第14話 挑戦者1番。

キングが立ち上がると「見事だった強者よ!」と言い、観客席から歓声が湧き上がった。


「明日からは10番と戦ってもらう!見事にこの私の元に来てくれる事を期待している!」

キングの言葉に10番の男が立ち上がると「明日は存分に楽しもう!」と言った。


「ケィ、アレが明日の敵?」

「うん。ナンバー4までは、尺の都合で挑戦者全員が一斉に襲い掛かれるから明日からもよろしくね」


沢山久郎は10番を見て「悪いけど俺は勝って日本に帰るよ」と言うと、どよめきと歓声が湧き上がって沢山久郎を見る。


どよめきの声はあくまで過分な力を持って元の世界に帰るなんて誰も望まないからだ。


そして歓声に関しては、やはりナンバーズとチャレンジャーの力量差は歴然で、皆心折れて挑戦者の体裁は保てているが、心の中では「やれればそれでいいや」くらいにしか思っていなかったが、新参者の沢山久郎はその事すら考えずに勝った先の事を考えている。


勝った先、日本に帰る。

その為にナンバーズすら倒すと言い切った心意気に、ナンバーズは皆笑顔で「来てくれるかな?」、「楽しみだ」と言っていた。


歓声の中、キングが「では英気を養え!」と言って沢山久郎を見送る。

沢山久郎は大部屋に帰ろうとすると、ケィから「今日から1年間はこっち」と言われて専用の小部屋に連れて行かれる。


「左の掌を見てみなよ」と言われて見ると、薄らと1の数字が見えた。


「アタシは久郎のお陰で2だよ。その番号の部屋を使うんだよ」

廊下の奥に1と刻印された部屋が見える。

その反対側の突き当たりに2の部屋がある。


「ここからは別だね。残念かな?アタシもさ。アンタって強いんだね。興奮したよ。後で行ってもいい?」

ケィはイェイロ達が強化をねだる時の顔で久郎を見てくる。


これが普通の男なら飛び付く。

理由なんてない。

多分太古の昔から遺伝子に刻まれている。

ケィの見た目は悪くない。

高校にいれば学校でトップクラスの美少女と騒がれる。


一応だがイェイロもジェンタもシィアもトップクラスで騒がれる。

皆系統が違う。


沢山久郎はそんな事を思いながら、「パス。もう女とセックスには懲り懲り。ケィは昨日から助けてくれてるから仲間だけど、セックスしない」とハッキリと断って部屋に向かうと、廊下にいた先程のジャッカが「よう。必要なかったな」と声をかけてきた。


「何の話?」

「ケィには気を許すな。あの女は大した実力も無いのに万年30番にいる。それなのに、アイツが籠絡した強者は翌年には謎の死を遂げているんだ」


「強いのに翌年に50番になるの?」

「ああ。不思議だろ?死んでしまっては何があったのか聞くに聞けないしな」


「で?アンタはなんで情報をくれるんだ?」

「まあ。来年への投資だよ。来年の予選では1番に殺さないでくれよな」


「なるほどね。まあ俺は今年で帰るから意味ないかもね」

「居たらでいいさ。よろしくな」


ジャッカは4番なのでケィの部屋の側なのだろう。

「じゃあ、期待してる」と言って、手を振りながら自室へと歩いて行った。



沢山久郎はある意味割り切っていて部屋に入る。

豪華なホテルさながらの部屋には、老人の世話人まで居て「お帰りなさいませ」と挨拶をしてくる。


「どうも。世話になります。とりあえず質問はしても平気?答えられる?」


沢山久郎の質問に世話人は「対戦相手に関しては、皆に聞いて皆が答えられる事でしたら」と言うので、沢山久郎は「それ以外かな、とりあえずこの部屋は残りの49個も全部そう?」と聞く。


世話人は「いえ、残りは48個で、ランク毎に部屋の内容は皆異なります」と返す。


「あー、ひとり死ぬからか、最低ランクの部屋ってどんな感じ?」

「この部屋を10としたら1で御座います」


「あらら、恨まれそうだ。食事とかは?」

「10番目までのチャレンジャー以外は皆一律で御座います。久郎様は早速お食事になさいますか?」


「お風呂って貰える?」

「はい。ご用意は済んでおります。お召し物もご要望が無ければ同じ物を用意します」


沢山久郎は帰る時にイェイロから奪われていた学生服を回収して着ていた。


「じゃあおんなじのでよろしく」

「かしこまりました」


沢山久郎は大浴場を独り占めしていると、世話人がメイドの女を連れてきて「久郎様、英雄色を好むと言いますので、キング様から存分に英気を養えとの事で御座います」と言う。


沢山久郎が「パス、いらね」と言うと、女は悲痛な声をあげて泣き始める。


想定外のリアクションに、沢山久郎が「え?泣くの?」と聞くと、世話人は「久郎様が気にされる事は御座いません。ただ久郎様の箸にも棒にもかからず、寵愛も受けられないゴミカスは、ゴミカスに相応しい立場をわからせるだけで御座います」と涼しい顔で言い切り、女は必死に泣かないようにしているが、目からは涙がこぼれ落ちてきて顔色は青ではなく白になっている。

そんなモノを見て、そんな事を言われれば気にしてしまう。

別にメイドの目鼻立ちは整っていて、日本では決してお友達にもなれない存在だ。

ただ何年も日本に帰る為と自分に言い聞かせて、望まないセックス漬けの日々を過ごしたから女は懲り懲りなだけだ。


「あー…、今日はそういうのいらないから、とりあえず肩揉みとかやってよ」

「お優しい事で、ではお前は誠心誠意、全身全霊で久郎様に尽くすように」

「はい!ありがとうございます!」


世話人は食事の用意があるからと立ち去っていき、残されたメイドはマットレスに久郎を寝かせると一生懸命に足の裏から頭のてっぺんまでを揉みほぐしていく。


不思議なことに、強化されてもマッサージは気持ちよかった。

だが気持ちいいが、何時間もやらせるのは心苦しい。


「あー…えっと…名前、聞いていい?」

「アルでございます。抱いてくださいますか?」


「いや、それは本当にいいんだ。とりあえず何時間もマッサージとか疲れちゃうから話し相手になってよ。俺は急にこの世界に連れてこられちゃったんだよね。アルは?」


話し込むとアルもだが、この世界に来た人間は今のキングや、かつてのキングに呼ばれた人達で、皆自分の意思で勤め上げていたり戦ったりしている。


「かつてのキング?今の2番とか?」

「いえ、私も日が浅いので詳しくは存じませんが、今のキング様に敗れた時に満足して、神様から死をいただいたそうです」


「アルはメイドがやりたい事?」

「はい。お仕えする事に意義や生き甲斐を感じています」


「この世界じゃなくても出来るんじゃね?」

「いえ、前の世界ではメイドに理解のない風潮になりましたし、前の旦那様以上の方もおりませんでしたので、存分に尽くせる世界を願いましたら導かれました」


料理人や掃除の者達も皆同じで、このコドクは老齢の者に限っては若い全盛期の姿で時間を忘れて働けるから皆感謝をしているという事だった。


「わからん」

「私達からすれば人智を超えたお力をお持ちの久郎様が、元の世界への帰還を願っている事の方が不思議です」


「それもわからん」と答えた久郎だったが、夕食を食べた時に少しだけわかった。


キングの持つ力の一つで、服も食事も久郎が求めた者が用意されていた。


久郎は久しぶりの日本食に本気で泣いてしまいながら、衣食住が揃ったコドクを離れたがる輩は居ないかと理解していた。

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