第13話 よくわからないまま迎えた予選。

よくわからないまま一晩が過ぎた。

とりあえずわかったのは日本に帰れない事。

ケィは今の所味方で、残りの48人は敵対はしていないが敵視、もしくはカモにしようとしていている。


案外ケィも敵かもしれない。

沢山久郎がそう思うのには理由があって、明日予選があると言われたのに、なんの説明もないし、何の訓練もさせない。


だがケィは周りの連中から沢山久郎を守っている。

何かにつけて48人が喧嘩を売ってくるが、その全てをケィが封殺してくれていて「戦力調査はさせないよ」と言ってくれる。


とりあえず大人しくしていたが、1番困ったのはケィから「久郎は人を殺した事ある?」と聞かれた事だった。


「ない」と答えると「あらら、ラッキーを狙うしかないか…」と言われた後で、「まあいいや。明日は予選だから生き延びようね」と言われて雑魚寝をした。



予選と言われてもよくわからない。

周りの連中は殺気立っていて目も血走っている。

体育館が3つくらいの闘技スペース?コロシアムに通された沢山久郎は、観客席に居る連中と一際高い所にいる9人とキングを見た。


キングの顔は相変わらず鎧兜でわからない。

キングは立ち上がると、「よく来た強者達よ!今年も私を楽しませろ!そして私を倒して新たなるキングを目指せ!」と言うと、両サイドにいる先日の2人が手を挙げる。

その手にあわせてコロシアムの端、扉が開かれて魔物達が雪崩れ込んできた。



ケィは「今年は魔物の波!?乱戦だと久郎が危ない。久郎、とにかく1番に死なない!今年はそれを意識しなさい!」と言うと、腰にさしたダガーナイフを抜いて迫って来た豚の魔物を斬り殺す。


「久郎は全部の力を見せないようにしつつ、武器を出して魔物を倒しなさい!」

ケィの言葉に「武器なんてねーよ」と言いながら、シィアと訓練する時に出したアイスソードを思い出して「出るかな?氷魔法」と呟くとキチンとアイスソードが出せた。


人型の魔物に抵抗があったが、魔物の中に散々倒したハウスバッファローが居たので沢山久郎は試し斬りの様相で前に出て剣を構える。


「バカ!ハウスバッファローに単騎で突っ込むな!」と慌てるケィの声。

だが沢山久郎は強化の程を見るために、ジェンタ達に言われて戦っていたので恐怖なんてものは無かった。


観客席からは割れんばかりの声援が湧き上がり、キングも「ほぅ、強者は恐れを知らないな」と喜びを口にする。


「ただのバカかもしんねーよ?」

「そうそう。だってアレって禁止した日本人でしょ?」

「結果こそ全て」

「黙して見届けろ」


そんな会話があることも知らずに、沢山久郎はイェイロの「久郎!貴方では剣の余波でインラルが壊れます。そっとですからね?そして昂ったら言ってくださいね。仕方ないから強化に付き合います」と言った言葉を思い出して、軽く剣を振るうとハウスバッファローは簡単に真っ二つになっていた。


「え!?」と驚くケィに、沢山久郎と言えば「んー、別の世界でも前と同じ強さくらいなのかな」と言って周りを見る。



周りの連中は一瞬で沢山久郎への認識を改めて何とか生き延びる動きにシフトをする。



魔物達の数は減ってきたが終わる気配の見えない状況に、沢山久郎が「ケィ、これってどうなる?どうしたら終われる?」と聞く。


「久郎!アンタ強いね!とりあえず最初に死なないこと、後は最後の10人まで生き残れれば、キング達のトップ10への挑戦権が手に入るよ!」


沢山久郎は向かってくる次のハウスバッファローを斬り倒しながら、「それで俺がキングに勝てれば日本に帰れるんだな?」と確認を取る。


「そうだけど…、勝つの?帰るの?」

「俺はもう2年くらい帰れてないんだから帰るんだよ!」


話しながら魔物を殺していると、ついに魔物は居なくなり人対人の戦いになる。


どいつもこいつも最初の1人にはならないと言いながら血走った目で殺し合いを始めているが、沢山久郎を狙う者も、久郎のそばにいるケィを狙う者も居なかった。


「ケィ、最初の1人ってなんだ?」

「このコドクのルール。挑戦者50人の最初の脱落者は死んで、残りの49人は負けて死んでもこの世界を創った神の力で蘇生するの。そしてまた来年このコドクの戦いにエントリーさせられる!生きて予選落ちすれば次まで衣食住は約束されるから諦めた連中は最初の1人にならないように本気出してるんだよ」


聞いていて沢山久郎は苛立った。

「コイツら帰りたくねーの?俺なんて帰りたい一心でここに居るぞ?ケィは?」

「私は生き残ることに精一杯で帰るなんて夢のまた夢だし、これでも元いた世界だと強くて人を殺しちゃったから帰れないよ」


それで強者は居続けると言ったのかと納得をした。


沢山久郎は苛立ちながら自分に生き残る事と日本に帰る事、これからする事に覚悟を決める。それはインラルの中で沢山久郎を道具扱いして犯してきたイェイロ達に向けた気持ち、日本で待っているかもしれない坂佐間舞に再び会う為に汚れてでも日本に帰ると誓った気持ち。日本に帰る為にイェイロ達と愛のないセックスをして、汚れてでも生き残る事と同義。人殺しになって手を汚しても日本に帰ると一瞬の間に誓った。


沢山久郎は「運任せと行こうぜ!」と声を張ると、「俺は人殺しになる!誰が死んでも恨みっこなしだ」と言い、「イェイロの真似だ!火魔法!」と唱えるとコロシアムの真ん中に爆炎が生み出されて、挑戦者達を一気に飲み込んだ。


死屍累々。

焦げ臭い独特の悪臭の中、咄嗟に人を壁にして助かったものも居たがほぼ無傷なのは沢山久郎とケィだけだった。


ボロボロになった大男が立ち上がりながら沢山久郎を睨んで「テメェ」と言ったが「まだやる?」とアイスソードを向ける。


ケィと言えば「すご、生き残っちゃった」と言ってから、大男に「ジャッカ、さっさと放棄しなよ」と話しかける。


ジャッカは「ちっ、そうだな。これじゃあ本戦に出ても話にならない」と言うと「挑戦放棄」と言った。


すると穏やかな女の声で「挑戦者4番は挑戦を放棄。傷の回復をします」と聞こえてきた。


ジャッカの傷が無くなるとケィが「挑戦の放棄は本戦でナンバーズに挑戦を放棄する事ね。そうすると戦う力も振るえなくなるけど代わりに怪我も何も治るんだよ」と説明すると穏やかな声がコロシアム中から聞こえてくる。


「敗者は自動回復、挑戦者で死んでるのもだね。脱落者は誰かな?」

ケィは言いながら蘇っていくメンバーを見て最後まで助からなかった死体を確認すると「チャリーか…、まあいいかもね。万年15位の奴だから脱落もないし本戦にも行けない。もう10年以上居るって話だったしね」と言っていたが沢山久郎には興味のない話だった。

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