第19話 新たなる力。

目を覚ました沢山久郎は「回復魔法」と呟いて全快すると、世話人とアルから地下の試練のダンジョンに行けと神が枕元に立ったと説明しながら、試練のダンジョンの有無を確認するとアルが案内をする事になった。


「なあ、俺って毒に負けたの?あんまり記憶がなくてさ」

その言葉に世話人が申し訳なさそうに、「久郎様は善戦されていました。4番様の毒霧の中で回復魔法と火魔法を使って果敢に攻められましたが、4番様が距離を取って消耗戦に切り替えたところで、背後から強襲を受けました」と説明をする。


「強襲?」

「はい。ケィ様に御座います。ケィ様は久郎様を背後から襲って殺害されると、棄権をなさって5番様になられました」


「…んだと?」

「ケィ様は『ありがとう久郎。ここまで連れてきてくれて感謝してる』と言っていました」


沢山久郎は聞いていられずに部屋を飛び出すと、2番の部屋に向かったがそこにはかつての10番が暮らしていた。


「蘇ったか」

「お前、10番?」


「もう私は10番ではない。サルドンという。あの戦いは惜しかったな。お前ならば僅差で勝てたのにな」

「ああ、後ろからやってくれたらしいから物申しに来たんだけどな。いねーのか」


「あの女はもう5番の部屋だ。来年までは挑戦者は近づく事も出来ない」

「ちっ。まあいい。次は真っ先にわからせてやる」


沢山久郎は手を振って帰ると、「アル、とりあえず地下に案内してくれ。神様の話だと能力制限されるコドクの中で俺が勝つためには必要らしいんだ」と言い、アルと共に地下へと向かう。


世話人に「ねえ、アルも俺と居た恩恵で強化されてんだけど、一緒にダンジョンに行ってもいい?」と確認をすると世話人は「その者の身も心も久郎様が挑戦者1番である限り、好きにしてくださって構いません」と言って見送ってきた。


地下のダンジョンには予選で殺した魔物達の棲家になっていたが、沢山久郎の敵ではない。

アルにはちょうどいい訓練になるので戦わせると、辿々しい動きだがキチンと魔物を倒す事が出来た。


「なあ、アルはこの場所を知っていたのか?」

「はい。ですがここにくる方は少ないですし、久郎様には不用だと思われました」


「まあそうなるよな。とりあえず後どのくらいあるんだ?」

「私は中には来たことがないので分かりかねます」


そんな会話をしながら地下を降り進むと、夢で見た享楽神を模した神の像が置かれた泉が用意されていて、いかにもゴールだった。


「ここか、なんだ?水でも飲めばいいのか?」と言いながら沢山久郎が泉に近づくと、耳鳴りと同時に「久郎!」、「久郎!聞こえる!?」、「今参ります!」と声が聞こえてきた。


目の前が光ると、光の中にイェイロ、ジェンタ、シィアの姿が見えた。


「イェイロ?ジェンタ?シィア?」

「はい!やっと会えました!」

「女神様に祈ったんだよ!」

「女神様から聞いた!久郎は未だ戦っているんだな!任せてくれ!」


「お前達…、何言ってんだよ?インラルは平和になったのに…」

「私達より久郎です!」

「そうだよ!女神様から久郎が困っているって聞いて、助けられるならなんでもするって言ったんだよ!」」

「そうだ!遠慮をするな!私達は一心同体だ!」


沢山久郎はありがたい気持ちで、「すまない。頼らせてくれ」と頼むと、3人は髪色に応じた光になって沢山久郎の周りを浮遊した。


光が晴れると沢山久郎を見たアルが、「ファミリア…使い魔の力が久郎様の御力だったのですね?」と言った。


「ファミリア?」

「私のいた世界で魔法使いが使役する家族を意味する使い魔です」


「…そうだな。この3人は俺の家族だ。ピンクがかった赤がジェンタ、青はシィア、黄色はイェイロだ」

「ジェンタ様、シィア様、イェイロ様…。久郎様への愛を感じます。私はアルと申します。よろしくお願いします」

アルは恭しく頭を下げてイェイロ達に挨拶をした。


久郎は正直一年も待っていられなかった。

だが助けに来てくれたイェイロ達と夢の中で過ごしながら何があったかを話し、連携の特訓をしていれば一年はあっという間だった。


「久郎、赤い髪の調停神様に会ったんだよね?調停神様からだけど、日本に帰るために二重生活をやり切れだってさ」

「なんだそれ?」

「夢の中では私たちと共に過ごしてもらいます」

「そうだ久郎、夢の中で私達から鍛えて貰い、私達を強化しろ」


沢山久郎は聞いていてクラクラしてくるが、「待て、強化し過ぎたと聞いているからする必要は無い!」と言って強化を拒むと、イェイロが「久郎、肉体の力と魂の力の釣り合いが取れていません」と言い出し、ジェンタが「うん。肉体はあのアルに任せたから魂を鍛えるよ」と続き、シィアが「さあ九郎!」と言って服に手をかける。


沢山久郎は3人を待たせると、とりあえずこの離れていた約半年について聞いてみる事にした。


「半年…ですか?」

「6日の間違いじゃない?」

「それとも久郎は半年で私達は6日だったのか?」


沢山久郎は「嘘だろ?馬鹿じゃねえの?」と言ってしまう。


沢山久郎がインラルを離れて1日と我慢できなかったイェイロ達は、女神像に沢山久郎に逢いたいと渇望していて、3日目の夜に調停神を連れた性愛神が現れて、沢山久郎が戦っている事、助けが必要になるかも知れないと言われた事、その為にインラルで手に入れた強さの半分を捧げる事になると言われても、3人は喜んでその身を差し出したと言う。


沢山久郎は半年の話をしながら「解毒の魔法とかないし、油断したら背後からやられた」と説明するとジェンタは「アタシの出番だね!久郎!支援魔法を教えるし戦闘時はアタシが無毒化してあげる!」と喜び、イェイロは「久郎自体の能力は隠し球として扱い、魔法攻撃は私が行います」と言う。そしてシィアは「攻撃は任せてくれ。迎撃もする」と言った後で、問答無用で服を脱がされた沢山久郎は地獄の二重生活に突入をした。


突入したつもりだったが甘かった。

調停神がイェイロ達といる時に現れて、「現実世界でもう1人メイドを増やして、その子も強化しなさい。今のペースだとキングに勝っても日本に帰れないわ」と言い出して、翌日アルと世話人に説明すると、ジービィと言う少女を用意されてしまい、沢山久郎は残りの約半年は日中16時間はアルとジービィと肉体の強化を行い、眠っている8時間は8時間以上の時間を使い、イェイロからは魔法攻撃を教わり、ジェンタからは回復魔法や支援魔法、シィアからは剣技と身体の使い方を教わって、三姉妹がひとまず満足するまで魂の強化を行う日々になった。


できれば訓練に関しては確認できる相手が欲しいが、シィアも強化されてしまうし現実ではアルもジービィも強化されてしまって、自身がどれだけ強化されたかわからない事だけが問題となっていた。

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