第12話 帰れなかった沢山久郎。
女神の使いは「仕事は終わった。私は聖剣を回収して帰ろう」と言ってボロボロになった聖剣を持って帰る。
「あー…、今日までありがとな」と感謝を告げる沢山久郎に、ジェンタ達は約束だからと最後の強化を願い出た。
最後だからの言葉で6日程使ってしまうが、7日目の朝にイェイロが「行かないで欲しい」、「ずっとインラルにいて」と泣きながら帰還用の魔法陣を描き上げると、沢山久郎はバツの悪そうな顔で「親も友達も心配してるから帰るよ」と言う。
それを聞いた3人は泣きながら沢山久郎に御礼を言い、イェイロは魔法陣に魔法を送る。
魔法陣が光り輝いた所で沢山久郎は「3人の事は忘れない。ありがとう」と言って魔法陣に飛び込む。
「待っててくれよ皆」と口では言うが、脳内は坂佐間舞のことでいっぱいだった。
だがもう2年以上過ぎていて、坂佐間舞には彼氏が居るかも知れないと思うと、少しだけ暗い気持ちになっていた。
「来る時は一瞬なのに帰るのはなげーのな」とボヤく沢山久郎の目の前に広がる光が晴れると、そこは坂佐間舞の家でも日本でも無かった。
石造りの建物。
どう見てもインラルの作りに見えて「アイツら!?帰す気ねーのかよ!?」と沢山久郎が怒ると、目の前には見覚えのない男が立っていた。
見覚えのない男は正直男か怪しい。
全員鎧で覆われた巨体の存在で、沢山久郎は男と認識しているだけだった。
だが「よく来た強者よ」と言った声は男のものだった。
「…きょーしゃ?アンタ誰だ?イェイロは?アイツに魔法陣描き直させて帰らねーと」
「ふふっ、その豪胆さ、そして対峙するだけで震えのくる気迫。今度の強者は期待できそうだ」
沢山久郎が「は?俺の話聞いてる?」と男に話しかけても会話にならない。
男が指を鳴らすと、別の男が2人現れて「チャレンジャーを連れて行け、丁重に扱え」と言って消えてしまう。
困惑する沢山久郎は現れた2人の男に「詳しく話してやる」、「ついて来い」と言われて大部屋に連れて行かれる。
歩きながら沢山久郎が聞いたのは「ここは日本か?」、「ここはインラルか?」という事。
男達は「違う」、「ここはコドク」と答えた。
「俺はイェイロって奴の力で転移魔法陣に入ったのに、なんで日本に帰れない?」
「キング様の御力だ」
「お前は丁度キング様が召喚した際に選ばれた」
「…帰るタイミングと呼ばれたタイミングが合致した?」
「そうなる」
「喜べ」
「喜べねえよ。どうしたら帰れる?」
「帰る?」
「何故だ?」
「なんだよその質問、帰りたいってダメなのか?」
「お前は強すぎる者」
「召喚に選ばれるのは強すぎて幸せになれない者だ」
何となく言いたい事はわかった気がする。
インラルでは最後の方での食事は、全てハンバーガーやサンドウィッチのように手づかみで食べられる物になっていたし、包み紙もよく見ると鉄製だった。
「…それはいいや。それでも帰ると言えば?」
「勝者になるしかない」
「キング様に勝てば帰れるだろう」
「一つ聞くけど帰った奴は?」
「居ない」
「みなこのコドクで真の幸福を得ている」
沢山久郎は頭を抱えながら大部屋に行くと、50人近い連中が沢山久郎を睨みつけてきて「奴が50人目」、「新たなる挑戦者」、「見た目は強そうじゃないな」と言い合っている。
なんだと思って見ていると、女が1人近寄って来て、「強そうじゃん。アタシはケィ。アンタは?」と声をかけて来た。
「久郎、沢山久郎」
「久郎ね。アンタみたいな名前の奴も前には居たよね。なんだっけ?ニッポンジン…だったかな?」
沢山久郎は冷静では居られずに「日本人!?マジかよ!ソイツは?」と声をかけたが、ケィは「でもキングって、ニッポンジンは見掛け倒しだから呼ばないって言ったのになぁ」とボヤくだけで質問に答えない。
「なぁ?」と聞くと、ケィは「死んだよ。ソイツは弱すぎたんだ」と言った。
「死んだ?」
「うん。まあそこら辺も含めて説明してやるって、50番目が来たら準備は1日しかないからね」
ケィは言うだけで言うと、沢山久郎の耳元で「手の内は見せない事。この部屋の人間は明日だけは敵なんだ」と言った後で、「うわ、女臭っ。何君?どんだけセックスしたらそんな臭いになるの?」と言って鼻を摘んで顔をしかめた。
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