第24話 決勝前。

3番との戦い。

3番はサルドンを強化したような男で、体力と腕力に定評があった。

恐ろしい事にイェイロが放つ火の球すら、手甲を付けた拳で霧散させてしまう。


「マジかよ!?」

「ほらほらほら!手が無ければ勝てないぞ!」


「ちっ、隠し球を出せば勝てんだよ!シィア!奴の気を逸らせ!殺せるなら殺せ!イェイロ!行くぞ!ジェンタ!回復を全部任せる!頼んだぞ!」


シィアが先行して重点的に3番の目を狙い、イェイロと沢山久郎が氷魔法と風魔法を乱発して生成したアイスソードを3番に向けて飛ばす。


恐ろしいのは防御を無視した3番はアイスソードを投げ返してきて沢山久郎をかする度に沢山久郎の傷をジェンタが治していく。


沢山久郎の攻撃がパターン化してきた頃に、沢山久郎は「隠し球!」と言って新たなアイスソードを放つと、その中の一つは脆いアイスソードで3番が殴ったタイミングで粉々になり目隠しになる。


その瞬間に肉薄した沢山久郎は3番にアイスソードを刺し入れて、「雷魔法!」と言って電気ショックで倒した。



2番との戦い。

2番は槍使いで間合い取りに苦戦するし、恐ろしい事にシィアを迎撃して撃ち落としてしまう。

だがファミリア化しているシィアにはダメージはないが、やはり再起動まで時間がかかる。


沢山久郎はその隙を埋める事を求められてしまい苦戦をする。

完全な経験値の差、インラルでもコドクでも強すぎるが故に味わった事のない苦戦だった。


「くそっ、対キング用に考えていた奴を使うしかねぇ!イェイロ!風を起こせ!俺が火をやる!ジェンタ!回復を任せる!我慢比べだ!火炎竜巻!」


沢山久郎が火を起こして、それをイェイロが火炎竜巻にして火に焼かれる中、ジェンタが回復を担当して沢山久郎を守る。

沢山久郎はシィアに攻撃を任せて2番と戦っていくが、4番の毒と我慢比べもできた2番は中々倒れないどころか沢山久郎を狙って攻撃を仕掛けてくる。


沢山久郎は火魔法を放ちながら2番と殴り合いを始める。


「沸る!沸るぞチャレンジャー!」

「そうかよ!俺は!熱いったらねえよ!」


暫くの殴り合いの後で遂に沢山久郎は2番を相手に勝利した。


キングは「よくここまできた。来週が待ち遠しい」と声をかけてくる。


「そりゃ良かったな。俺は2番でも勝てなかったアンタと戦うのは骨が折れそうで辟易としちまうよ」

「そうか?顔はとても楽しそうだがな」


沢山久郎はこんな状況でも笑っていた事に気付くと、「笑ってら」と言ってしまう。


部屋に戻れば祝杯。

だが沢山久郎は気が重い。


アルもジービィもケィですら「勝ったらキングになってコドクの王になれ」と言ってくる。


今日も言われた。

それもおねだりの顔でだ。

ケィは能力の問題で性に奔放で場馴れしているのもあるが、「あの子達、久郎にメロメロなのよ。あんな快感を知ったら戻れないし、他の男じゃ無理よ。妻にして貰いたいけど言い出せないのよ」と話してきていて、沢山久郎は「マジか、わけわからん」としか答えられなかった。

日本では坂佐間舞に告白されるまで女っ気のカケラもなかった。


そんな沢山久郎は調停神との会話がなければもっと苦悩していたと思う。

そもそも日本に帰るだけで周囲の人が死んでしまう強さを身につけてしまった自身は、もう親にも坂佐間舞にも会えなくなる。


それに全力を尽くせない人生の無意味さに気付いてしまった。


インラルにいた時、シィアからは「久郎は強い。もうなんでもできるな」と言われた。だがそれは日本ではなくインラルの中での話。なんでもではない。勉強は無理だ。だがイェイロやジェンタから教えて貰った魔法とシィアと鍛えた剣技があればどんな暮らしも可能だ。


なんでも出来る。

それは何もする必要がないのではないか。

そう思った時、日本に帰ってから先の事が思いつかなかった。


そこにケィが「久郎、私といてよ。他の子達はまだしも、私は生きる為に久郎が必要なんだよ?」と声をかけてきた。

確かにケィの能力は男の精を受けて力に変換する。


不特定多数の男では玉石混交。

弱い精に意味は無い。

そして好みもある。


そこをクリアしていて無尽蔵に精を供給してくれる沢山久郎を手放したくない気持ちも間違っていなかった。


「俺は日本に帰るよ」

「何のために?前にも言った家族に会う為?」


この会話はケィだけとの会話ではない。今も仕事をしながらアルもジービィも、姿こそ見せて居ないがファミリア化している3人も沢山久郎がケィの説得で心変わりをする事を願っていた。


「そうだな。家族には学校に行ったまま帰れてない。後は初めて彼女が出来た日に無理矢理インラルに勇者として召喚された。しかも彼女が目を離した隙に彼女の家でだ。きっと大騒ぎになってる」

「じゃあ挨拶を済ませたら帰ってきてよ。そのインラルでもコドクでもいいから私はそこに行くよ!」


「ケィはナンバーズだろ?辞退なんて出来ないって」

「でも…、離れられないのよ」


ケィの顔には普段の余裕はない。

実の所、勝てずに負けて、永遠に沢山久郎が不動の挑戦者1番として毎年キングに勝負を挑み、自分達は沢山久郎の寵愛を受けて生きていきたいと思っていた。

だが傍目に実力は均衡していて、沢山久郎はキングに勝てる可能性がある。

それはこの生活の終わりを意味していた。


返事に困りながらも「俺はそれでも帰る」と口にしかけた沢山久郎は、ケィから「それにそれだけの力を持って帰ってどうするの?コドクはキングの力とこの世界を生み出した神様の力で壊れないけど、普通の世界なら久郎が歩くだけで天変地異が起きるわ」と言われてしまう。


調停神は何とかすると言ったが具体的に聞いていない。

一年で更に強化をしてしまった。

調停神には手に負えないかも知れない。その恐怖が沢山久郎を荒れさせる。

「言うな!」と怒鳴る沢山久郎にアルやジービィは恐れ慄くが、ケィだけは「だから、なんでもいいの。私だけは居る」と言葉を送ると、イェイロ達も負けていられないと「久郎、そんな女より私です」、「私達がいるよ!」、「久郎、インラルで共に暮らそう!」と言葉を送る。


少ししてアルとジービィも「私達もお供させてください!」、「着いていきます!」と言った。

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