第9話 過剰強化のツケ。

イェイロは「久郎なら平気ですよ。それとも不安ですか?先に強化をしますか?私なら是非お願…お供します」と言って袖を引いてベッドルームへと連れて行こうとし、ジェンタは「ガツンと凄いところを見せて来てよ久郎!それから強化に付き合ってよ。聖剣を持った久郎の足手纏いはゴメンだからさ」と言って舌なめずりをしながらベッドルームを指差す。

シィアは「聖剣を持つ久郎、負けていられない。強化を頼む」と言って腕組みをしている。


沢山久郎は「君達強化の必要ないって、断崖絶壁を素手でスイスイと登ってたよ?」と呆れてしまう。


そう、強化をし過ぎた。

試練の剣は久郎が握ると粉々に砕け散った。


飄々とした女神の使いの信じられないという顔を見ながら沢山久郎は「…壊…れた…、どうなんだ?教えてくれよイェイロ」と聞くとイェイロは「前代未聞です。とりあえず強化をしてください」と言い出す。流れに乗るようにジェンタが「そうだよ。壊れた剣は女神の使い様にお任せして強化だよ久郎!」と言うとシィアも「ベッドは久しぶりだから行こう久郎」と続く。


「待ってくれ」と言った沢山久郎は女神の使いに「俺が聖剣を抜くと粉々になります?」と話しかけると女神の使いは放心状態で「なります」と返事をする。



「聖剣抜きで魔王に勝てます?」

「無理です」


「聖剣の強化って出来ます?」

「…女神様に問い合わせてみます」


沢山久郎は耳を疑ってしまったが錯乱した女神の使いは「もしもしポリスメン?」と天に向かって言い出した。ポリスメン?案外向こうの知識ってあるの?そう言えば言葉とか通じてるよなと沢山久郎が思っていると少しして「はっ!?私は何を…」と言った女神の使いは女神に聖剣の強化を願い出た。


「女神様は女神の名にかけて沢山久郎の力でも壊れない剣にすると言っております。出来上がりまでどうぞ訓練をなさってください」


イェイロ達は鼻息荒くベッドルームを目指したが久郎は「それは後だ」と言うとシィアに「剣を教えてくれ。魔王が剣でしか倒せないなら鍛えたい」と頼み込むとシィアは「任せてくれ!」と意気込んだ。


沢山久郎は氷魔法でアイスソードを作り、同じものをイェイロに作らせてシィアに持たせたが一合も切り合えなかった。

仕方なくシィアの分もアイスソードを作って渡して訓練を始める。

しばらく訓練をして基礎動作が身に付いた所でシィアですら「もういいな。さあ強化だ。頼む」と言い出してしまい剣の訓練は終わってしまった。


久しぶりの個室なのでこれでもかと強化を願うジェンタ達に女神の使いがドアをノックして「あまり強化されると困ります」と言ったがイェイロが「お断りします!」と言うと3人はお構いなしで強化を続けた。


女神の使いは「やめてくれ…」「もうやめて…」と言いながら聖剣を強化していくが都度「え?女神様!?まだ足りない!?」と言って泣きながら強化を続けるが沢山久郎は更に強化をしてしまうし毎朝「あの、まだっすか?」と聞きに来て腹立たしい。

ただ「俺、いい加減日本に帰りてーんですよ。もうこの生活嫌なの。よろしくお願いします」と言ってくる姿は被害者のそれで無碍に出来ない。

女神の使いは必死に聖剣を強化すると10日してようやく沢山久郎が抜いても砕けない聖剣が完成した。


「あくまでまともに振れて一度。恐らくそれ以上は剣が保ちません」

そう言われた聖剣は壊れてはいけないとシィアが預かる事になる。


本来は持つことすら不可能な聖剣を持つだけならできるシィアに女神の使いは目を丸くしていた。


「ど…どれだけ強化したんですか?」

「どれだけ拒否権なく搾り取られたと思っているんですか?」


女神の使いは青い顔でイェイロ達を見ると、3人とも世界平和の為にその身を差し出した顔ではなく、素直に沢山久郎との強化だけを楽しんでいる風に見えて身震いしてしまった。


「女神様も応援しております。是非ともインラルに平和を」

「応援してくれるなら、魔王を倒したら俺を日本に帰してくれって伝えてくださいよ」


沢山久郎は女神の使いに手を振ると聖剣の山を後にした。

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