第18話 赤い髪の調停神。
沢山久郎が目を覚ますとアルが泣いていた。
何が起きたかわからなかった。
アルは沢山久郎が起きた事に気付くとベッドサイドに駆け寄ってくる。
「どうした?」
「キング様の御力でも生き返るのに10日かかりました。今はまだ生き返ったのみ、もう一度お眠りください」
この会話で4番と戦って負けた事を理解した沢山久郎が「俺は…負けたのか?」と聞くと、申し訳なさそうに「……はい」と言うアル。
「起きたら教えてくれ」
「はい」
「更なる強化に付き合ってくれるか?」
「勿論です」
話すだけで疲れた沢山久郎は、「寝る」と言って目を閉じるとすぐに眠りについた。
沢山久郎が目を覚ますと真っ暗な中にいて目の前に3人の人間がいた。
1人はピンク色の髪にナイトウェア姿にしか見えない服を着た、見るからにエロス漂う女。
1人は長髪の男で、顔は挑発的だが人懐っこい笑顔。アイドルがライブコンサートで着ていそうな、インドやアラビアの民族衣装みたいな服を着ている。
そして最後の女は赤い髪でジャケット姿。
「ここなんだ?」と口にする沢山久郎に、赤い髪の女が「こんにちは沢山久郎さん」と言う。
「あれ?俺の事知ってんの?」
「ええ、知る羽目になったわ。私は調停神」
「調停神?神様?神様なら俺を日本に帰してくれよ」
「それをしたいわよ。でも今のままじゃ無理だし、本来なら私の仕事じゃないのに、この2人に巻き込まれたのよ」
調停神を名乗る赤い髪の女が呆れるように言うと、長髪の男が「えぇ?俺様は彼女のお願いを聞いただけだぜ?」と言い、ピンクの女は「ごめんなさい」と謝る。
この光景も気になったが、それよりも「今のままじゃ無理」と言った言葉が気になって、「今のままじゃ無理?」と聞くと、調停神は「あなたもわかっているでしょ?強化し過ぎたのよ。今のままじゃ日本に帰るだけで周りの人間が死ぬわよ。そもそもはこの性愛神が愛の力で魔王を倒す世界を作って、わざわざ勇者を日本人から選んだのが悪かったの」と答えた。
調停神の言葉に沢山久郎がピンクの性愛神を睨んで、「お前!」と声を張ると、長髪の男が「キャンキャン吠えるな」と呆れ顔で言い、次の瞬間に殺気を漲らせる調停神から「享楽神?反省足りない?」と言われると、「いえ!俺様は反省しています!」と背筋を正して返事をした。
2人の神には殺気を漲らせるが、沢山久郎には穏やかな顔で「落ち着きなさい。全部話してあげるし、解決の筋道を立ててあげる」と言う調停神に、「マジかよ!」と返す沢山久郎。
頷いた調停神は、性愛神が世界設計を間違えていて、朝から晩まで三姉妹が強化し続けるなんて考えていなかった事、そもそも性愛神が作った世界なので、皆エロスに寛容で、本能でエロスを求めていた所に、日本に帰る目的だけで心を殺してエロスを続けた沢山久郎が青天井で強くなり続けた事。
魔王を倒せる唯一の聖剣すら握れなくなってしまい、ヘルチタニウムを分けて欲しいと享楽神に頼んでしまった事、その時に沢山久郎を日本に返すととんでもない事になると思うと相談をされて、享楽神は自身の世界コドクに沢山久郎を送り込む事にしていた。
説明の後で呆れた顔で「そもそも次元移動なんて、神や方式を知る者には容易く介入が出来るのよ」と言う調停神。
「ならイェイロは俺をキチンと日本に?」
「ええ、彼女達はキチンとしていたわ」
調停神はそのまま「享楽神は良かれと思ったのか、あなたに一定の弱体化の術を施してたの」と説明する。
「弱体化?」
「インラルで得た強さのままコドクに来たら、すぐに全殺しが可能だったのよ。送られてきた時はインラルの1割くらいしか実力を発揮していない」
「え?じゃあ俺って今回も勝てたかもしれないの?」
「そうなるわ。でもまた問題が起きたのよ。本来なら性愛神と姦通した三姉妹との性交でしか起きない強化なのに、貴方とすると貴方側から無意識、強制的に強化が発生した。恐らくあなたにインラルとの適性があって、インラルとあなたの繋がりが強過ぎたのよ。その状況でも強化されたあなたは、インラルにいた時の3倍の強さ、もう今のままでは日本なんて夢のまた夢、インラルにも戻れない。あの三姉妹すら近づけない存在になったのよ」
その言葉に沢山久郎が愕然と俯いてしまうと、調停神は「だから助けてあげるわよ。私は調停神。嫌すぎるけど、こんな馬鹿みたいな話を解決して回ってるのよ」と言って沢山久郎の頭に手を置いて、「起きたら地下にある試練のダンジョンに行きなさい。そこで新たな力を手にするの。そして次の戦いでキングになったら、調停神の名の下に貴方を日本に帰してあげる。まあアレコレと少し条件はつくけど我慢しなさい」と言った。
「帰れる?」
「帰してあげるわよ。まったく、あなたも散々だけど私も散々よ。折角の家族サービスとご馳走なのに邪魔されちゃったんだから」
調停神は困り笑顔で「まあ次は余裕で勝てるでしょうから、優勝したときにね」と言った後で、享楽神に「退屈だとか刺激がとか言って、次の50番目に余計な奴を連れてきたら殺すわよ?」と脅すと、「や…やだなぁ。やらねーよ」と言いながらも何処かに小さく、「ダメだ。呼べなくなった」と呟いていた。
調停神は帰り際、「怒るのも自由だけど、そんな真似しないでさっさと試練のダンジョンに行きなさい」と念押しをして行った。
沢山久郎はその意味を知った時に流石に怒り狂っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます