぇ!?」

薫子は女の顔を見て驚いた。それもその筈―――

髪、目、鼻、口、全てが自分と見分けがつかないくらい瓜二つだったのだ。

双子の姉妹かと思われても無理もないくらいに。


「フフ…驚いたかい?」

「ア…アナタは一体何者なんですか…!?もっもしかして、アナタがスファレットさん…?」

「シーッ!!声が大きいよ薫子!!」

(どうなってるの?この人がこの世界の王女様…?なんで私が王女様と…?

分からない…訳が分からない)

疑問と謎が頭の中を駆け回り、薫子は混乱で爆発寸前だった。


「まあまあ落ち着いて、とりあえず…そこの喫茶で茶でもどうだい?今なら市場が繁盛してるから客も少ないだろうし」

―――時を戻して、現在。

喫茶店を出た二人はスファレットの持つ城へと向かう為、夜行の汽車に乗り込んでいた。


「あ…あのースファレットさん、ひとつ聞いても良いですか?」

「ん?なんだい?」

「どうして私をこの世界に…?」

「…うむ、実は君に一生のお願いがあってね。頼まれてくれるかい?」

「お願い…?」

「―――私の代わりに…この世界の王女になってくれないか?」

スファレットはキリッとした真剣な表情で薫子にひとつの頼みを申し立てた。


「……えぇ!?わ、私ですか?な…なんで私!?」

「なんでってほら…私達、顔も声もそっくりじゃないか」

「も…もしかして、私をこの世界に連れてきたのも…!?」

「…ふふ…私はね、実はちょっとした魔法がつかえるんだよ。」

「…まほう??」

「そうさ。それで私に最も似た者をこちらの世界に転移させた…それが薫子、君ってわけさ」

「…へ、へぇー」

思わず脱力感のある腑抜けた言葉が漏れてしまった。

魔法なんて本当に使えるのか?と普通なら信じられないだろう。しかし―――

薫子をこの異世界に転移させたのは紛れもない事実だった為、薫子はなんの疑いも無く魔法の存在を受け入れた。


「…なんで?」

「―――溜まっていった仕事をするのが嫌になってね、自由に生きたくなってみたのさ…王女様も楽じゃないよ」

手の平に顎を乗せ小窓に映る景色を眺めながら、スファレットは虚しそうにそう言った。


「そうなんですか…」

「…頼む!!私を助けると思って…!!」

「え…えぇー、そんな事言われてもなぁ…王女様なんてやった事ないし」

「それは追々説明するから…ね?ね?」

「えー…しょうがないなぁもう」

手を合わせ懇願してくるスファレットの熱に負け、薫子は渋々頼みを受け入れた。


「…ほんとかい!?」

「…ふっ不本意ですけどねっ!!」

全く、どうして私がこんな羽目に…。

薫子は、授業中に寝てしまった事を激しく後悔した。


























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疑似王女の成り代わり~異世界でアタシは偉くなる~ 満仲充 @kirinoranmaru

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